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三部 主と突き進む道 第一章 海底の世界へ向けて

第二百八十話 行ってくるよ

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「おはようメルザ……おーい、メルザー-」
「うーん、もうちょっと……」

 朝の寝起きの悪さは相変わらずだ。そしてよだれを垂らしている。
 余程美味しいものを食べる夢でもみているのだろうか。
 さっとよだれを拭ってやり、先に外へ出て泉を見る。澄んでいて綺麗な泉だ。
 濁っていないのはプランクトンが少ないから……だったか。魚が住むには向かない環境。
 飲み水以外で利用するには適している。俺も赤海水なる術を使えるが、そんなので
体を洗ったらベタベタになるだけだ。
 幻術を使えればそれに越したことはないのだが、残念ながら幻術は利用できない。
 いつか使えるようになればいいなーとは思うのだが……。

「ところでサラ。そこで何しているのかな?」
「ギクリ。なんでわかったのよ……」
「そりゃサラを封印してるのが俺だからだろうな……」
「まぁ。私の身も心も封印してるっていうのね」
「うう、どんどん発言がライラロさんぽくなっていくなサラは」
「ねえルイン。私も、お嫁さんにしてくれるんでしょ?」
「はい?」
「だって、地上に戻ったら主ちゃんと結婚んするんでしょ」
「いや、それは……聞いてたのか。あの言語を」
「私、フェルドナージュ様を救いにいかなきゃいけないし、しばらくは会えないの。
だから……それに私はもう、封印されちゃったんだからルイン以外の人とは結ばれないわ。
責任……とってくれるのよね?」
「えーと、その。俺はメルザと……」
「何抜け駆けしてるっし! 三人で側室になるって約束したっしょ!」
「ちっ。いいところで……」
「おーい、あのー-」
「あんた、もしかしてメルザと二人だけで結婚するつもりだったの? 予定変更よ。
サラは外しましょう」
「俺の話を聞いてくれー」
「何いってるのよ! 私が先制して主ちゃんとの後のりで結婚予定を企画したんじゃない!」
「こらこら勝手に話を進めるなー」
「はぁ? それは私が先に言ったんでしょ。どのみちルインには私たちの責任を取る義務があるのよ」
「ぐはっ、俺の話をまったく聞かずにすさまじい所をえぐってきた……」
「まぁいいっしょ。とにかくそういうことだからよろしくルイン」

 なんか勝手に凄い話をすすめられている。現代日本に側室機能はない。
 そんなことしたらブラッディ……いやデスカーニバルだよ。
 この世界だとどうなのか知らないが、今の状況を顧みるに、ハングドマンになる可能性も大だ。
 それに側室って身分差があるんだよな。
 こいつらと身分差の関係なんてありえない。みんな平等だ。

「と、とにかくメルザと話し合ってみるから……三人とも、俺にとっては大切な仲間だし」
「仲間じゃなくて婚約者よ、ねぇ?」
「そうよそうよ」
「当然っしょ」
「はぁ……婚約した記憶がないんだが、既成事実は炸裂させた記憶がある……」

 そう、俺ははめられた。うっかりしている貴様が悪いと先生には言われそうだけど。
 でも今となっては三人とも大切だと思う。だが嫌な予感がするんだ。
 このままいくと全員責任をとれといって、犬や骨とも結婚させられそうだ。
 そんなダークネスな未来が俺には見えてしかたない。
 そう思案していると、全員さっさと服を脱いで泉につかろうとしたので、急いで後ろ向きになり
桜の木の方へ猛ダッシュした。

「おまえら、また既成事実やろうとしただろうー! もうじきメルザ、起きてくるし!」
「ちっ。逃げ足が速いわ」
「おしかったっしょ。ファナ、胸でかすぎ」
「ふん。女は足よ。足を磨くのよベルディア!」


 くそ、せっかくの水浴びタイムが台無しだ……そう考えていたら、パモが封印の中にいたらしく、出てきて水をだしてくれた! 

 ああ、パモ。お前はなんていいやつなんだ。生涯大事にするよ。
 俺と真っ先に結婚してくれ。

「ぱーみゅ!」
「ああ、助かった。さっぱりするよ。お前も洗うか? 桶とか持ってこないとな」
「ぱみゅ? ぱーみゅ!」
「えっ? 自分のことはいいから、無事でいてねって? パモ……」
「ぱみゅ!」

 名誉賞もののマスコットに励まされた俺の元気パラメーターは満タンになった。
 今の俺なら魔王二体同時でも勝てる! 気がするだけだがそんな気持ちだ。
 しかも風斗で乾かしてくれるパモ。もふもふふわふわしまくった。

「しかし海底神殿てのはどんなところなんだろうな。ブレディーから話を聞いていないから
わからないが、俺のイメージだとダンジョンなんだよなぁ」
「ぱみゅ?」
「後で聞いてみるか。そういやイーファやドーグルはどうしたんだろう。まだ寝てるのか?」
「ぱ、ぱーみゅ!」
「修行してる? 俺より早く起きてたのか。二人共無茶するな。それじゃレウスさんもか」

 だいぶ時間が経ったので戻ってみると、全員下着だった……ちゃんと服を着ろ! 目に毒だ! 
 メルザも起きて水浴びしていたのか、こっちへ来ようとする。

「おいメルザ服を着ろ! うっかりしすぎだ!」
「ば、ばかやろー! 見るなーー!」
「俺のせいなのか!? ほら、先生が来る前に全員着替えなさい! 黒星でぶったぎられるぞ!」
『つまんないわね』

 面白がってやってる場合か! はぁ、神殿に行く前にいい目の保養をもらったよ、まったく。
 さて、全員集めて海底神殿に行ってくるか。
 あれ、ブレディーとドルドーは……ああ。なるほど。

「ドルドー。水浴び、見れなくて残念だったな」
「く、畜生っす! 酷い扱いっす! ブレディー、あんまりっす!」
「ここ、ドルドー、家。一生、ここ、暮らす?」
「だはー、悪かったっす! 別に覗こうとしてたわけじゃあるっす!」
「案外正直な犬だな……よくファナにばれずに犬っぽくしてられたな」
「ふっふっふ、努力の賜物っすよ!」

 ドルドーは桜の木の下に埋められていた。闇の沼のようなもので結界封印されている。
 こいつの性質をよくわかっているようだ。

「ブレディー。海底神殿について詳しく聞きたいんだが」
「ダメ。試練、教えられない。でも、ツインなら、大丈夫。信じてる」
「そうか……試練ねぇ。行ってみりゃわかるか! 後はなるようになれだな。
全員集めたいところだが、イーファたちは忙しいかな」
「だめだぞルイン。我々に何も言わず向かうのは」
「な? 言ったろ? ほっとくと勝手に行くって。な?」
「ちみはせっかちだな。わらを置いて行こうとするとは」
「三人ともいつのまに……もういいのか? それに、多分つれていけないぞ?」
「ツイン、試す? 全員、入れるか」
「そうだな、せっかくならどうなるか見てみたいけど、命に関わったりはしないか?」
「多分、大丈夫。試練、死、目的、じゃない」
「なら全員で行ってみるか。せっかくここまできたんだし、神殿近くでみたいよな」
「遅いぞ貴様ら。さっさと支度しろ。俺は先に行く」

 先生だけぶっちぎりに早く支度していた。そりゃそうだ。先生はもっともっと早く起きて
水浴びをして身だしなみを整えたに違いない。とても綺麗好きだ。
 元日本人である俺も綺麗好きだ。なにせ風呂やシャワーは毎日でも入りたい。

 急いで身支度を整え歩き出す。滝に近づくにつれ、ゴーーという音が大きくなっていく。
 この辺りに桜はない。落ちた水はどこに流れていっているのだろうか。
 そして進んで行くと……滝の薄い部分からうっすらと見える、立派な巨大神殿が目に入った。
 数十メートル高い位置にあるそこからは、神々しい雰囲気すら感じる。

「凄い、なんだこれ。どうやって建造したんだ」
「領域構築。それ以外、不可能」
「アルカーンさんのやってるあれか。想像力もいるだろ。考えた奴と直接話をしてみたいもんだな」
「貴様でもこれは想像できんか。おかしな発想なら得意だろう?」
「別におかしな発想しているわけじゃないですって! 前世であったようなものを想像しているというか」
「つまりその世界は、こちらからすれば随分とおかしな世界……ということだ。別の世界なら当然だろう」
「そうですね……魔族や術なんてありはしない世界だった。だからこそ、そういったものを想像する人で
溢れていたのかもしれませんね。俺もその一人ですけど」
「俺はそうではないが、アルカーンであればつまらんと一蹴するだろうな。
あいつはああ見えて好奇心が
強い」
「あー、それわかります……おっと、話している場合じゃなかった。
入口まで試しにみんなで行ってみよう」

 滝の左右には階段があり、そこを登って行く。結構な段数なのでメルザを抱えて登る。
 俺にとっては軽いものだ。

「入口、でけー! 俺様の何倍もあるぞ!」
「このサイズの何かが出入りしてたってことなのか。巨人……いや、大型の魔獣かもしれない」
「この神殿、魔獣、いない。神の使い、神獣なら、いる」
「そうか、魔獣と神獣じゃ大分違うな。神殿てことは祀られてるのは……イネービュなのか」
「そう。ここ、イネービュ様、第三、神殿。ティソーナ、特別」
「私でも使いこなせないような代物。そしてコラーダと二つ揃ったらどうなるかわからない。
十分気を付けるのだぞ、ルイン」
「ああ。まずはみんなで入ってみよう」

 全員で海底神殿に入ろうとした……が、やはり入れるのは俺だけだった。
 見えない壁に全員阻まれる。念のため封印していたパモも、いつの間にか外に出されていた。

「やっぱりダメか……それじゃみんな、行ってくる。もし時間がかかったらごめん! 
先生、みんな。メルザを頼みます」
「行ってこい。その間、こいつらを鍛えておいてやる」
「はい!」

 俺は一人、神殿の奥へと歩きだした。
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