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第三章 舞踏会と武闘会

第三百三十八話 海臨の福音

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 準備にとりかかるというのがどういう事なのか、まるで理解していなかった。
 ここは海底第四層。最も深き海にして人知を超えた場所。
 想像もしていなかった。
 絶対神イネービュ。とんでもない存在だ――――。


 この第四層は、二層や三層と似た構造だと思っていた。
 金属のような壁に上空は闇色だが、光がある。
 しかし……イネービュがふわりと空中に静止して両手を横に広げると、グングンと分厚い壁が
広がっていき、空間が構築されていく。そして上空の闇は鮮やかな透明な海水色へと変貌していき
透き通るほどの美しい海水が上空に広がる。

 巨大な空間が構築されたと思いきや、そこへ上空から海水が、形を成して降り注いでいく。
 その海水が海の石となり、あでやかな海水色の石畳が次々と構築されていく。
 これだけで一体どれほどのものが驚くだろうか。
 さらには左右に見物用の席が設けられ、ひときわ目立つ高さの位置に、玉座のようなものが構築された。

 間違いない、神の座だろう。

「さぁ。舞台が整った。このイネービュの大いなる加護を授ける。人の子らよ。
戦う者全員、海臨の福音上へおいで」
「す、すごい。僕こんな奇跡見たの初めてかも」
「メルザの領域にも驚かされたが、ここまでくると異次元だな」
「まさに次元が違う存在だね。あの方が手を下せばマガツヒとかフェルドナーガとか、全部小さく見えて
しまうよ」
「絶対神は関与しない。ただ見守るだけなのだろう。それほどに巨大な存在。
一つの絶対神が関与すれば、残りの三柱が動かなければいけなくなるんだろう」
「加護ってもらうとどんないいことがあるのかしら? 子宝に恵まれるとか?」
「それなら絶対欲しいっしょ!」
「子供って結婚して手つないで寝たらできるんだろ? そんなのもらう必要あんのか?」
「メルザ……あなたって本当にメルザね……」
「君、絶対苦労するよね……」
「もうしてるよ! それよりあれだ、加護をもう与えていいのか迷ってるみたいだぞ」

 こちらが騒がしいので少し躊躇しているように見えるイネービュ。すみませんでした! 
 これだけ集まると、うちのメンバーは騒がしくなるんだよ。

「コホン。加護があれば潜在の最大値が上昇する。これはつまり、可能性の可能性引き上げ。
少し難しいかもしれない表現になるね」
「可能性の可能性か。成程」
「なんだそれ、喰えるのか?」
「可能性を食ってどうすんだよ! 誰かが持っているかもしれない新たな力に、更に付加を付けるって
事さ」
「うーん、俺様よくわからねーしよ。そういうのは全部ルインに任せてたからなー」
「メルザなんて可能性の化け物みたいな存在じゃない。これ以上可能性開いたらどうなっちゃうの?」
「俺様は化け物なんかじゃねーぞ! ちゃんと女の子っぽくしてるつもりだ!」
「あー、こりゃいかん。イネービュ様、済ませてくれ。いい遊び教える時間がなくなる」
「ほう。新しい遊び? それは急がないといけないね。では……イネービュの名の下に。
海臨の福音、在る者へ導きあれ。絶対神が命ずる。人の子に、人の子ならざる力を欲すれば、己が糧へと
繋がり賜らん。神の加護セイキ プロスタシア!」

 イネービュの発音と共に青く輝く美しい闘技場。
 特別変わった様子はないが、これで加護が整ったのか? 

「無事授与されたよ。それで? 新しい遊びってなんだい? 興味があるよ。地球という星は楽しい場所
だと聞いているから」
「イネービュ様、そちらは後にしましょう。みな戦いたくてうずうずしているようです」
「それに、準備が必要だし、俺にその道具が作れるかわからないんだよね」
「それなら仕方ない。後にしよう。ところで武闘会には司会が付き物だろう? だれかやってみる者は
いるか?」
「俺がやってもいいか? な?」
「あら、私もやるわ。ベルディスの試合を司会できるんでしょ?」
「ライラロさんとレウスさんの組み合わせ? 新鮮だが平気なんだろうか。どっちも不安要素だぞ」
「平気よ。きっといい連携ができるわ」
「俺も死神なら出せるしな? だしていいか? いいよな? な?」
「それはまずいんじゃ……ジャンルが違うだろ、それ」

 フワーしか言わないあんなの出しても司会にならんだろ! さて、これで準備は整ったか。
 結婚して舞踏会をして、そして今度は武闘会。
 どれも海底でやるような事じゃないだろうが、面白そうなバトルが始まろうとしている。
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