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第三章 舞踏会と武闘会

第三百八十話 消失の竜、リンドヴルム

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 地上に戻るにしても戻り方がよくわからないので、俺はブネに確認してみることにした。

「ブネ、ここから皆でどう帰るんだ?」
「そういえば貴様は別の方法だったな。もう思い残す事はないか?」
「それだとまるで死にに行くみたいだな」
「そういうわけではない。すぐに到着できるがそうだな。気に入られるかもしれん」
「気に入られる? という事は乗り物か何かなのか。セーレみたいな?」

 俺を含めて結構な人数に思える。いっぺんに運べるのか? 

「オクト、エンネア。いいぞ」
『承知した。
我ら幻影を司りし神の遣い。
さもありて尊し海底の古にして古の存在。
蠢くは蒼き甲殻を持つ海底の覇者
リンドヴルムをここに』
「え、えーー? 蛇? いや、信じられないほど巨大なモンスターか?」
「犬竜リンドヴルムだ。消失の竜種と言われる」
「こんな縦長な竜もいるんだな。これも幻影か?」
「いいや、実体だ。触れてみなさい。滅多にお目にかかれない、穏やかな竜だ。噛みついたりしない。
……恐らくは、だけれどね」

 エンネアに言われて試しに撫でてみた。すると……。

 パクッ

「ちょ、おわー!」
「ルインがぱっくりいかれたわ! 見た?」
「見たわ! なんとなくそうなる気がしたわ。 この子雌だし」
「イビンもぱっくりいかれてたわよね。コイツに」
「そういえばイビンはどこかしら。隠れてるのかしら。それにしても見境のない女ね。嫌われるわよ」
「なんか外から聞こえるけど助けてくれー! うおお、赤海星の水鉄砲!」

 口の中へ海水を放出してやると、しょっぱかったのか吐き出された。
 初めて竜に食べられたよ。思った以上に広いんだな、竜の口の中ってさ。

「リンドヴルムは本来人型など食べないのだが。新しい愛情表現だと思ってくれ」
「ギュイオーーーーーン」

 甲高い声で吠えるように泣くリンドヴルム。顔はちょっと犬っぽいな。こいつ。
 これにどうやって乗るんだろうかと考えていたら、その長い胴体で輪を作り、あっという間に
全員囲まれた。
 そして、一瞬で転移した! こんな能力のある竜、見た事が無い。
 これだけの人数を一瞬で転移させるなんて。
 消失の竜種。成程道理で。こんな風に消えたらまず見つからない。希少な竜種なんだろうな。

「驚いたけどこれは助かったよ。ありがとなリンドヴルム」
「ギュイオーーーン!」

 パクッ

「どわーー! 頼むからぱっくり食べるのはやめてくれーー!」
「ふうむ、どうやら相当気に入られたようだぞ。ここにとどまりたいようだ。隠れ家にするにも
ここはちょうどよいのかもしれぬな。この領域から外へ出る事はなかろう」
「リンドヴルムよ。呼び出しにはちゃんと応じるのだぞ。では我らは戻る。達者でな」
「え? えー? こいつ置いてくの? まじでか?」
「帰る気がないのだから仕方あるまい。無理やり返したとて、この領域に来れる以上いつでも
現れるぞ」
「安心しなさい。とても穏やかで優しい竜だ」
「それさっきも聞いたわ! とりあえず口の中から出してくれーー!」

 なぜか消失の竜が仲間になったようだ。これでいつでも海底には行ける……のだろうか。
 再び海水で外に出ると……久しぶりの町で皆各々の場所へと向かっていた。
 
「さて。メルザと会えなくなる前にスッパムでも取ってきたい所だが……温泉は込んでそうだし。
ブネももういないや……いつブネの中に封印するか聞いてなかったな。
時間があるならシフティス大陸に行く前に、各地の現状を把握しておきたいところだな」
「ルイン。少し時間もらってもいいか?」
「ベルドか。ライデンとのケリは俺も付けたいと思ってる。居場所を探ったら必ず連絡してほしい」
「……父上の仇は」
「ベルド。ミリルの父親の仇でもあるだろう。それに復讐を遂げるのが目的じゃない。
あいつが何を企んでいるのか、何を目的として行動しているのか。それがわからなければ行く先で
また危険かもしれない。あいつに仲間がいないとは限らないだろう?」
「確かにそうだ。すまない。冷静じゃ、無かった」
「いや。俺は父親に恵まれた事が無かったが、いい父親を持てばそういった感情になるのかもしれないな」
「君の事を考えて発現するべきだった。あいつと……父上と同格の仲間がいたら確かに、勝てる見込み
が無い。俺たちを、助けてくれるかい?」
「当然だろう。結婚こそしていないがベルド。お前も、シュウも、ミリルも。もう家族のような
ものなんだからさ。それと旅の途中、ベルドたちが見込んだ人物が現れたら、幻妖団メルに勧誘してくれて
構わない。うちの戦える団員はまだまだ多くは無いし。無数の大陸へとつながるこのB所に入れるように
なれば、仕事に困る事もないだろうし」
「そうだな。この団に入れる器かどうかは見極める必要があるが……」
「受付はジャンカの村にいるモラコ族にでもお願いしておこう」
「わかった。その話とは別なんだが、これを君に。ハーヴァルさんからだ」
「うん? 手紙? どうしたんだろう。師匠と特訓するから残ったんだよな、ハーヴァルさんたちは」
「シフティス大陸に行くなら、これを渡してしっかり読んでおきなと伝えるよう言われたんだ」
「後で中身を見ておくよ。ベルドはシフティス大陸に行った事はあるのか?」
「いいや。あまりにも危険な地域だ。父上から厳重注意されていたので行った事はない」
「そんなにやばい場所なのか」
「ああ。ここトリノポート、キゾナ、ドラディニアは、道を外れなければさして危険ではない地域だ。
稀に出る竜種もほぼグリーンドラゴン。もちろんドラディニアやキゾナの奥地は危険な竜種も存在するが
近づかなければ安全だろう。しかし他大陸はそうはいかない。
魔物も……そして人にも十分注意が必要だ。常に」
「常に……か。ありがとう。気を付けて行く事にするよ」
「ルイン。お願いがある。旅立ちの前に一対一の特訓、付き合ってくれないか」
「そうだな。まだ温泉も混んでるだろうし。行くか」
「有難い。どうしても君と戦いたかった」

 俺はベルドと共に訓練場へと向かった。
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