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第四章 メルザの里帰り
第四百三十五話 ここぞという時の妖陽炎
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ゆっくり降下していくと……聖堂跡と聞いていたが、未だに使えそうな聖堂だった。なぜこれが
跡地になっているんだ?
「セーレ。少し離れた場所に降ろしてくれ。あの外観、気になることがある」
「ヒヒン! 重いよー! もう疲れたよ休みたいよー! ヒヒン」
「悪かったって。あの場においてもいけないから仕方ないだろ?」
「なぁ、こいつどーすんだ? こいつミリルの友達とかだったりしねーのか?」
「そんな偶然そうそうないだろう。先生やレミも知らなそうだし、あと知ってるとしたらルシアさんか。
この大陸出身だよな」
「降りたら少し手当をさせてください。私が――――」
「くっ! どこだここは! 近寄るな人間!」
「ば、ばか。今暴れると……」
「ヒヒン! 落ちるよー-! ヒヒン!」
「妖氷造形術! 氷りの滑り台! 捕まれ!」
とっさに氷造形術で滑り台の中途半端なものを構築した。全員勢いよく氷の滑り台で滑り落ちていく。
目覚めた途端に暴れるとか、前途多難だなこれは。
「うひゃー-、たのしーぞルイン! 町にも作ってくれよ!」
「プールは建設中だ。戻ったら出来てるだろう。氷の滑り台じゃなくてちゃんとしたやつを
ニーメが作ってくれてるはずだよ」
いきなり落ちたので聖堂までかなり距離がある位置だ。セーレはここでダウン。
さて……どうしたものか。
「おい、あんた。なぜそんなに人間を嫌う。なぜ……あ」
クアドロプルドラゴンの女性は震えていた。顔は恐怖と絶望の色に見え、こちらを睨んでいるが恐れている。
「力が……力が使えない。寄るな、近寄るな。来るな!」
「あー、俺じゃだめだ。メルザ頼む」
「うん? 俺様腹減ったぞ」
「わ、私を食べるつもりか。それでこんなところまで……くっ」
「……ぶち壊した……先生、頼む」
「私たちは敵ではありません。それよりお怪我を治療させてください!」
「来るな!」
「……レミ」
「あのー、何でそんなに怯えてるんですか? 助けてくれた人に失礼ですよ! もうー!」
「助けただと? お前が勝手に住処へ入って来たんじゃないか! 薄汚い人間が!」
「その前にお前が人間の住処を荒らしたんだろう?」
「よくも人間がそんなことを言えたな! 私たちの住む場所を奪い、食料を奪い、家族を殺し、笑って
過ごしている外道のお前たちが!」
「俺たちは少なくともそんなことはしていない。だが人だろうと獣だろうと生きていくためには必要な行動がある。それは竜であろうとも同じだろう」
「ふざけるな! 上位種族たる我々を巧みに利用し、罠にはめた汚い種族が!」
「ルインさん……いけません。少し彼女を抑えてください」
「わかった」
「来るな! 近寄るな! 触るなぁー!」
問答無用で押さえつける。凄い暴れるし殴られるしで散々だが……医者がそうしろというならそうしよう。
「これ以上暴れれば取返しがつかなくなります。落下した時、骨を折りましたね。良くない方向に曲がっています。痛みに耐えながらでは話もままならないでしょう」
「黙れ黙れ黙れ! 全て人間のせいだ! 全て人間が悪いんだ!」
「なーお前。さっきから人間って言ってるけど、ルインは妖魔だぞ」
「えっ? こいつはどう見ても人間。魔族になんかこれっぽっちも見えない。嘘をつくな!」
「本当だぞ。ルイン、あれ見せてやれよ」
「うーむ。妖陽炎!」
むいーんと横に伸びる俺。先生をはじめ全員その場で凍り付く。
相変わらずこの術はうまくいかねぇ! なんでだ!
「こ、これが妖魔の真骨頂。横に伸びる術だ。喰らい判定がでかくなるデメリットがある」
「その術、何のメリットがあるんですか!」
「場を和ませるメリットがある」
突っ込みを入れるレミに、呆気にとられるクアドロプルドラゴン。先生はクスクスとこらえるように
笑い、メルザもいい顔で笑ってくれる。
いい術じゃないか。よし、定期的に使用しよう。
「今のは妖術の一部だ。ただの人間は妖術なんて使用できない。まず適性がないからな」
「お前が変な形態になってたのはマジックアイテムとかじゃないというのか? 地上に妖魔なんて……」
「いるよ。いや、いたか。俺の知り合いは魔族だらけだ。お前の言う人間というくくりが外見の
問題なら、見た目を少々変えておくが?」
「……もういい。暴れて悪かった」
「ちなみに私は人間ですよ」
「そんなことわかってる! わかってるけど……怪我、治そうと本気でしてるから、もう、いい」
「痛みが引いて少し落ち着いてきましたね。誰しも痛みや不快感があれば機嫌は悪くなりますよ」
「そうだな。俺のいた世界では、悪い虫が巣くうと怒りっぽくなる、怒り虫がいるって言ってたな。
まぁこれは事実寄生虫などが巣くっているパターンが影響することもあるらしいから、一概に間違いでは
無いんだが」
「そうですね。体内に巣くう細菌やウィルスなどが感情に影響を与える事はあるでしょう……よし、これで
ひとまずは安心です」
「ひゃー、先生凄い手際がいいですね」
「これでも医者ですからね。ところであなた、お名前は……?」
跡地になっているんだ?
「セーレ。少し離れた場所に降ろしてくれ。あの外観、気になることがある」
「ヒヒン! 重いよー! もう疲れたよ休みたいよー! ヒヒン」
「悪かったって。あの場においてもいけないから仕方ないだろ?」
「なぁ、こいつどーすんだ? こいつミリルの友達とかだったりしねーのか?」
「そんな偶然そうそうないだろう。先生やレミも知らなそうだし、あと知ってるとしたらルシアさんか。
この大陸出身だよな」
「降りたら少し手当をさせてください。私が――――」
「くっ! どこだここは! 近寄るな人間!」
「ば、ばか。今暴れると……」
「ヒヒン! 落ちるよー-! ヒヒン!」
「妖氷造形術! 氷りの滑り台! 捕まれ!」
とっさに氷造形術で滑り台の中途半端なものを構築した。全員勢いよく氷の滑り台で滑り落ちていく。
目覚めた途端に暴れるとか、前途多難だなこれは。
「うひゃー-、たのしーぞルイン! 町にも作ってくれよ!」
「プールは建設中だ。戻ったら出来てるだろう。氷の滑り台じゃなくてちゃんとしたやつを
ニーメが作ってくれてるはずだよ」
いきなり落ちたので聖堂までかなり距離がある位置だ。セーレはここでダウン。
さて……どうしたものか。
「おい、あんた。なぜそんなに人間を嫌う。なぜ……あ」
クアドロプルドラゴンの女性は震えていた。顔は恐怖と絶望の色に見え、こちらを睨んでいるが恐れている。
「力が……力が使えない。寄るな、近寄るな。来るな!」
「あー、俺じゃだめだ。メルザ頼む」
「うん? 俺様腹減ったぞ」
「わ、私を食べるつもりか。それでこんなところまで……くっ」
「……ぶち壊した……先生、頼む」
「私たちは敵ではありません。それよりお怪我を治療させてください!」
「来るな!」
「……レミ」
「あのー、何でそんなに怯えてるんですか? 助けてくれた人に失礼ですよ! もうー!」
「助けただと? お前が勝手に住処へ入って来たんじゃないか! 薄汚い人間が!」
「その前にお前が人間の住処を荒らしたんだろう?」
「よくも人間がそんなことを言えたな! 私たちの住む場所を奪い、食料を奪い、家族を殺し、笑って
過ごしている外道のお前たちが!」
「俺たちは少なくともそんなことはしていない。だが人だろうと獣だろうと生きていくためには必要な行動がある。それは竜であろうとも同じだろう」
「ふざけるな! 上位種族たる我々を巧みに利用し、罠にはめた汚い種族が!」
「ルインさん……いけません。少し彼女を抑えてください」
「わかった」
「来るな! 近寄るな! 触るなぁー!」
問答無用で押さえつける。凄い暴れるし殴られるしで散々だが……医者がそうしろというならそうしよう。
「これ以上暴れれば取返しがつかなくなります。落下した時、骨を折りましたね。良くない方向に曲がっています。痛みに耐えながらでは話もままならないでしょう」
「黙れ黙れ黙れ! 全て人間のせいだ! 全て人間が悪いんだ!」
「なーお前。さっきから人間って言ってるけど、ルインは妖魔だぞ」
「えっ? こいつはどう見ても人間。魔族になんかこれっぽっちも見えない。嘘をつくな!」
「本当だぞ。ルイン、あれ見せてやれよ」
「うーむ。妖陽炎!」
むいーんと横に伸びる俺。先生をはじめ全員その場で凍り付く。
相変わらずこの術はうまくいかねぇ! なんでだ!
「こ、これが妖魔の真骨頂。横に伸びる術だ。喰らい判定がでかくなるデメリットがある」
「その術、何のメリットがあるんですか!」
「場を和ませるメリットがある」
突っ込みを入れるレミに、呆気にとられるクアドロプルドラゴン。先生はクスクスとこらえるように
笑い、メルザもいい顔で笑ってくれる。
いい術じゃないか。よし、定期的に使用しよう。
「今のは妖術の一部だ。ただの人間は妖術なんて使用できない。まず適性がないからな」
「お前が変な形態になってたのはマジックアイテムとかじゃないというのか? 地上に妖魔なんて……」
「いるよ。いや、いたか。俺の知り合いは魔族だらけだ。お前の言う人間というくくりが外見の
問題なら、見た目を少々変えておくが?」
「……もういい。暴れて悪かった」
「ちなみに私は人間ですよ」
「そんなことわかってる! わかってるけど……怪我、治そうと本気でしてるから、もう、いい」
「痛みが引いて少し落ち着いてきましたね。誰しも痛みや不快感があれば機嫌は悪くなりますよ」
「そうだな。俺のいた世界では、悪い虫が巣くうと怒りっぽくなる、怒り虫がいるって言ってたな。
まぁこれは事実寄生虫などが巣くっているパターンが影響することもあるらしいから、一概に間違いでは
無いんだが」
「そうですね。体内に巣くう細菌やウィルスなどが感情に影響を与える事はあるでしょう……よし、これで
ひとまずは安心です」
「ひゃー、先生凄い手際がいいですね」
「これでも医者ですからね。ところであなた、お名前は……?」
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