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第四章 メルザの里帰り

第四百四十八話 違和感

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 深い溝を抜けてさらに進むが、アンデッドに襲われる気配がまるでない。
 一体どうなっているのか……警戒は怠らず思案する。

「メルザ。この世界ってアンデッドを封印するような結界……なんてもの、あったりするのかな」
「んーと確かライラロししょーが、知り合いに結界師がいるっていってたからあるんじゃねーかな。
どーしたんだ? 突然」
「この村にいる間、ずっとアンデッドに襲われながら、それらを退けつつメルザの里帰りを
済まそうと思っていた。だが、襲われる気配が全くないんだ。なぜだろう」
「うーん、俺様にはよくよくわからねーな。あーーー! あれ、あれだ! 小さい頃からずっと
俺様が登っていた木! 無事だったんだ、よかったーー」
「木? これは木なのか?」

 どう見ても木には見えない、真っ青な上に伸びる何かをメルザは示している。
 こんな木、本当にあるのか? 

「間違いねーぞ。じゃあこっちの……何もねーボロボロな場所が俺様の住処……だったとこか」
「ターゲットに反応はない。近くにいれば自由にして大丈夫だぞ、メルザ」
「うん。あの木のとこに行きてーんだ、いいか?」
「構わない。その下にでもお墓、作るか?」
「うーん、ちょっと考えてもいーか?」
「うん? ああ……構わないぞ」

 メルザを下すと、パタパタと走って木に近づく。念のためあたりを一通り警戒。
 上空も問題はない。吹き抜ける風の音以外何もしない。朽ち果てた村……悲しみの痕跡だけが
残る。故郷として帰る場所としてはあまりにも悲しい。だからこそ、メルザにとって最高の温かい場所を
築き上げよう。それこそがあいつにしてやれる、せめてもの恩返しだろう。

「ルイ―――ン!」
「どうした! 敵襲か!?」
「ちげーよ! こっち来てくれ!」
「なんだよ、驚かせるなって。今行くから待ってな」

 青い木のところへ近づく。改めて見ても不思議だ。今まで見たどんな木よりいびつさを感じる。
 手を触れてみても感覚は木のようだが、木片などが剥がれたりはしない。
 この木事態がマジックアイテムなのかもしれないな。

「俺様よく、この木の上に登ってたんだ。なぁなぁ、上にあげてくれよ」
「いいぞ、ほらよっ……っとと」
「わぁ、ばか。見えるだろ!」
「そう言われても、この高さだと抱えて飛んだ方が早かったぞ……」
「言っただろ、登りてーんだって。わぁ……なつかしーな」

 メルザの腰をつかんで乗せたはいいが、あまりの軽さにびっくりした。
 俺の力が付きすぎたのか、メルザが痩せてしまっているのかわからないが、空気を
持ち上げるかのようだった。

「ルインも登るか?」
「いや、そこはメルザの場所だろう。俺は下で警戒してるさ。いい風が吹いてるし、ここから
見上げる我が主も悪くない」
「にはは! 俺様は高いところに登っていても、魅力的だろ! フェル様のように!」
「いや、フェルドナージュ様がそこにいたら魅力的っていうか蛇が絡みついているようで
怖いと思うんだよな……」
「なぁなぁ、俺様さ。ここにいつか戻って来るんだって思ってたけどさ」
「ああ、やっと戻って来れたな」
「けどよ。俺様はもう、ここにはこねぇ。だからさ、墓はここには作りたくねーんだ」
「そうか。それならどこに作る?」
「ルーンの町に作りてーんだ。ダメかなぁ?」
「ダメじゃない。むしろ賛成だな。何せここまで墓参りに来るのは大変だ。墓は生きてる人の意思だ。
戻ったら立派な墓を作ろう」
「そーいや父ちゃん、俺様が結婚相手をつれてきたら、一発ぶん殴るってよく言ってたな」
「うっ……そういうのってどの世界でも一緒なんだな……」

 そう話している時だった。ターゲットには一切反応は無かったのに……。
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