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第四部 主と共鳴せし道 第一章 闇のオーブを求め

第五百十六話 なぜ無理やりに捕えた?

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 すかさずメージュへと攻撃を開始しようとする女狐だが、直後横に飛びのき警戒を強める。

「勘が鋭いな」
「くっ。あやつも十分に警戒の対象か……」
「ホロロロー」

 上空を飛翔する水のような鳥が、再びメージュの中へと紛れていく。
 シーはメージュが出た瞬間から展開していたルーニーをメージュへ潜ませていた。

「そうじゃなきゃ簡単にビーの許へ行かせるはずないだろ。それに……」
「自分たちはもう、片づけたでありますよ」

 女狐が振り返ると、解き放ったフォア、フォルフ、フォッシュは全て消し去られていた。
 驚くべきはエーの姿。槍と本人から無数の強靭な枝が伸びている。

「くっ……この!」
「……動くな。もういいだろう」
「なっ……!? なぜ魂魄がぶれておる」

 振り返った女狐がエーに視線を向けたその一瞬だった。
 背後から銃口を頭につきつけるビー。それだけならまだ対処の仕様があった。
 いつの間にか剣を携えたシーが、女狐の喉元へ剣をつきつけていた。

「……どうした。なぜそのまま剣をつきつけぬ。脱走した貴様らを殺そうとした相手ぞ」
「俺たちは最初から、あんたたちと戦うつもりはない」
「ならばなぜ脱走した。時が経てば釈放する予定だった。トループにはそう伝えたはずぞ。
……今第九領区をうろつかせるわけにはいかぬ」
「あんたんとこの軍曹は、そうは思っていなかったようだけどな。それはいいとしても明日、約束があるんだよ」
「コーネリウスとか。ふん。貴族の犬である者に敗北しようとは」
「違うって。そもそも思い込みと勘違いが激しすぎるぞ、あんた」
「どういう意味ぞ。コーネリウスの手の者以外、あやつが自分の馬車を使わせるとでも?」
「あいつも俺たちに争いごとをふっかけて負けた口だよ。依頼があるんだと。貴族の依頼をすっぽかせば
どうなるか。そんなこと、あんたならわかるんじゃないか?」
「……」
「ビー! この体、元に戻るでありますか!? 自分、木として生きていくのは嫌であります!」
「ああ、悪い。どうなるか説明すると種明かしになっちゃうからな。数分で戻る」
「よかったであります……」

 かなり真剣な話をしていたところ、わさわさと枝を動かしながらこちらへ来たエー。
 この枝に貫かれて、フォッシュとフォルフはあえなく倒れた。

 その緊張の糸が途切れた途端、女狐は武器を地面に落とし、しゃがみこんで下をうつむいてしまう。
 ようやく、少し話が聞ける雰囲気だ。
 聞く耳持たぬ状態ってのは厄介だが、必ず何かしらの原因があるものだ。
 それはそう。前世でもそうだった。
 辺り一面暴言をまき散らす。そんな人物がいた。その人は数日後自殺した。
 自らの病に苦しみ、それを少し紛らわせるためにそうしていたのだろう。
 難病、その領域に踏み込み闘病を続けていた自分を、外見で判別できなければ誰もわかってなどくれない。

「あんた、どうして俺たちを捕えたのか、話せるなら話してくれないか」
「……病だ」
「病ってだけじゃわからない」
「第九領区へ貴族街からもたらされた病ぞ。発症して寝込んでいる者が数名。
どこの貴族街からもたらせたのかもわからぬ」
「伝染病か。それで俺たちが襲われているのを見て、そこから伝染病がと考えたのか」
「あれはただの夜盗だった。調べはついた。一晩明けたら釈放予定であった。軍曹は……極刑に処しておく」
「極刑にはしなくてもいいけど軍曹からは降格させて上官を料理長にするといい。
こきつかってくれるだろう。人手不足だったようだし」
「貴様らは怒っておらぬのか? 殺そうとした相手ぞ?」
「俺たち、死んでないしその程度のやつにやられる玉じゃないよ」
「完敗ぞ。もう、疲れた。いっそ死ねばこの重荷から解放されるというに」
「っ! ふざけるなよ。死んで解決できるなんて甘ったれるな。そんなの、逃げてるだけじゃないか! 
生きたいのに、生きていたいのにそうすることができない人々の気持ち、考えた事あるのか!」
「シー……落ち着け」
「……済まない。取り乱した」
「ならば貴様はどうしろというのだ。無様な私に」
「後ろ、見てみろよ」

「貴様ら、女狐隊長を放せ! おい、当たらないように撃てないのか!?」
「無理だって。あてたら殺されるかもしれないだろ!?」
「ひぃ。女狐隊長倒れてるよ。初めてみたー、貴重だぞ! 脳裏にやきつけとけ!」
「ああ……しゃがみこんでる隊長の銀髪、なんて美しい……」
「おいおいおい、俺たちの隊長にエロいことしようとしてたんじゃないだろうな! ぶっ殺す!」

 後方に二十人程のトループが集まっていた。恐らく部下だろう。
 酷い言われようだが、今のこいつにはちょうどいい薬だ。

「あんたがなぜ死にたいのか。なぜ貴族から落とされたのか。なぜ病人を見捨て諦めようとしているのか。
そんなこと、知ったこっちゃないし興味もない。
けどな。あんた一人で何でも解決しようとするなんて自惚れも大概にしておけ。
ここにいるこいつら全員の命を預かる隊長だろ? 少しは部下の事を考えろ」
「ぐうの音も出ない。これほどまでに私を罵ったのは貴様が二人目。名前を聞かせて」
「ツイン・シー。そう、俺はツイン、シーだ。第七領区マーサル隊のな」
「ツイン・シー。変わった名ぞ。協力を、強力を頼めないか」
「厄介事、次から次へと増えるでありますね。シーは」
「まったくだ。ははっ。トループ、辞めてなくてよかったぜ。お前、最高に楽しいな」

 俺は楽しんでるつもりはない。だが矢継ぎ早に事件に巻き込まれる。
 そういう運命なのかもしれない。

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