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第四章 シフティス大陸横断

第六百四十四話 メイズオルガ卿との会談

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 それからしばらく、コテージの中でメイズオルガ卿と会談をした。
 さすがは一国の王族。教養がとても高い。
 それにシフティス大陸について無知な俺へも、その無知さを指摘するような皮肉さなど
一切なく、丁寧に相槌を打ちながらフォローして話をしてくれる。
 メイズオルガ卿と話をしてわかったことが、大きく分けて五つある。

 一つはこの人物がいれば、あの国……アースガルズは再び持ち直すだろうということ。
 一つは国力が大幅に下がった事による、外交の懸念点。王女との婚約を破棄することになる国との
関係性。
 一つは国王の行方不明。これについては深く話せるような内容ではないということ。
 一つは現在、非常に多くの物資が不足しており、急ぎ諸国へ援助を求めねばならない。
 そして……最後の一つ。

「君はトループだったはずだ。だが正式には他国の手の者か何かだったのだろう。
本来なら軍閥に処さねばならぬところではあるのだが……しかし君は救世主だ。
私は君を、この国を救った英雄トループとして、皆に勇気を、希望を与えたい。
英雄オズワル無き今。その英雄にとってかわれる存在を……」
「メイズオルガ卿。それについては申し訳ないと思っている。実はある事情で
どうしてもミレーユ王女とお会いしなければならなかったのです。しかし私の
ような一介の旅人風情が王女と相まみえる事は叶わないでしょう? それゆえ
トループへとなりすましたのです。決して国を混乱させるためではありません。それと救世主として
祭り挙げられるに相応しいのは俺じゃありません」
「……やはり難しいか。ミレーユへの用向きは伺ってもよろしいかな?」
「はい。王女が闇のオーブについての詳細を知る。この情報を入手したためです。
結果としてはオズワル殿が所持しておりましたが……」

 何かを書き終わり、筆をおいて両手を顎の先で組み、その上に顎を乗せる姿勢を
取るメイズオルガ卿。 
 実に様になる。
 少々目を瞑り考えているようだ。

「ミレーユ。こちらへ」
「……」

 先ほどからずっとメイズオルガ卿から少し離れた場所で控えていたミレーユ王女。
 幾度もこちらを見てはまた視線を正面に戻していた。
 無事……とまではいわないが、王女を助けられたことは大きい。
 アースガルズ最強の魔の使い手。
 この方がいなければ他国はあっという間に攻めてきた可能性すらある。

「闇のオーブを管理出来なかったお前の意見が聞きたい。
私の問いに首を縦に振るか、横に振るかで答えなさい」

 こくりと頷くミレーユ王女。
 一体何を話すつもりなのか。

「その前に、ツイン、シー殿。それは大変危険なものだ。魔が強い者が
管理すべきもので、この国ではミレーユ以外管理は出来なかった。現在それはどちらに?」
「俺の仲間に預けました。その仲間から恐らく……いえ、ここから先は俺もおいそれと
話せない。例えあなたでもです」
「すまない。決して返せと催促しているわけではない。まだこの国にあるかということ。
それと、管理出来る者がいるかどうか。それだけは教えてもらえると助かる」
「わかりました。どちらも答えは、はい、ですね」
「ミレーユ。お前はこれから彼に同行し、行動を共にする。不満があるなら
首を横に振れ」

 顔をブンブンと横に振るミレーユ。
 それはそうだろう。一介の王女だ。
 どこの馬の骨ともわからない俺と行動を取るなどご免だろう。

「つまりお前は、この国並びにお前を救ってくれる最大の手助けをしてくれた、私が
人格者と認めた救世主に同行をするのは断り、我が庇護下のもとのうのうと声が治るのを待つ。
そういいたいのか」
「っ!」
「メイズオルガ卿。そこまで言わずとも……」
「ツイン、シー殿。いえ、先ほど自ら名乗られた名前を呼ばせていただこう。
ルイン・ラインバウト殿。私はあなたをどの人物よりも高く評価している。
無欲さ。行動力。人望。器量。情熱。そして……その眼。義理とはいえ我が妹。
信頼のおけぬ者に預ける気はまったくない。かといってコーネリウスの許へいさせていては、いつまで
経っても成長しない。それでは困るのだよ。これからはコーネリウスと暫く
別行動をとらせる。返事はどうだ。ミレーユ」

 ミレーユ王女は黙って目を瞑り……こくりと頷いた。
 だが、これが王族のやり方なのだろう。

「さて、ルイン君。ミレーユの護衛という任務。これで君がトループとして我が軍に
入った事は不問にしたい。そのうえで更に褒美を渡さなければならない。それは
闇のオーブでいいか?」
「……いいんですか? 何から何まで俺が望む事です」
「先ほども言ったはずだ。私は君を最大限に高く評価している。本来この程度で
済むはずがないことは理解しているだろう? だが今は、これしか出来ん私の器量を
許して欲しい」

 深く頭を下げるメイズオルガ卿。
 この上王族に頭を下げさせたら俺の精神が持たない。

「頭を上げてください! 下げるのは俺の方です。それと俺にも言いたい事があるんです。
少しだけ聞いてくれませんか」
「ああ、勿論だ。私ばかり話してしまったな」
「いえ。それはいいんです。俺はこの大陸に来て、少しばかり下を向いてました。
大切な人を守りたい。大切な人が喜ぶ顔が見たい。大切な仲間を守りたい。
その仲間を守れなかった自分が許せない。そんな思いのままこの大陸に来ました。
でも、トループでいいやつと知り合って。それから色々あってやっと、自分らしさを
取り戻しつつある。俺は……自分の事より誰かの手助けをして生きる。
それが性に合ってるんですよ。だから、今度は俺にあなたを助けさせてはくれませんか?」

 ミレーユ王女も、メイズオルガ卿も目を見開いて俺を見ていた。
 そうなってもおかしくはない。人は誰しも自分が可愛い生き物だろう。
 特にこの厳しい環境、ゲンドールという世界においては皆そう思っているかもしれない。

「それが、俺らしさ。ルイン・ラインバウトです。当然俺一人の力じゃちっぽけな
ものだ。でも……いつの間にか凄い数の仲間に支えられていた。
こいつらと共に、あなたを手助けしてみせる。そちらの、ミレーユ王女の力も借りて」
「……ふふ、はははは! 本当に君は、私を明るい気持ちにしてくれる。
正直国がこんなことになり、いっそあの時死んでいれば楽だったと何度も思っていた……だが
今はどうだ。こんなに心の底から笑える日が来るとは。
ルイン殿。協力の申し出、感謝する。これを胸に」
「これは……?」
「君は自由部隊、全ての行動に制限がない友軍トループの証。
名前はそうだな。君が決めてくれて構わない。それには複製の魔力が
込められている。君のオリジナルをもとにして、そこから複製される。
複製物からは新しく作る事は出来ない。あらゆる権限を無視する事ができる
隊章とでもしてくれればいい」
「つまり、自由に動ける私兵と?」
「いいや。どこにも属す必要はない。君には君の事情があるのだろう? 
そうだな。下町風に言えば、何でも屋の隊章。そういったところだ」
「これは有難いです。大切に使わせてもらいます」
「ああ。早速義妹につけてやってくれるか」

 言われた通り隊章を操作すると、同じ形状のものが複製された。
 それをミレーユ王女に渡すと、自分の胸にくくりつける。

「よく似合っている。ミレーユ、励むのだぞ。そして、彼を見て大きく成長するのだ。
お前が私の許にいるよりずっと安全で、楽しくいられるだろう」

 その後交易の話や、ルーンの町の話などをしてメイズオルガ卿の興味を
更に引いてしまったが、一度に多くかたりすぎたため、また後日詳しく話すこととなった。

「ミレーユ王女。今は言葉を発さなくていい。よろしく頼む。
うちには女性の仲間も多くいるから安心して欲しい」
「……」

 しばらくコミュニケーションを取るのは大変だと思うが、頑張っていこう。
 この後はコーネリウスとも話をしないとな。
 もうジェネストたちも戻って来ているはずだが……。
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