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第四章 シフティス大陸横断

第六百四十三話 救世主

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 ルーニーに合図を送った瞬間、上空を覆っていた雲が薄れ始める。
 乱層雲を炎熱で散らせたのは範囲が極端に狭いからだろう。

「雪が……止んだ? 君がやったのか?」
「俺の相棒がやったんだ。この局所的な異常天候。いつからだ?」
「ここへコテージを張った辺りから雪が激しく降り始めたんだ。
ちょうどいい時にコテージを張れたと思っていたのだが……」
「それは違うな。狙われている。あれは確実に人為的なものだ」
「……それは考えにくいと思うよ。メイズオルガ様も彼女も、どちらも変装しているし
ここへ来る事は一部にしか伝えていない」
「ああ、悪いが今はそれより……重術をといていい。また後で……話そう」
「時間切れか。そして本当にジェネストさんが戻って来たな。ありがとう。
君のおかげで皆無事のようだ」

 ルーニーが戻って来たところで限界だったようだ。
 真化が解け、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちそうになるところを、コーネリウスに
抱きとめられた。

 それをみていたミレーユ王女はどこか不快そうにそっぽを向く。
 俺を受け止めたコーネリウスを、彰が背中に乗せ、壊されていないコテージの部屋へ連れていかれた。




 ――――――――――――あれからどれくらいの時間が過ぎたのだろう。
 随分と寝ていた気がする。
 目が覚めると、簡易的なベッドに寝かされていた。場所はコテージの中のようだ。
 横を見ると、ナナーとビュイがこっくりこっくりと座ったまま肩を寄せ合い寝ていた。
 看病……されてたのか。他のものは、幻奥の青以外いない。
 ナナーとビュイ以外は見回りや食料調達でもしているのだろうな。
 俺の仲間はよく動いてくれる。
 幻奥の青を外に出して治療をしてやりたいところだが、後ほど薬に余裕があるか確認しよう。
 
 体は……しっかり動く。こいつらのお陰だ。
 それなら今は……二人を抱き上げ、簡易ベッドの上に寝かせ、布団をかけてやった。

「ありがとな、二人とも。こんな小さなお前たちに頼ってしまってすまないと思う。
ひとまずゆっくり、休んでくれ」
「すー……すー……」
「……」

 よく眠っている二人を見て、小さな主を思い出す。
 もう日は遠くない。急ぎ合流したいところだが、現状を把握しなければ。

 コテージを出ると雪は止んでいた。本日は好天。空は清々しい程心地いい。
 シフティス大陸の気温は高くないが、こういう日であれば悪くない。

「お目覚めですか! メイズオルガ様! 救世主がお目覚めです! 救世主が」
「お、おいおい。救世主って何の話だ? 俺は……」

 話しかけてきた護衛と思われる人物は、こちらの話を一切聞かずにもう一つのコテージへ
飛び込んでいった。
 救世主? 冗談じゃない。俺は弾丸を腰を逸らして避けるサイバーな人物じゃないぞ。
 
 そう考えていると、コテージの中から黒くて長いコートを着た、美男子が出てくる。
 何度見てもその少し疲れた表情に甘いマスクは女性を虜にしてしまうだろう。
 おまけにこの人は……「ようやく直接話すことができた。私の名はルイ・アルドハル・メイズオルガ。
私の事は覚えているかな? ツイン、シー君……だったかな」
「ええ。メイズオルガ……様? でよいでしょうか」
「よしてくれ。国を救った救世主にそう呼ばれては、私は笑いものだよ」
「ではメイズオルガ卿とお呼びしましょう。それと……私が救ったのは国ではありません。
仲間です」
「聞いていた通りの人物のようだね。しかし国の重責を担うものとしては、君に褒賞や
御礼を伝えないわけにはいかないのだよ」
「それはわかりますが、御礼も褒賞も私には必要ありませんね。ああでも……強いていうなら……私の
知り合いが破壊してしまって作った借金を出来れば無かった事にしてもらえると。
レギオン金貨五千枚だったかな」
「それはもしかして港部分の爆発事故によるあれのことかな? はっはっは、そうかあれは
君たちが……いやいやあの事故は本来、そんな大層な金額の事故ではないよ。
ただ随分と技師として腕の立つ女性がいて、仕事をさせたかったようでね」
「そういうことでしたか。俺たちとしては、こちらのミスで破壊してしまったのは事実。
落ち着いたら弁償していくつもりでした」
「その誠実さも聞いていた通りだな。話は長くなりそうだ。コーネリウスも今呼び戻しに
いっている。少し……中で話さないか」
「ええ。承知しました」 

 メイズオルガ卿に導かれ、俺はコテージの中へ入っていった。
 話さなければ内容が積もっている。じっくり会談したいところだ。
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