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第二章 地底騒乱

第九百六話 女王の旅立ち!?

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 時は遡り、先行してルインたちが地底へ向かった頃のルーン国にて。

「さぁクウ! やるわよー。へんしーん、これが最強の真化、クウカーンだー。敵をやっ
つけるわよー」
「あうあー」
「なにをー。負けないわよー。真なるアイドル勇者の力で魔王クウカーンをやっつけるの
よーレイン。真化、勇者版だー、勇者剣で一撃だー。えいー」
「だうー」
「……あんたたち、何やってるの?」

 ファナは子供の両手を使って遊ぶサラカーンとレミニーニを冷たい目で見降ろしていた。

「何って真化の練習に決まってるじゃない」
「キャハハハ、真化出来るとかうけるんですけど」
「そういえばこの子たち、全員妖魔の血を受け継いでるってことよね。つまり将来はどっちも
ベルローゼさんみたいになるのかしら」
「あれは特別よ。ルインはいい男だけど妖魔っぽい顔立ちじゃないし」
「あの人みたいになるのはちょっと違うかなー。見てる分にはいいけど一緒に暮らすのは
無理かなー?」
「そうそう。見てるだけで十分よ。男には優しさも甲斐性必要なの。顔がいいだけじゃダ
メなのよ。十人でも百人でも女を養って抱えられる器が必要ね」
「まぁルインは優しいし、盗みを働くような女にだって手を差し伸べてしまう危うさはある
わ。でもそこが心配なの」
「そこにいるレミだって受け入れちゃうくらいだしねえ。そーいやあんたとベルディア、何
処に行ってたの?」
「海底よー、呼び出されちった」
『はぁ?』
「イネービュのとこじゃないよ。なんかね、メルザにそっくりになれる奴がいるとこ?」
「ああ、懐かしい! ラブドス族のサニダ! 元気かしら。それでそれで?」
「今後の安全を考えて、そこに城を作れるか見分だって。主ちゃんじゃあんまり分から
ないし、結構な洞察力を持つ私とベルちゃんに任されたってわけなの」
「……つまり私やサラじゃ駄目ってことかしら?」
「そうじゃなーい? キャハハハハ」
「今すぐ抗議してやるわ! 海底にいけばいいの? 飛び込むの?」
「無理よー。エーナって子が導いてくれたんだもん」
「そういえば最近見て無かったけど、ロブロードの件は落ち着いたのかしら」
「知らなーい。ベルちゃんは戻って来てからベルドってお兄さんと一緒だしね」
「はぁ……あの子もルティアも大変そうね」
「人魚族のこと? うーん、平気じゃなーい? ここは水場も多いし」
「そうね。エイナが一番まともで羨ましいわ」
「大変なのよ。三時間に一度は起きないといけないし」
「クウなんてそろそろ本当に喋りだしそうよ。ね? クウ」
「だうー」
「……そうそうカルネちゃんのようにはいかないか」
「あの子はもっと特別でしょ。何だっけ? 賢者の石?」
「それだけじゃないわ。あの子……メルザの力も内包してるみたい。つまり現状最強は……」
『カルネちゃんね』
「ん? カルネの話か?」

 ファナ、サラカーン、レミニーニの三人が家で談笑していると、メルザがカルネを抱え
たままやってくる。
 落とすんじゃないかと気が気ではないクリムゾンを連れて。
 
「あらメルザ。今ね、クウの真化の練習してたの」
「キャハハハ。まだまだ無理だけどねー」
「真化ってルインのやってたあの化け物みてえになるやつだよな。カルネにはなって欲し
くねーけどな」
「あら、真化は妖魔の特権みたいなものよ。使わない手はないわ。私だって使えるように
なったわけだし、絶対覚えておく方がいいわ!」
「もしかして子供五人全員真化して喧嘩したりして。私で止められるかしら」
「無理無理。子供が真化して喧嘩したら、放っておけばいいのよ」
「キャハハハ、そんな殺し合い、見てみたいわぁ」
「殺し合いってあんたね……」
「カルネは直ぐに毒を吐くからな。結構喧嘩になるかもしれねー」
「メルちゃ、カルネ、いい子!」
「わりーわりー。カルネはいい子だから喧嘩なんてしないよな」
「ところで、どうしたの? お出かけ?」

 メルザが余所行きの恰好をしているので、ファナたちは疑問に思い尋ねてみた。
 すると……「女王を止めているのだが、聞き入れてもらえなくてね」
「俺様もう待てねーから、地底へ行って来る」
『えっ?』
「だってよ。ルインの奴、直ぐ迎えに来るっていったのによ。まだ来ねーんだ」
「まだ出掛けて数時間しか経ってないわよね……」
「一日くらいは待ってあげたらどう?」
「直ぐって一日先のことなのか?」
「それは……うーん。直ぐ迎えに来るって言ったルインが悪いわね」
「けど、あの様子じゃメルザったら意地でもついていったわよね」
「それはそうね、困ったわ。ねえ主ちゃん、ここで真化遊びを一緒にやりましょ?」
「俺様、カルネにはもっと女らしく育って欲しーんだよな。俺様があんまり女っぽく
ねーから母ちゃんによく叱られてよ」
「何言ってるのかしら。メルザはそれでいいのよ。そうじゃなきゃ可愛くないもの」
「ほんとよ。お陰でこっちは一番になれなかったのよ。私もメルザっぽくしようかしら」
「あんたがやったらシュイオン先生のところに連れて行かれるだけよ」
「何ですってぇ!?」
「何よ!」
「あーまた始まった……こういうときベルちゃんかアネちんがいないと困るぅー」

 ほっぺたを引っ張り合うサラとファナを後目に、メルザはカルネを抱えたまま家を
出た。
 心配になって後をつけるレミニーニと一緒に。
 
「さぁ行くぜカルネ。大冒険の始まりだー!」
「メルちゃ。ツイン、どこ?」
「地底だぜ。俺様に任せろ。今度はぜってー手を離さねーからな」
「メルちゃ、手、繋ぎたいだけ」
「うっ……そ、そんなことねーぞカルネ!」
「多分、失敗、メルちゃ、ドジ」
「俺様はドジじゃねー! とっても賢いのだ! にははっ」

 カルネを抱えたままメルザは家を出て……どこに行けばいいか早速分からなかった。
 通りを歩く人々は皆女王にお辞儀をしている。
 クリムゾンはやれやれといった姿勢で女王に進言した。

「どうしてもお出かけになるのなら、まずはシカリー殿の下へ」
「おおそうか! ジェネストと違ってクリームは物分かりがいいな!」
「……女王、クリムゾンです」
「んあ? クリームゾンビ?」
「……何でもありません。参りましょう」

 現在ルーン国とシカリーの住まう死霊の館は領域間で繋がっており、往来は
容易い。しかし……「これは女王自らおいでとは。いかなご用向きかな?」

 シカリーは聞くまでも無く用向きを理解していた。
 そしてルインに念を押されていた。
 女王が来ても上手くごまかして地底へは行かせないように、と。

「俺様、ルインがおせーからよ。迎えに行くんだ」
「……まだ旅立って数時間しか経っていないのにこれか」
「んあ? じゃあもうちょっと待てば行っていいのか?」
「そうだな。その通りだ」
「よし、じゃあ待ったからつれてってくれ」
「これは、中々に興味深い種族のようだ……」

 さすがのクリムゾンも少し後ろ向きになり必死に笑いをこらえていた。
 素のシカリーと大ボケをかますメルザ。
 この空気感に耐えているだけでも凄いのだろう。

「なぁ。早くしてくれよ、俺様急いでるんだ」
「何故急いで向かう必要があるのかお伺いしても?」
「ルインはよ。俺様がいねーとダメなんだ。直ぐ変なことに巻き込まれるしよ」
「それは否定すまい。だがあなたという守るべき存在が近くにいれば、彼は命を
落とすかもしれない。露払いをするのが世界の守り手を担う奴なのだ」
「う……難しー言葉を一杯並べて俺様を混乱させるつもりだな……よしカルネ。道を
作ってくれ」
「メルちゃ、無理。カルネ、子供」
「うう……俺様はどーすれば」
「力無き者にこの道をくぐることは許さぬ。大人しく待つことだ」
「力、力か……」
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