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何も知らない火炎妖精ちゃん

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 ヒュージスライムまでをも撃退してみせた俺たちは今、追われています。

「何でこうなるのよー!」
「いーやー! サルサがあんな大きなスライムを倒したから怒ったのよ! いーやー!」
「く、くらえ! 重曹! ……ダメだ、在庫切れです。出ません」
「何なのよ在庫切れって! 肝心なときに出ないんじゃ意味ないじゃない!」
「もうフレイムアローも撃てないわ……目標の三匹は狩ったし逃げるのよ!」

 そう、大量のアシッドスライムに追われているんです! 
 とにかく走って逃げているのですが、天井やら壁の隙間やらいろんなところからアシッ
ドが沸いてくるわけですよ。
 にゅるーっとね。
 
 そして全力で走っていると……ぶちっという音がしました。
 
「あれ?」
【シャキーン】
【シャキーン】

 何と、俺のレベルアップです。
 これはもしかして……「ゴールデンデンゴロールさんがまたいたんですね? いやったーい!」
「それどころじゃないわ! 今は逃げるのよ! あんな多くのアシッドスライムなんて
戦ってられないわ!」
「この下水道いーやーー!」

 そして入り口辺りまで逃げ延びると……奴らは諦めたのかしゅるしゅると戻っていきます。
 町の中には行かないんですね、モンスターって。
 そういうしきたりでもあるのでしょうか? それとも入り口の兵士さんがコワイー? 
 
「おや君たちか。なんかスライムの大群がちょっとだけ見えたような気がするけど」
「き、気のせいよ。目的のものは手に入ったからもういいの」
「ヒュージスライムがいるなんて、聞いてませんでしたけどね……」
「ヒュージを倒したのかい? 証拠物はある?」
「ええっと、サルサさんが集めてくれた液体なら」
「どれ……ほう、これは確かに。ちょっと待ってな、こいつは報奨金だ、ほい」

 といって金貨二枚をくれました! やったー! と思ったらさっと金貨を掠めとる
サルサさん。
 手が早い……。

「これで二枚回収ね、シロン」
「あい……」
「いーやー! この女、がめつ過ぎるわ!」
「ちゃんとお小遣いはあげるわよ、ほら」

 そういってホノミィと俺に銀貨を一枚ずつくれるサルサさん。
 なんだか施しを受けているようで涙が出て来そうです。

「これ、お金よね。ホノミィ使ったことないから分かんない」
「なんと、金を使ったことがないとな。はっはっは、では私が代わりに使ってやろう!」
「あんたってどうやって生活してたの?」
「うーん。火炎妖精は炎から生まれる精霊なの。それでね」
「うんうん」
「しゅぼっとその辺のものを構わず燃やしてたら掴まっちゃったの!」
「あんたバカよね」
「失礼ね! だってそこに燃えるものがあるのがいけないんじゃない!」
「こいつ、とんでもないことをさらっと言いやがったのです!」
「いい? 何でもかんでも燃やしてたら、そのうち討伐されるわよ?」
「いーやーー!」
「いーやー! じゃないの。この世界には燃やしてしまった方がいい存在と、そうじゃない存在が
あるのよ」
「サルサさんも物騒です……」
「じゃあどんなものを燃やしていいのか教えてよー」
「仕方ないわね。ほらシロン、あんたの担当よ」
「そこで俺何ですか!? サルサさんの親切心は何処へ?」
「私は先にギルドへ行って報告するから。ほらこれ、アシッドスライムの方はあんたにあげるわ」
「あげるっていうかそれが目的物……」

 そういい残し、俺とホノミィを置いて何処かへ行ってしまうサルサさん。
 ん? これってもしかして……「おお、俺この世界に来て初めて一人だー! やったーい!」
「ホノミィのこともう忘れてる!? いーやー!」
「そういえばこいつがいたんだった。でもこいつは人じゃない。よし、何しよう」
「預かったものをローノ先生に届けにいくんでしょー? それより燃やしてもいいもの、教えてよ!」
「んーと、えーと。食べ物? 焼くときに重宝します。後は燃えるゴミ? それから……」

 なぜか俺は子供に教えるように燃やすべき存在を次々と教えていきます。
 それを真剣に聞くホノミィ。
 もしかして本当は子供なんじゃないのだろうか? 
 だとしたらオマワリサンに報告をせねば!? 

「なぁお前。故郷とかないのか?」
「妖精の故郷はフラワールよ。でもずーっと遠いところから来たから」
「フラワール? フラワールって国の名前なの?」
「妖精の国フラワールよ。あんた知らないのー?」
「知らない。俺は転生者だからな」
「転生者って、あの変な能力のこと? あれってどうやってるの? 燃やせるの?」
「能力を燃やすって何だ……あれ? ここドコー?」

 ホノミィに色々教えながら話して歩いていたら、よく分からないところに出ました。
 小さいお店? 看板があるけどえーっと……「占いの館、ちーちゃん」
「怪しいお店! こいういうのを燃やしていいのね!」
「それは放火っていう犯罪だからダメです」
「もー、全然燃やせるものないじゃないー! いーやー!」
「いいか炎ってのは必要なときに使うだけのものだ。お前も何か違うスキルを覚えるのだ!」
「だって、ホノミィ火炎妖精だもん」
「だもん、じゃなーい! 可愛くいってもダメなのです!」
「何だい、うるさいねえ……店の前でガヤガヤと……」

 しまった、何か出て来た! 

「ふー。報告終わったわー。これで合計金貨五枚とは美味しいわね」
「あ、あのー。そのうち二枚は俺たちの……」
「ふふふ、やっぱ懐に金貨が増えるのは最高だわ」
「全然聞いてない!? そういえばサルサさん、今手持ちいくらくらいあるのですか?」
「さぁ。百枚以上はあるけど」
「か、金持ちだった! そんなに貯めてどうするんですか!?」
「ちょっとね……どうしても欲しいものがあるの。そのうち物語で分かるわよ」
「なんと!? そんなこと作者考えてたんですか?」
「らしいわね。多分、いえ恐らく、もしかしたら。或いは」
「はっきりしない……はっきりしてません!」
「作者ははっきりしてるけど直ぐ出し惜しみしたり修行したりするのよ。困っちゃうわ」
「妥協すればいいのにー。妥協した方が楽ななのに―」
「少し完璧主義なところがあるんじゃないのかしら。まぁいいわ。私が適当に引っ張るから」

 サルサさん、言い過ぎ! しーっ。秘密の部分があるのですよ。
 それでは……続くよ! 
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