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3章
這い寄る漆黒②
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「朝田くん、電話を貸しなさい」
梅香が詰め寄ってくる。
「その愚か者に、冗談でも言っていいことと悪いことがあるってことを教えてあげるわ」
「悪気はないので許してやってください」
朝田は七海に代わって謝る。
「なんで黒木さんと一緒にいるの?」
朝田の状況にはお構いなしで、七海は質問をぶつける。朝田は梅香に目配せをする。花純のこの状態のことは言わないほうがいいだろう。
「実は昨日、花純さんが例の通り魔に襲われて。
たまたま近くに僕が近くにいて…」
「襲われた? そんなはずはない!」
朝田が状況を説明しようとしているところを七海が遮った。
「そんなはずはない、ってどういうことだよ」
七海の言葉に朝田は違和感を覚える。思えば黒木花純に気をつけろと言ってきたのも七海だった。七海は何を知っている?
「朝田、話したいことがあるんだけど今から会える?」
七海は声を落とす。どうやら近くに誰かがいるようだ。
「ちょっと待ってくれ」
七海も気になるが、花純の件も終わっていない。
梅香を見ると、何かを考えている。
「朝田くん、その子をここに呼んでちょうだい。花純が襲われた件のことについて何かを知っているなら私も聞きたいわ」
~~~~~
「うん、わかった。じゃあ、あとで」
七海は電話を切って、ため息をつく。
「今の話はなんなのかな~楽しそうな香りがするなぁ」
秋穂は本から顔を上げ、こちらをニヤニヤと眺めていた。
「なんでもないですよ、僕行かなくちゃいけないので」
七海は席を立ち、入り口へと歩いていく。
ドアに手をかけた七海は、ふいに立ち止まる。
「秋穂さん、腕は大丈夫ですか?」
秋穂に問いかける。
「うん、もうだいぶ良くなったよ。
痛みもほとんどないしね」
秋穂は袖をめくって右腕の包帯を見せ、ブンブンと振って見せる。
「良かった、明るいうちに帰ってくださいね」
秋穂は通り魔事件の被害者の一人だった。最初の被害者なのかも知れない。腕に怪我をしたと聞き、心配をしていたが事件後に部室に来た秋穂は思いのほか明るかった。
いつも通りの秋穂に安心した七海だったが、その日以来、秋穂は夕方になると家に帰ってしまうようになった。秋穂は一度読書に集中すると、時間を気にせずに読み耽る癖があった。ひどい時は12時過ぎてからも一向に読み終える気配がなかったので、七海が無理矢理連れて帰った。
七海は秋穂が読書している姿が好きだった。真摯に本に向き合う姿が好きだった。自分がそんな秋穂と一緒に本を読んでいる時間が好きだった。だけど、それは突然失われてしまった。
秋穂の心には暗闇に対しての恐怖が残っている。七海は通り魔が捕まらなければ、あの時間は戻ってこないと考えた。だから、犯人捜しを始めた。
七海にはすでに犯人の目星をつけていた。あとは現場を押さえるだけだった。しかし昨日花純が襲われた時間、七海はその男を見張っていた。
すぐ間近で見ていたから、見逃すはずはない。それにその男が犯人のはずだった。なぜなら、そいつは朝田を襲おうとしたからだ。七海は混乱しつつも、朝田への弁解を考えていた。
~~~~~
花純の病室を後にして、3人は病院の隣にあるファミレスにいた。
「花純なんでも好きなもの頼んでいいわよ、朝田くんも」
梅香はメニュー表をこちらへ渡してくる。
横に並んだ二人は確かに仲の良い姉妹に見える。
性格は全く違うが、顔立ちはそっくりだ。
「七海のやつ、ちゃんと来れるかな」
朝田は店の外に目をやる。
「七海先輩ってあの七海先輩ですよね?」
花純がおずおずと尋ねる。
朝田はどの噂だろうと考える。七海は入学当初からその容姿の良さから目立つ存在で、色んなサークルを渡り歩いて友人を増やしていた。友人が多く、人気もある。
その裏で、人の弱みを握って好き放題しているという話も聞く。揉め事に首を突っ込んでは弱いほうの味方をするような奴だ。助けられた人は七海を持ち上げるが、中には快く思ってない連中もいるだろう。
「悪い奴ではないよ」
朝田は辛うじてそれだけを返した。
「さてと、先に話しておくけど、朝田くん。
私は花純を襲った奴を許さないわ」
注文を済ませると、梅香は話し始める。
「花純は無事だった、これはいいわ。身体はいくらでも私が用意してあげれる。あの身体はただの器だから、痛みもないの。でもね、殺されそうになったっていう恐怖は消えないのよ」
梅香はナイフの入ったバケットを自分の方に動かした。
「ありがとう…」
花純は静かに言った。どうやら刃物を見ると、昨日の記憶が思い出されるようだ。花純は少しホッとしたような表情になる。
「そうですね、それは分かります」
朝田も襲われてはいないが、あの日から物音に敏感になってしまった。
「だから、もしあなたの友達が犯人だとしても許さないから」
梅香は七海を疑っているらしい。
「はい、大丈夫です。でも、七海は違うと思いますよ」
朝田ははっきりと答えた。朝田には七海が、弱い者いじめをして楽しむような奴には思えなかった。
それに七海は秋穂先輩が襲われたことでひどく取り乱していた。七海があの場所を大切に思っていることは知っていたからこそ、自分で壊すような真似はしないと信じていた。
「ごめん、遅くなった」
その時、七海がやってきた。
入り口側を向いていた朝田に手を振る。
背後を振り向いて七海を確認した梅香が、あっ、と声をあげる。
「あなた、『影踏み』じゃない」
「……やぁ、『双子屋』さん。まいったな」
七海はその言葉を聞いて苦笑いをした。
梅香が詰め寄ってくる。
「その愚か者に、冗談でも言っていいことと悪いことがあるってことを教えてあげるわ」
「悪気はないので許してやってください」
朝田は七海に代わって謝る。
「なんで黒木さんと一緒にいるの?」
朝田の状況にはお構いなしで、七海は質問をぶつける。朝田は梅香に目配せをする。花純のこの状態のことは言わないほうがいいだろう。
「実は昨日、花純さんが例の通り魔に襲われて。
たまたま近くに僕が近くにいて…」
「襲われた? そんなはずはない!」
朝田が状況を説明しようとしているところを七海が遮った。
「そんなはずはない、ってどういうことだよ」
七海の言葉に朝田は違和感を覚える。思えば黒木花純に気をつけろと言ってきたのも七海だった。七海は何を知っている?
「朝田、話したいことがあるんだけど今から会える?」
七海は声を落とす。どうやら近くに誰かがいるようだ。
「ちょっと待ってくれ」
七海も気になるが、花純の件も終わっていない。
梅香を見ると、何かを考えている。
「朝田くん、その子をここに呼んでちょうだい。花純が襲われた件のことについて何かを知っているなら私も聞きたいわ」
~~~~~
「うん、わかった。じゃあ、あとで」
七海は電話を切って、ため息をつく。
「今の話はなんなのかな~楽しそうな香りがするなぁ」
秋穂は本から顔を上げ、こちらをニヤニヤと眺めていた。
「なんでもないですよ、僕行かなくちゃいけないので」
七海は席を立ち、入り口へと歩いていく。
ドアに手をかけた七海は、ふいに立ち止まる。
「秋穂さん、腕は大丈夫ですか?」
秋穂に問いかける。
「うん、もうだいぶ良くなったよ。
痛みもほとんどないしね」
秋穂は袖をめくって右腕の包帯を見せ、ブンブンと振って見せる。
「良かった、明るいうちに帰ってくださいね」
秋穂は通り魔事件の被害者の一人だった。最初の被害者なのかも知れない。腕に怪我をしたと聞き、心配をしていたが事件後に部室に来た秋穂は思いのほか明るかった。
いつも通りの秋穂に安心した七海だったが、その日以来、秋穂は夕方になると家に帰ってしまうようになった。秋穂は一度読書に集中すると、時間を気にせずに読み耽る癖があった。ひどい時は12時過ぎてからも一向に読み終える気配がなかったので、七海が無理矢理連れて帰った。
七海は秋穂が読書している姿が好きだった。真摯に本に向き合う姿が好きだった。自分がそんな秋穂と一緒に本を読んでいる時間が好きだった。だけど、それは突然失われてしまった。
秋穂の心には暗闇に対しての恐怖が残っている。七海は通り魔が捕まらなければ、あの時間は戻ってこないと考えた。だから、犯人捜しを始めた。
七海にはすでに犯人の目星をつけていた。あとは現場を押さえるだけだった。しかし昨日花純が襲われた時間、七海はその男を見張っていた。
すぐ間近で見ていたから、見逃すはずはない。それにその男が犯人のはずだった。なぜなら、そいつは朝田を襲おうとしたからだ。七海は混乱しつつも、朝田への弁解を考えていた。
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花純の病室を後にして、3人は病院の隣にあるファミレスにいた。
「花純なんでも好きなもの頼んでいいわよ、朝田くんも」
梅香はメニュー表をこちらへ渡してくる。
横に並んだ二人は確かに仲の良い姉妹に見える。
性格は全く違うが、顔立ちはそっくりだ。
「七海のやつ、ちゃんと来れるかな」
朝田は店の外に目をやる。
「七海先輩ってあの七海先輩ですよね?」
花純がおずおずと尋ねる。
朝田はどの噂だろうと考える。七海は入学当初からその容姿の良さから目立つ存在で、色んなサークルを渡り歩いて友人を増やしていた。友人が多く、人気もある。
その裏で、人の弱みを握って好き放題しているという話も聞く。揉め事に首を突っ込んでは弱いほうの味方をするような奴だ。助けられた人は七海を持ち上げるが、中には快く思ってない連中もいるだろう。
「悪い奴ではないよ」
朝田は辛うじてそれだけを返した。
「さてと、先に話しておくけど、朝田くん。
私は花純を襲った奴を許さないわ」
注文を済ませると、梅香は話し始める。
「花純は無事だった、これはいいわ。身体はいくらでも私が用意してあげれる。あの身体はただの器だから、痛みもないの。でもね、殺されそうになったっていう恐怖は消えないのよ」
梅香はナイフの入ったバケットを自分の方に動かした。
「ありがとう…」
花純は静かに言った。どうやら刃物を見ると、昨日の記憶が思い出されるようだ。花純は少しホッとしたような表情になる。
「そうですね、それは分かります」
朝田も襲われてはいないが、あの日から物音に敏感になってしまった。
「だから、もしあなたの友達が犯人だとしても許さないから」
梅香は七海を疑っているらしい。
「はい、大丈夫です。でも、七海は違うと思いますよ」
朝田ははっきりと答えた。朝田には七海が、弱い者いじめをして楽しむような奴には思えなかった。
それに七海は秋穂先輩が襲われたことでひどく取り乱していた。七海があの場所を大切に思っていることは知っていたからこそ、自分で壊すような真似はしないと信じていた。
「ごめん、遅くなった」
その時、七海がやってきた。
入り口側を向いていた朝田に手を振る。
背後を振り向いて七海を確認した梅香が、あっ、と声をあげる。
「あなた、『影踏み』じゃない」
「……やぁ、『双子屋』さん。まいったな」
七海はその言葉を聞いて苦笑いをした。
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