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4章
木曜日の怪人②
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花純は食後に運ばれてきた珈琲を手に取る。
口に含んで眉を落とす。
「前は珈琲飲めなかったんですよ、苦いのが苦手で。砂糖とミルクいっぱい入れてもダメで」
「さっきの話だけど、梅香さんはその『怪談師』って人を探しているの?」
「そうだと思います。私もお姉ちゃんに何かあったらきっと、そうするから」
苦笑いを浮かべながら花純はそのままコーヒーカップを傾けた。
会計を終える前に花純はここを出たら少し歩きませんかと提案をしてきた。
朝田としては早く帰りたいという気持ちもあったが、花純からの提案を無下に断るのも気が引けて一緒にショッピングモールの方へ向かうことにした。
花純と一緒に歩いていると複数の視線を感じる。それだけ花純が目を引く存在なのだろう、周囲からのやっかみや嫉妬の感情を感じながら朝田は隣を歩く花純に目を向ける。
花純は人形のように綺麗な顔立ちをしている。
今の花純は本当に人形のようなものなのだが、そういうことを抜きにしても美人だと思う。
だからこそ、朝田には分からなかった。花純からは好意を感じる。
それに加えて、朝田が妖怪であることを知った後も戸惑いを一切見せない花純のことを朝田は不思議に思っていた。
確かにお姉さんが妖怪であったのならば、それには慣れているのも頷ける。
しかし、花純は『影踏み』、七海については少しの戸惑いの感情を滲ませていた。
好意を向けられることは多くはないが、今までもあった。しかし、その中には必ず打算的な感情が含まれていた。
人の感情に対して敏感な朝田にとってそれは少し悲しいことのように思えていた。
結局のところ、好意の裏側には自分の欲が隠れているんだと気が付いてから朝田は人から向けられる好意に対して嬉しいとかそのような感情を得ることが出来なくなっていた。
「朝田先輩、大丈夫ですか?ボーっとしてる」
突然、花純が話しかけてきた。完全に上の空だったのだろう、もしかしたらさっきから何かを話しかけてきていたのかも知れない。
「あ、あぁ、ごめん。大丈夫だよ」
「そうですか、良かったです」
花純は軽く微笑んでから、どこいきましょうか、と尋ねてくる。
「それじゃあ、本屋に寄ってもいい?」
~~~~~
「あー、今頃朝田はデートかぁ」
七海は時計を確認し、ぼやいた。
中庭のベンチに腰掛け、七海は山下の授業が終わるのを待っていた。堂森の話を聞いてから七海は山下への監視をさらに強めた。
しかしここ数日間、彼の行動範囲は自宅と大学とバイト先の3つだけ、もう犯行する気はないのかと思えてくる。
それどころか山下は、通り魔をしたことさえ忘れているかのように普通の大学生を満喫していた。
二日前に突然花純から朝田の連絡先を教えて欲しいというメールが届いた。驚いたが、断る理由もなかった。
ただ少しの好奇心といじわるでどうするのかを聞いてみると、花純は助けてくれたお礼がしたいと教えてくれた。
「眠り姫が朝田のことをねぇ…」
ちょうど授業が終わったようで4号棟と呼ばれる建物から学生がゾロゾロと出てくる。
「ま、人を見る目はあるみたいだね」
立ち上がりながら七海は満足そうに笑う。
七海が朝田を囮に使ったのは、朝田のことを軽んじていたわけではなかった。むしろ誰より信頼をしている。
朝田なら何とかしてくれるのではないか、という気持ちが七海に行動を起こさせた。
あの夜、犯人の正体が分かったこと以上に、七海は朝田を無意識に危険に巻き込んでしまうほど自分が追い込まれていたことに驚いていた。
その時、4号館から話しながら3人の学生が出てくるのが見えた。その中の一人は山下だ。
七海は気付かれることのないように自身を影に溶け込ませていく。学生たちの影から影へと渡り歩いていき、無事に山下の影に潜り込むことに成功する。
便利な能力なのだが、誰かに見られている状態では発動しない。誰にも言っていない弱点だ。
だからこそ七海の正体は誰にもバレることはない。影踏みの弱点が現代社会に生きる七海にとっては、使い勝手のいい制限になっていた。
山下は南門の前で他の2人と別れ、一人バイトへ向かうようである。別れを告げ、山下は少し駆け足でバイト先に向かう。
七海は影の中で今日も長くなりそうだ、とうんざりとした表情を浮かべた。
影踏みは一旦、相手の影の中に入ってしまえば相手を内側から操作することが出来る。
影の中は狭い部屋のような構造になっていて、寝転んだりといったこともできる。
七海は我ながら便利な能力だ、と思う。だからと言って他に弱点がないわけではない。
影に入っているときは相手のダメージは七海にも共有される。
仮に影の主がダンプカーに轢かれでもしたら、その時は七海も一緒に三途の川を渡ってしまう。
それに加えて、自分より力が強い相手には行動の強制が出来ない。
足を止めようと思っても、すぐに影による縛りは外れてしまう。比較的小柄な体型の七海では操作できる人間はそんなに多くはない。
七海はふと思い出す。
あの夜、朝田はなぜ力で拘束を解かなかったのか。朝田は明らかに七海よりも力は上だ。七海は実際にそれを目にしたことがある。
あの時七海は、朝田の身体を一瞬でも止めることが出来ればいい、と思って影で縛り付けた。
もしかしたら、朝田はすべて分かった上で、囮になってくれたのか。
これが終わったら朝田に聞こう、と七海は思いながら、バイトが終わる時間を待つために影の中で横になって目を閉じた。
口に含んで眉を落とす。
「前は珈琲飲めなかったんですよ、苦いのが苦手で。砂糖とミルクいっぱい入れてもダメで」
「さっきの話だけど、梅香さんはその『怪談師』って人を探しているの?」
「そうだと思います。私もお姉ちゃんに何かあったらきっと、そうするから」
苦笑いを浮かべながら花純はそのままコーヒーカップを傾けた。
会計を終える前に花純はここを出たら少し歩きませんかと提案をしてきた。
朝田としては早く帰りたいという気持ちもあったが、花純からの提案を無下に断るのも気が引けて一緒にショッピングモールの方へ向かうことにした。
花純と一緒に歩いていると複数の視線を感じる。それだけ花純が目を引く存在なのだろう、周囲からのやっかみや嫉妬の感情を感じながら朝田は隣を歩く花純に目を向ける。
花純は人形のように綺麗な顔立ちをしている。
今の花純は本当に人形のようなものなのだが、そういうことを抜きにしても美人だと思う。
だからこそ、朝田には分からなかった。花純からは好意を感じる。
それに加えて、朝田が妖怪であることを知った後も戸惑いを一切見せない花純のことを朝田は不思議に思っていた。
確かにお姉さんが妖怪であったのならば、それには慣れているのも頷ける。
しかし、花純は『影踏み』、七海については少しの戸惑いの感情を滲ませていた。
好意を向けられることは多くはないが、今までもあった。しかし、その中には必ず打算的な感情が含まれていた。
人の感情に対して敏感な朝田にとってそれは少し悲しいことのように思えていた。
結局のところ、好意の裏側には自分の欲が隠れているんだと気が付いてから朝田は人から向けられる好意に対して嬉しいとかそのような感情を得ることが出来なくなっていた。
「朝田先輩、大丈夫ですか?ボーっとしてる」
突然、花純が話しかけてきた。完全に上の空だったのだろう、もしかしたらさっきから何かを話しかけてきていたのかも知れない。
「あ、あぁ、ごめん。大丈夫だよ」
「そうですか、良かったです」
花純は軽く微笑んでから、どこいきましょうか、と尋ねてくる。
「それじゃあ、本屋に寄ってもいい?」
~~~~~
「あー、今頃朝田はデートかぁ」
七海は時計を確認し、ぼやいた。
中庭のベンチに腰掛け、七海は山下の授業が終わるのを待っていた。堂森の話を聞いてから七海は山下への監視をさらに強めた。
しかしここ数日間、彼の行動範囲は自宅と大学とバイト先の3つだけ、もう犯行する気はないのかと思えてくる。
それどころか山下は、通り魔をしたことさえ忘れているかのように普通の大学生を満喫していた。
二日前に突然花純から朝田の連絡先を教えて欲しいというメールが届いた。驚いたが、断る理由もなかった。
ただ少しの好奇心といじわるでどうするのかを聞いてみると、花純は助けてくれたお礼がしたいと教えてくれた。
「眠り姫が朝田のことをねぇ…」
ちょうど授業が終わったようで4号棟と呼ばれる建物から学生がゾロゾロと出てくる。
「ま、人を見る目はあるみたいだね」
立ち上がりながら七海は満足そうに笑う。
七海が朝田を囮に使ったのは、朝田のことを軽んじていたわけではなかった。むしろ誰より信頼をしている。
朝田なら何とかしてくれるのではないか、という気持ちが七海に行動を起こさせた。
あの夜、犯人の正体が分かったこと以上に、七海は朝田を無意識に危険に巻き込んでしまうほど自分が追い込まれていたことに驚いていた。
その時、4号館から話しながら3人の学生が出てくるのが見えた。その中の一人は山下だ。
七海は気付かれることのないように自身を影に溶け込ませていく。学生たちの影から影へと渡り歩いていき、無事に山下の影に潜り込むことに成功する。
便利な能力なのだが、誰かに見られている状態では発動しない。誰にも言っていない弱点だ。
だからこそ七海の正体は誰にもバレることはない。影踏みの弱点が現代社会に生きる七海にとっては、使い勝手のいい制限になっていた。
山下は南門の前で他の2人と別れ、一人バイトへ向かうようである。別れを告げ、山下は少し駆け足でバイト先に向かう。
七海は影の中で今日も長くなりそうだ、とうんざりとした表情を浮かべた。
影踏みは一旦、相手の影の中に入ってしまえば相手を内側から操作することが出来る。
影の中は狭い部屋のような構造になっていて、寝転んだりといったこともできる。
七海は我ながら便利な能力だ、と思う。だからと言って他に弱点がないわけではない。
影に入っているときは相手のダメージは七海にも共有される。
仮に影の主がダンプカーに轢かれでもしたら、その時は七海も一緒に三途の川を渡ってしまう。
それに加えて、自分より力が強い相手には行動の強制が出来ない。
足を止めようと思っても、すぐに影による縛りは外れてしまう。比較的小柄な体型の七海では操作できる人間はそんなに多くはない。
七海はふと思い出す。
あの夜、朝田はなぜ力で拘束を解かなかったのか。朝田は明らかに七海よりも力は上だ。七海は実際にそれを目にしたことがある。
あの時七海は、朝田の身体を一瞬でも止めることが出来ればいい、と思って影で縛り付けた。
もしかしたら、朝田はすべて分かった上で、囮になってくれたのか。
これが終わったら朝田に聞こう、と七海は思いながら、バイトが終わる時間を待つために影の中で横になって目を閉じた。
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