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6章
羊男の狼退治⑤
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この静かな世界に重い音が響き渡る。七海の身体はまだ斬られたことを認識していないかのようにそこに立っていた。
「七海っ…!」
朝田は足を止めない。
ここで足を止めるとあいつの決意が無駄になってしまう。
怪人は瞬間的に別の場所に移動することができる。その時、離れた場所に移動するのを朝田は知っていた。有馬はそこから連続での瞬間移動は出来ないという仮説を立てた。その為には誰かが気を引く必要があった。
距離はもうほとんどない。朝田は勢いをつけて怪人に体当たりを仕掛ける。怪人は今までと違い、迫ってくる朝田への恐怖を滲ませている。瞬間移動は連続では使えない、という仮説は当たっていたようだ。
後ろに飛びのこうとする怪人はそこで動きを止めた。すぐ傍らで斬られたまま立ち尽くしていた七海の身体が怪人の腕を掴んだのだった。明らかな動揺。今だ、と朝田は渾身の力を込める。
怪人がそのまま後ろへ突き飛ばされる。
呻き声を上げて転がる怪人の姿を朝田は息を切らしながら見下した。その時、空に一瞬ノイズが走り、ヒビが入っていく。
「……お疲れ様、ありがとう」
朝田は七海の身体に対して、声をかける。
それと同時にふらりと倒れたその肉体は二度と動くことはなかった。
「あぁ、効いたぜぇ。仲間を囮にするなんてお前もなかなかやるなぁ……」
怪人が立ち上がり、朝田の方を向く。
口調は変わらないが、ダメージは残っているようだ。声が震えている。
「俺はもう油断はしねぇ、お前が攻撃しようとしても逃げることに徹する。もう仲間もいないんだ、大人しくそこの男と同じようになるんだな」
「お前はここで消えるんだ」
もう朝田に迷いはなかった。ヒビ割れた世界、このままいけばこの世界を壊せるだろう。あと一発、それさえ入れることが出来れば朝田たちの勝利だ。
「僕はもう刺されたって、止まらない」
朝田は距離を詰めるために駆けだす。
距離が近づくにつれて怪人の感情が伝わってくる。
殺意、畏れ、虚しさ、戸惑い、緊張、そして生きたいという気持ち。怪人も存在したいと思っているのだ、だが奴の存在証明は人を傷つけること。そのままにしておくことは出来ない。
「こいよ、羊男」
怪人は鉈を振り上げる。だが朝田は気が付いていた、この行動には殺意がない。怪人はここから逃げるつもりだ。
ここで逃がすわけにはいかない。ここで決めなければ。
朝田は走りながら、その瞬間を待った。
あと三歩。
朝田は大きな声で叫んだ。
「七海!今だ!!」
その時、怪人は後ろに退こうとしていた自分の身体が動かないことに気付いた。地面に影が縫い付けられたように動くことができない。
朝田は戸惑う怪人の顔面目掛け拳を振り抜いた。
~~~~~
日曜日。
有馬の提案に梅香は大きな声で抗議した。
「絶対やだ!!」
「まぁまぁ、梅香さん。
この作戦はあなたが絶対必要なんですから」
千堂が宥めるが、梅香は無理に決まってる、とテーブルを叩く。
「私が花純を複製できるのは、花純への愛があるからよ!それはともかく、対象への理解、これが絶対必要なの。そりゃあ、花純のことはあんなことやこんなこと全部知っているわよ」
梅香が堂々と言い放つ横で、花純が顔を真っ赤にして俯く。
有馬の提案は、梅香に七海の複製を作らせるというものだった。しかし、意外と梅香の能力は繊細なものらしく梅香は激しく抵抗している。
「それに、その身体に花純が入るってことは花純にまた怖い思いさせることになるのよ!絶対に反対よ」
そこに関しては朝田も同じ意見だった。出来ることならば、花純をこれ以上巻き込みたくはない。その場に沈黙が流れる。
「私、やりますよ」
俯いていた花純がその沈黙を破る。真っすぐに有馬を見つめている。妙な威圧感がある有馬は朝田でも目を合わせるのは緊張するものだ。
「いいのか?」
「はい、宜しくお願いします」
有馬の質問にも花純は動じずに答える。
「私はもう朝田先輩や七海先輩が襲われて欲しくない。それに、私だってビクビクしながら過ごすのなんて嫌ですから」
花純の言葉を聞いて、梅香はため息をつく。
「わかったわよ。
花純にそんな風に言われたら私が我儘言ってられないじゃない」
ため息をつきながらも梅香は花純に向かって微笑みを向ける。
「よし、感謝する。
では、七海のところに行くか」
そこから全員で七海の病室に行き、同じ作戦を伝える。
七海は終始、驚いていたが最終的には了承した。
「ねぇ、朝田」
「なんだよ?」
「朝田の師匠ってさ……ヤバいな」
面白いからいいんだけど、と七海は笑った。
否定はできないと朝田は思う。
七海の偽物を作り、それを囮にとして、朝田の影に潜んだ七海が怪人の身体の自由を奪う。これが有馬の立てた作戦だった。
「さ、七海くん!恋バナしましょうか」
「は?え?なんで?」
梅香の突然の宣言に七海は戸惑いを露わにする。
「人を理解するためにはやっぱり恋バナでしょ?
今日は私の家で恋バナ三昧よ!
さ、ほんとは嫌だけど」
梅香は言葉とは裏腹に嬉しそうな表情を浮かべている。
七海は朝田を助けを求めるような目を向け、朝田はそれに顔を背ける。
「絶対やだー!!」
有馬に抱えられ病室から連れ去られた七海の声が病院の廊下にこだました。
「七海っ…!」
朝田は足を止めない。
ここで足を止めるとあいつの決意が無駄になってしまう。
怪人は瞬間的に別の場所に移動することができる。その時、離れた場所に移動するのを朝田は知っていた。有馬はそこから連続での瞬間移動は出来ないという仮説を立てた。その為には誰かが気を引く必要があった。
距離はもうほとんどない。朝田は勢いをつけて怪人に体当たりを仕掛ける。怪人は今までと違い、迫ってくる朝田への恐怖を滲ませている。瞬間移動は連続では使えない、という仮説は当たっていたようだ。
後ろに飛びのこうとする怪人はそこで動きを止めた。すぐ傍らで斬られたまま立ち尽くしていた七海の身体が怪人の腕を掴んだのだった。明らかな動揺。今だ、と朝田は渾身の力を込める。
怪人がそのまま後ろへ突き飛ばされる。
呻き声を上げて転がる怪人の姿を朝田は息を切らしながら見下した。その時、空に一瞬ノイズが走り、ヒビが入っていく。
「……お疲れ様、ありがとう」
朝田は七海の身体に対して、声をかける。
それと同時にふらりと倒れたその肉体は二度と動くことはなかった。
「あぁ、効いたぜぇ。仲間を囮にするなんてお前もなかなかやるなぁ……」
怪人が立ち上がり、朝田の方を向く。
口調は変わらないが、ダメージは残っているようだ。声が震えている。
「俺はもう油断はしねぇ、お前が攻撃しようとしても逃げることに徹する。もう仲間もいないんだ、大人しくそこの男と同じようになるんだな」
「お前はここで消えるんだ」
もう朝田に迷いはなかった。ヒビ割れた世界、このままいけばこの世界を壊せるだろう。あと一発、それさえ入れることが出来れば朝田たちの勝利だ。
「僕はもう刺されたって、止まらない」
朝田は距離を詰めるために駆けだす。
距離が近づくにつれて怪人の感情が伝わってくる。
殺意、畏れ、虚しさ、戸惑い、緊張、そして生きたいという気持ち。怪人も存在したいと思っているのだ、だが奴の存在証明は人を傷つけること。そのままにしておくことは出来ない。
「こいよ、羊男」
怪人は鉈を振り上げる。だが朝田は気が付いていた、この行動には殺意がない。怪人はここから逃げるつもりだ。
ここで逃がすわけにはいかない。ここで決めなければ。
朝田は走りながら、その瞬間を待った。
あと三歩。
朝田は大きな声で叫んだ。
「七海!今だ!!」
その時、怪人は後ろに退こうとしていた自分の身体が動かないことに気付いた。地面に影が縫い付けられたように動くことができない。
朝田は戸惑う怪人の顔面目掛け拳を振り抜いた。
~~~~~
日曜日。
有馬の提案に梅香は大きな声で抗議した。
「絶対やだ!!」
「まぁまぁ、梅香さん。
この作戦はあなたが絶対必要なんですから」
千堂が宥めるが、梅香は無理に決まってる、とテーブルを叩く。
「私が花純を複製できるのは、花純への愛があるからよ!それはともかく、対象への理解、これが絶対必要なの。そりゃあ、花純のことはあんなことやこんなこと全部知っているわよ」
梅香が堂々と言い放つ横で、花純が顔を真っ赤にして俯く。
有馬の提案は、梅香に七海の複製を作らせるというものだった。しかし、意外と梅香の能力は繊細なものらしく梅香は激しく抵抗している。
「それに、その身体に花純が入るってことは花純にまた怖い思いさせることになるのよ!絶対に反対よ」
そこに関しては朝田も同じ意見だった。出来ることならば、花純をこれ以上巻き込みたくはない。その場に沈黙が流れる。
「私、やりますよ」
俯いていた花純がその沈黙を破る。真っすぐに有馬を見つめている。妙な威圧感がある有馬は朝田でも目を合わせるのは緊張するものだ。
「いいのか?」
「はい、宜しくお願いします」
有馬の質問にも花純は動じずに答える。
「私はもう朝田先輩や七海先輩が襲われて欲しくない。それに、私だってビクビクしながら過ごすのなんて嫌ですから」
花純の言葉を聞いて、梅香はため息をつく。
「わかったわよ。
花純にそんな風に言われたら私が我儘言ってられないじゃない」
ため息をつきながらも梅香は花純に向かって微笑みを向ける。
「よし、感謝する。
では、七海のところに行くか」
そこから全員で七海の病室に行き、同じ作戦を伝える。
七海は終始、驚いていたが最終的には了承した。
「ねぇ、朝田」
「なんだよ?」
「朝田の師匠ってさ……ヤバいな」
面白いからいいんだけど、と七海は笑った。
否定はできないと朝田は思う。
七海の偽物を作り、それを囮にとして、朝田の影に潜んだ七海が怪人の身体の自由を奪う。これが有馬の立てた作戦だった。
「さ、七海くん!恋バナしましょうか」
「は?え?なんで?」
梅香の突然の宣言に七海は戸惑いを露わにする。
「人を理解するためにはやっぱり恋バナでしょ?
今日は私の家で恋バナ三昧よ!
さ、ほんとは嫌だけど」
梅香は言葉とは裏腹に嬉しそうな表情を浮かべている。
七海は朝田を助けを求めるような目を向け、朝田はそれに顔を背ける。
「絶対やだー!!」
有馬に抱えられ病室から連れ去られた七海の声が病院の廊下にこだました。
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