上 下
122 / 240
第7章 姉妹の和解 リッチモンド・ハイベルク領編

第13話 風の精霊ぺぺの怒り

しおりを挟む
侯爵邸のテラスで羽を休めていたぺぺは不穏な気配を感じる。

「ピヨ?エクストリアとリーラの気配が離れたピヨ…」
リーラの異変を感じたぺぺは急ぎダリルの元へ向かう。

ピューン
賑やかな晩餐会の広間に一羽の青い鳥が横切る。

ダリルはジョンとユーリアム公爵と歓談中だった。
「ダリル、緊急事態だピヨ。リーラの気配が港に向かっている。エクストリアと離れたピヨ」

「なんだって?!港?ジョン!」

「わかった!私はビル隊長に声を掛ける。ダリルは隊員を招集してくれ」
「わかった」

緊急を感じ取ったジョンがビルを見つけ出し声をかける。
「ビル隊長、緊急事態だ。リーラが連れ港に向かっている」

「なんだと!」

人を掻き分け広間を急ぎ足で横切りながらニコラスがビルを捕まえる。
「兄さん、大変だ!カーティスとベラが薬品を嗅がされ倒れていた」

「なんだと!!カーティスは無事か?!」

「今意識は戻している。あと姉さんの姿がない」 

「ローズが…」
動揺するビルにジョンは喝をいれる。

「ビル!しっかりしろ!指揮をとれ!」

「クソッ!」

「リーラ達は港の方へ向かっているピヨ。僕はエクストリアを探した後でみなと合流するピヨ」
ぺぺは窓から外に素早く飛び立つ。

「ニコラス、晩餐会は終了だ。空いている騎士は総出で港へ向かわせろ!あと海兵船を出す準備をしろ。海に出られたら大変だ」

「わかりました」

ダリルはジョンと合流し、四番隊、六番隊を集め港へ向かう。
「ダリル、ローズ夫人も誘拐されたそうだ」

「ゾーンの仕業か?!」

出港する予定のある船を確認する為に港を管理する建物に入る。
「おい、出港及び出港予定の船はあるか?」
「ないですよ。しかし、先程、南国方面の船が…。あれっ?あんなに遠くに船が…」
遥か遠く船の姿が見えた。

「クソッ!どういうことだ!そんなに船が早く動けるものなのか?!」

パサッ
パサッ
ぺぺが小さくなったエクストリアをくわてダリルの元へやって来た。エクストリアをダリルに渡すと、
「ふぅー、口が痛いピヨ。本当、大きな借しができたピヨ、エクストリア」

『すまない』

「ぺぺ様、恐らくリーラはあの船にいます。しかし異様な速さの船なのです」

「『水の精霊…』」
「エクストリアもそう思うピヨ。力を貸しているピヨね。小賢しいピヨ、下位精霊の癖に…」

クリストファーとビル率いるリッチモンド騎士隊も港へと着いた。

「リーラとローズ夫人の行方は?」   

「はい。恐らくあの船に連れさられたようです。」

「なんだと!陸から離れているではないか?!」 

「クリストファーよ、恐らく水の精霊が手を貸し、船を動かしているピヨ」

遠くの船を睨みつけながらビルが声を荒げる。
「ローズ、絶対に君を助ける、待ってろ!!
 陛下、リッチモンドの海兵船の準備は出来ています。行って参ります」

「何を言ってるんだ。私も行くに決まってだろう。こんな面白そうな戦いに行かないなんてあり得ないだろう」
夫人が誘拐されているのに面白そうって…と周りの騎士隊が呆れる。

「みんな、早く乗り込めピヨ。我が力ですぐに追いつけるピヨ。あの下位精霊め、痛い目に合わせてやるピヨ…」

『おまえが怒るなんて珍しいな』

「しつけは大切ピヨ」



「帆をあげろ!出港!」
黒い海兵船が大きな巨体を動かし海原へ乗り出す。

ぺぺは空に飛び立つと羽を羽ばたかせ風を起こす。そして、海の流れも風の力を使い、船をさらに進ませる。

「船ってこんなにの速いの…」
初めて船に乗れた喜びは束の間、順調な速さを出す船にルディは顔が引き攣る。

ラディリアスもルディの腕を掴みながら、
「ル、ルディ…そういえば、僕、初めての戦闘だった」
と震え始める。

「怖いかもしれない。けれどリーラも捕らわれ身で頑張っているんだ。絶対に助けよう」
とラディリアスの肩をガシッと握った。
「うん、助ける!」

「二人とも無理するんじゃないぞ。ダメと思ったらこの船に残ればいい」
ジョンが優しく二人の頭に手を置いた。

「「いえ、行きます!!」」



 ぺぺはダリルからエクストリアを受け取るとリーラ達の船に飛び立つ。

パサッ
パサッ
リーラの気配のある窓に近づくと窓が開く。

その窓にエクストリアを放り投げる。

「あー口が痛かったピヨ~。じゃあ、この船を止めるピヨ」

ぺぺは上空に飛び、立ちはだかるように船の先端に行く。桃色の髪の青年が両手を上げ海流を操作していた。

「おまえが精霊ピヨ…
 さぁ、風よ我が力よ、船を陸に戻すピヨ~」

パサッ
風が起こり波を起こし、船の動きを止める。
ガン!

パサッ!
帆の向きも変え、波を陸へと動かす。
ギィーッ

「上位精霊に楯突くとはいい度胸ピヨ」

パサッ

船は陸へと戻って行く。

桃色の青年はぺぺの姿を見て驚く。遥か自分より力の強い上位精霊の姿を見て腰を抜かし、船内へ逃げて行った。

「船の航路は戻せたピヨ。さぁ、ダリル達の船のスピードも上げるピヨ~」
とぺぺは揚々と海兵船へと舞い戻った。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

短編まとめ

BL / 連載中 24h.ポイント:362pt お気に入り:102

女神は真価を問う

恋愛 / 完結 24h.ポイント:26,099pt お気に入り:232

交差点の裸女

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:1

時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:97

短編エロ

BL / 連載中 24h.ポイント:1,526pt お気に入り:2,140

とくいてん(特殊性癖系短編集)

BL / 連載中 24h.ポイント:411pt お気に入り:13

流星痕

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:5

処理中です...