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第9章 リーラの貴族学院デビュー

第17話 レイチェルの静養ー2ー

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「昔からローレンヌ王国とコールディア王国は付き合いがあり、我が帝国に入った後も親交は続いていた。父が幼い頃、ちょうど年齢が合うローレンヌ王女と婚姻を結ばせようと約束が交わされ、2人は婚約したそうだ。レリーズ王女は大層愛らしく、父上も好ましく思い、娶ることを心待ちにしていたらしい。侯爵家の名門騎士を王女の護衛に派遣し、王女を手厚く守っていたそうだ。
 しかし、悲劇が起こったのだ、ローレンヌ王族の力は弱く、国は宰相のザイデリカ一族の支配下にあったのだ。ザイデリカが帝国に寝返り、王族一家を殺害した。王女は我が侯爵家の護衛が危機を察し、捕まる前に逃げることが出来たが、滅亡した国の王女を妻として迎えることは出来ず、二人の婚約関係が解消された」

 キースは一息吐くとさらに話をレイチェルに続けた。キースの父エステバン・コールディア侯爵に新たな婚約者が充てがわれ、王女は護衛騎士と恋仲になりそれぞれ別の道に進む。しかし、エステバンは王女を諦めきれず、想いは簡単には捨てきれなかった。そのエステバンの想いに気付いた今は亡きエステバンの妻シエラはローレンヌ王族を裏切り、死に追いやった家臣1人、ガーリング男爵をコールディアに呼び寄せ、わざと王女が生きていることを知らせる。ガーリング達は生き残りの王女の存在に気付き、殺す為に襲撃するがエステバンがなんとか王女と子供達を救い、帝都に逃したそうだ。


「それからだ、我が家がおかしくなり始めたんだ。父上は家族との時間も取らず執務室に篭り、オースティンも一人でいるようになったんだ。オースティンは王女の娘のキャサリン嬢と仲が良く、襲撃事件にショックを受け、人が変わったように勉学、剣術に励むようになったんだ。この時から父上とオースティンが王女達の為に復讐を考え始めたんだろう。オースティンは次第に力をつけ、コールディアの実質的な支配者となり、母シエラの嘗ての悪行を知ってしまったんだ、そして、オースティンは一族の前で母の悪行を暴露し、死んで償うように強要したんだ」

病気で亡くなったと聞かされていた祖母はオースティンに死ぬように強要され自殺したと知り、レイチェルは驚く。母のヨハンナもあの日のことを思い出したのか震え始めた。

オースティンはさらに力をつけ、オースティンは第2番隊隊長の座を、エステバンも負けず法務大臣の座まで得ることで帝国内部に入り込み、ようやく二人はローレンヌ王族を裏切ったザイデリカ達を制裁を果たす。

「ソフィア・ザイデリカがレイチェルを殺そうとしたのは、自身の父親がオースティンに殺される姿を見て、レイチェルの指示だと勘違いし、復讐したかっだだろう。」
叔父が復讐のためにザイデリカ侯爵を殺害したとなれば、レイチェルを共犯と思い、恨むのも当然だと昔から続く復讐劇に何も知らなかった自身にふらりとめまいを感じる。

「オースティンはキャサリン・ローレンヌ侯爵の元へ婿入りしたが、今もコールディアはあいつの支配下にあるも同然だ。恐らくあいつは私、父上だって信じてはいない、屋敷からこの帝国中まで密偵を放っている。もし、あいつの気に障ったら誰だってすぐに消されてしまう、我々もさ」

叔父のオースティンはいつも多忙で面識はなく、学院に通い始め、帝都の屋敷に移り住んでもほとんど顔を合わすこともなかったのだ。叔父の裏の顔を知り、レイチェルはただただ驚くしかなかった。

「父上はおまえを皇后の座に押しているのは愛しの王女を苦しめた帝国に復讐するためだ。おまえが皇后になり、子を産めばその子が国を治める。父上は自分の意のまま動くように教育しようと考えているはずだ。おまえも気づいていただろう」
父のキースに言われ祖父が何かしら帝国に対して不満があることは以前から気づいていた。より良い国造りの為だろうとばかり考えていたが真実を聞かされたレイチェルは胸が苦しくなる。

「おまえが静養中に状況はガラリと変わったのだ。ターナー嬢が皇后候補から外れ、新ハイベルク大臣の弟のショーン殿と学院卒業後に婚姻を結ぶそうだ。ハイベルク内の結束を高めるようだ」

いつも交戦的な態度だったクラリッサが候補を諦め、婚姻を承諾したとは思えず、深疑的な表情になる。

「ターナー嬢はすでに官吏試験にも合格し、一族で国務業務の強化を行うようだ。他の候補に上がっていた令嬢達の婚姻が内定している。皇后に一族から認められた花嫁候補が浮上したからだそうだ」
レイチェルはもしかすると自分の努力が報われ、自分が候補に決まったのだろうと期待をするがすぐに現実を突きつけられる。

「皇帝がリヴァリオン国の王女を以前から側に置いており、愛情を注いでおられると報告が来た」

「王女?ローズ王女はリッチモンドに嫁いだじゃない?!」
ヨハンナは目を見開き、キースの話に割り込んで来た。
「ヨハンナ、ローズ王女の妹君だ」
ヨハンナも全く知らされていなかったようで驚いた表情になる。

「その王女に私は会ったことはありますか?」
レイチェルは声を震わせながら尋ねる。

「あぁ、あるよ。襲撃事件でおまえを救い、今や帝国の騎士隊では欠かせない存在の令嬢だ。リーラ・ハントンと言う偽名を使い、第6番隊副隊長の座にいるリーラ王女だよ」

「えっ??」


 あれは、リーラ・レキシントンと名乗っていたはず…

襲撃に遭った際に助けてくれたのは確かにリーラだった。レイチェルはさらに記憶を辿りながらオースティンの結婚式に出席をしていた隊長席に参列し、皇帝と楽しそうに話す女騎士を思い出す。

 あの子だわ…

「彼女は一族の支持を受けている。また、オースティンとローレンヌ侯爵の愛弟子であり、恐らく二人からの支持も得ているだろう。父上が邪魔だてすれば恐らく、父上の命もない。我々も今が引き時だ。レイチェル、候補のことは忘よう。」

「う、嘘よ…今までの努力は何…?信じられないわ…」
「レイチェル!!」

レイチェルは席を立つと父が呼び止める声を聞かずに慌てて自室へと走り出した。

祖父や母に厳しく躾られ、思いに応えようと必死に努力してきた。辛くても必死に耐えて来たのに…

リーラ王女…

貴女は私が欲しかった場所もいとも簡単に奪っていくの…

「私はここで終わってしまうの?皇后になれない…の…、うっ、うっ、なんて酷い…」
レイチェルは知らされた真実にショックを受け、ただ泣き泣き続けるしかなかった。
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