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最終章 我が祖国よ永遠に……

第8話 かけがえのない友との時間 (リーラ目線)

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 初代王ラクライン、その弟リディアムが生まれた東の街シャルデンは姉ローズの叔父シャルデン侯爵が治めていた。
 彼は国の危機を察すると早々にアンデルク国へと亡命する。裕福層が暮らすシャルデン地区の者達も同時期に他国、もしくは北の地へ移住した者も多く、残されたのは僅かな人々のみで私達は短期間で救出が出来たのだ。

 そして、いよいよ私達は西への進軍を決めた。西の街、ローズガーデンはバラの産地でも知られている。王妃サンドラが薔薇を好んでいた為、占領下でも薔薇の栽培は続いていたようだ。
 我々の訪れを人々は驚いたが占領下においての暮らしは良いものではなく、医療、食事が賄われると聞くと人々は安堵の表情を浮かべ、北の街への避難を承諾してくれたのだ。

 こうしてゾーンとの衝突もなく、民達の救出作戦を円滑に進めることに我々も安堵しながらローズガーデンでリヴァリオン城戦前に隊を休めることにしたのだ。



 汚れた顔を洗う為にリヴァリオン湖の水を掬い洗う。
「ふぅ…」
水が滴る顔を拭きながら南の山を見る。

「感じる…」

私の声にエクストリアも反応する。
『あぁ、水の精霊とヴェスタの気だな』

 エクストリアも南の山を越えたゾーン国から無数の水の精霊の力を感じ、大きな火の力も感じているようだ。

「ぺぺが間に合ってくれたらいいんだけど」
『大丈夫だ、きっと間に合っている』

 恐らくゾーン国での戦闘は激化している。

 リヴァリオンの戦況は落ち着いているためぺぺを偵察も兼ねて向かわせたのだ。
 しかし、力を増す水、火の力に不安を感じずにはいられない。

「どうか、皆が無事でありますように……」

ゾーン国の方向を向き、手を合わせ祈りを捧げる。

「クリス…無事でいて……」

 私の想いに応えるように力が反応する。
 身体が光輝き、想いを乗せるように手から光が一つずつ浮かび出す。
 無数の光の玉はふわり、ふわりとゾーン国へと向かって行く。


パキッ
誰かが木の枝を踏みつけた音がする。

「誰!」
振り向くと懐かしい人の姿が見えた。

「ルマンド……」

「リーラ……、その光は……」
ルマンドは私の光り輝く姿を見て驚いているようだ。彼は一歩、一歩、近づき光の玉に触れる。

「温かい…身体が軽くなるようだ」
光の玉はルマンドの手に触れると身体の中へと消えていく。

「これは私が持つ特別な力…」
私は手から光の玉を出すとゾーン国へと飛ばす。

「リヴァリオン国はかつて精霊という存在の生き物と共存していたの。そして、国を守るために王族のみこの精霊の力を使うことが許された…特にこの光の力は癒しの力と呼ばれているの」

「実はここに来る前にオースティン副団長からだいたいの話は聞いているんだ」
ルマンドは苦笑いをする。

「そう………
 この力はね、人の心を癒し、引き寄せる力もあるの。だから貴方が私を想う気持ちは私の特別な力が引き寄せたの。
 ごめんなさい、貴方から全てを奪ってしまった……」

ルマンドは首を振り、
「君の力のせいだって?違うよ、リーラ」
ルマンドは首を振る。

「君はいつも一生懸命で、困っている人を見捨てることができない優しい人だ。そんな真っ直ぐな君に惹かれない人なんていないさ。
 私は自分の持つ権力に溺れて、何でも手に入れることが出来ると過信したんだ。
 そして、君を…………
 結果が今の有様さ、君は何度も忠告してくれたのに馬鹿だよなぁ」

「ルマンド…」

「ローレンヌ侯爵様にも言われたよ、人は過ちを犯して見えてくるものがあると……」

私はルマンドの手を握り、
「貴方は私にとって大切な友達よ。これからだって変わらない」
「あぁ、私にとっても君は大切な友達だ」
精一杯の笑顔で私達は互いに握手を交わした。

 ルマンドから手を離すと、物陰に身を潜める人物達を呼ぶ。
「そこで身を潜めているのは……ルディ、ラディ、ロック!」

「えっ?!バレている?!」
「うわぁ!」
「重い!!!」
と盗み聞きしていたルディやラディリアス、ロックが雪崩を起こすように積み重なる。

「ふふふ、あははは」
3人の滑稽な姿に笑わずにはいられない。
この久しぶりのやり取りに懐かしさが蘇る。

「昔もこんなことあったよな、ふふっ」
ルマンドも既視感を感じたのか笑い出す。

「騎士学校の時はみんなで稽古したりご飯を食べに行ったり楽しかったなぁ」
ラディリアスも騎士学校時代を思い出したようだ。

「あの頃はとにかくリーラに振り回されたな…」
ルディも学校生活を懐かしむように思い出す。

「あの時が懐かしいよ」
若かったあの時を思い出したロックは少し辛そうな表情をした。

「そうですね、このメンバーで戦場にくるとは思わなかったです」
ラディリアスの言葉に皆しんみりと静かに頷いた。

「おい!おい、しんみりするなよ!」
沈黙を破るようにロックは大きな声を出す。
「じゃあ、みんな手を合わせろ!」
とロックが手を出すと、ルディ、ラディリアス、ルマンド、そして最後に私も手を合わせた。
「絶対、リーラの!あっ、リーラ王女様の…」

「いまさら王女様と呼ばなくていいから、」
呼び捨てから急に丁寧口調に話そうとするロックを止めておく。

「そうだよ、今さらリーラ王女様は呼びにくいよ」
とルディも同調する。

「だな、よし!リーラの国を取り戻すぞ!エイ、エイ、オー!!!」
「「「オーッ!!!」」」

 合わせた手の温かみは私を最後の決戦に向かう勇気を与えてくれた。

 私は心から感謝した…
 かけがえのない友を持てたことを……




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