魔王軍をクビにされた元四天王、双子の勇者を拾う

侍兵士

文字の大きさ
1 / 19

プロローグ

しおりを挟む
 自分で言うのもなんだけど、私は天才だ。

 魔族として生まれ落ちて僅か14年で、史上最年少で魔王軍最高地位の四天王に就任。
 その中でもトップクラスの実力を持ち、それに見合うだけの成果も挙げてきた。《鮮血の女帝ブラッディ・エンプレス》なんて二つ名も付いてしまっている。
 まさに上に立つために生まれてきた、祝福された存在。将来きっと魔族の王となって頂点に立ち、皆を導くことになるだろう。

 そんな私は今、魔王様の御前に呼び出されている。聞くところによると、大事な話があるらしい。
 きっと、これまでの素晴らしい功績を称えて、私に金銀財宝とかその類の褒美をくれるに違いない。
 もしくは、優秀すぎる私に次代の魔王の座を譲ってくれるとか、そういうこともあったりするかもしれない。


「エスペランザ、貴様は今日でクビだ」


 そんな私の妄想は、あっけなく打ち砕かれることとなった。

 最初、何を言ってるのかさっぱり理解できなかった。
 目の前の玉座に腰掛けて偉そうに踏ん反り返ってるおっさん――もとい魔王様は今、なんと言ったか。


「クビ、ですか?」
「うむ、クビ」
「私の首になにか付いてますか?」
「辞めろって意味だよ察しろ」


はー、なるほど。
 つまり、解雇、と。ほー。

 ……なんで????????????


「ちょちょちょちょ、待ってください。なんで? 私なんか悪いことしました?」
「…貴様、今の四天王が何人居るか知ってるか?」


 今の四天王?
 そりゃ四天王なんだから4人に決まってんでしょ、《玄武》・《白虎》・《朱雀》・《青龍》・そして私。

 ちょっと待て。


「5人じゃないですか!」
「そう、5人なんだよ。『四天王なのに5人居るのはおかしい』って苦情が来てな」
「それで、私を解雇すると?」
「そうしたら丁度の人数になるだろう?」


 唖然、それしか浮かんでこない。
 人数調整のためにこの私を辞めさせるっていうのか、このオッサン。


「そ、そもそもなんで私なんですか? 何か理由が?」
「城下の民100名にアンケートを取った結果だ。これを見てみろ」


 そう言って魔王様が渡してきたアンケートの結果の紙を見て、絶句する。
 『魔王軍四天王、一番辞めて欲しいのは誰?』というタイトルを冠したそのアンケートは、なんと私が全体の60パーセントの票を獲得して見事1位に輝いていた。
 しかも、その理由が酷い。


・二つ名がダサいから(40代・女性)
・子供が戦うのは危ないと思うから(50代・男性)
・二つ名がイタいから(20代・男性)
・まだ子供だから(60代・男性)
・二つ名を聞くたびむず痒くなる(10代・男性)
・二つ名が聞いてられない(30代・女性)


 ――まだ子供だから!?
 そんなの関係ないんですけど! こちとら実力でここまでのしあがって来たんですけど!?
 ていうか二つ名の事について言い過ぎじゃない!? 《鮮血の女帝ブラッディ・エンプレス》かっこいいじゃん!!


「正直、貴様がその二つ名を提案してきた時は流石の我も引いたよ」
「なんでですか!? かっこいいじゃないですか、《鮮血の女帝ブラッディ・エンプレス》!!」
「あーやめろやめろ、言うな。体が痒くなる」


 露骨に耳を塞いでそれを聞くまいとする魔王様。
 このセンスが分からないなんて、流石に脳が古ぼけていらっしゃるとしか思えない。


「酷いです! 7日間、寝ないで考えた渾身の二つ名なのにっ!!」
「貴様、その間に一瞬でも『時間の無駄』とは思わなかったのか…?」


 魔王様はまるで可哀想な子を見るような目で私を見ている。
 おっしゃる意味が分からない。二つ名はロマンだ。それに時間をかけないで果たして一体何に時間を費やせと言うのか。


「ともかく多数決で決まったのだ。魔族は民主主義、それをひっくり返すことは出来ん」
「……百歩、いや千歩……いや足りないな、億歩譲って私が四天王を降りるのは良しとしましょう」
「そこまで行くと認めんと言ってるようなものだぞ」
「なんで、クビにまでならなくちゃいけないんですか!?」


 こればかりは、激しく抗議せざるを得ない。
 四天王を降りろ、と、国民の皆様が言ってるのであれば仕方ない。不承不承ながら受け入れよう。
 しかし、それならば1段階降格とかそれでいいのではないだろうか。クビというのは、すなわち仕事を辞めろという意味。
 何も、そこまでする必要は無いんじゃないか!? 別に、大失態を犯したわけじゃあないんだし。


「だって、貴様女じゃん」


 ……は??????
 え、待って? 理解できない。
 このクソジジィ、何を言って……?


「いや我も戦闘力に目を付けて採用したからな、採用してから女と気付いたんだ。よくよく考えれば、女子供に血生臭い戦場は似合わんだろう。いい機会だし、大人しくカフェとかメイドとか、そのあたりの戦いに縁の無いところでゆったりと働くのが性に合って……うぉっ!?」
「フーッ、フーッ、フーッ……!!」


 怒りに身を任せてぶっ放した氷の魔法を、魔王はすんでのところで避ける。そのせいで玉座には氷塊が食い込んで穴が開いたが、そんなことはどうでもいい。
 今はこの差別ジジィの急所に、なんとしてでも一発ぶちかましてやりたい気分だった。


「次は、脳天にっ……!!」
「お、おい落ち着け! これ以上やるならば我も反撃するぞ、いいな!?」
「っ……!」


 それを聞いて、出しかけた魔法陣を収める。
 腐ってもシワだらけになってても、この男は魔王だ。流石に今の私では、反撃されたら無事では済まないだろう。彼我の実力差を理解して尚立ち向かうほど、私は馬鹿ではないのだ。
 怒りが一向におさまらないまま、私は魔王に背を向けて玉座の間の扉を乱暴に開けた。


「ふぅ…退職金は魔界ゆうちょに振り込んでおく、それを元手にするといい」
「うるさいっ、さっさとくたばれクソジジィっ!!」


 捨て台詞と共に、私は扉を力任せにバタンッッ!! と閉じる。
 壊れろと念じながら閉じたけど、流石に魔王城最深部の扉、そうもいかなかった。クソっ。


「………ムカつく……!」


 悔しい、悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい――!!

 偉くなって、金持ちになって、自由な暮らしがしたかった。そのためにここまで努力してきて、たまに血反吐だって吐いた。
 それを、女だからって、子供だからって、踏みにじって!! ふざけるなっ、ふざけるなっ…!! 

 怒りと、悔しさと、その他諸々の負の感情によってポロポロと溢れる涙を拭いつつ、私は憎き魔王の居城から荷物を纏めて、お望み通りにさっさと出て行ってやるのだった。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

「男のくせに料理なんて」と笑われたけど、今やギルドの胃袋を支えてます。

ファンタジー
「顔も頭も平凡で何の役にも立たない」とグリュメ家を追放されたボルダン。 辿り着いたのはギルド食堂。そこで今まで培った料理の腕を発揮し……。 ※複数のサイトに投稿しています。

外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。 しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった! 辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。 飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。 「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!? 元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...