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6 あまりにも自業自得
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ソルシエルが気絶してから30分。
未だに起きる気配は無いし、むしろうなされてる。やっぱり少し驚かしすぎたかな、反省反省。
「う~ん……骨髄から……ゴリラが……」
一体どんな過去を背負えばこんな寝言が出てくるのかは分からないけど、とにかく苦しそうだ。水でも持ってきた方がいいだろうか。
「……う、う~ん……あれ、ここは……?」
……と思って席を立ち上がったタイミングで、ソルシエルがむくりと上体を起こした。
「あ、気がついたんだね良かった」
「あ、いきなり気絶してごめんなさいエスペランザさん……………うぎゃぁぁぁぁああエスペランザだぁぁぁぁぁあぁあぁぁ殺されるぅぅぅぅぅぅう!?!?」
めっちゃくちゃ面白い反応するなこの子!
からかっちゃいけないって分かってるのに、ついついイタズラをしたくなってしまう。
でもやめとこう。これ以上やってドリムにでも噂が広まったらまたどつかれてしまう。
「そんなに怯えなくても、今の私は人間に敵対とかはしてないからさ。取って食ったりなんてしないよ、大丈夫」
「ほ、本当ですか? 内臓抜き取って血を啜ったりしませんか? 私を操り人形にして肉親と殺し合わせたりしませんか?」
「全盛期でもやらんわそんなの」
一体人間側の方で私はどんなおぞましい怪物として伝わってるんだろう……。
そもそも私は内臓の血を啜るどころか、人間を殺したことは一度も無いんだけどなぁ。どんな相手でも、精々全治半年ぐらいで抑えたつもりだ。
「そ、そうなんですね……すみません、名前を聞いただけで気絶なんて失礼なことを…」
「私こそ驚かせてごめんね、お詫びと言ってはなんだけど、なんか困ってるんでしょ? 協力してあげるよ」
「えっ、本当ですか!?」
「もちろん、何でも言って」
だいぶ怖がらせてしまったし、それぐらいはするべきだよね。
それに、この子は追われてると言ってた。それなら多分暴漢とかそんな感じの奴らに襲われたのだろう。
だったら十中八九戦闘になることは想像に難くない。戦闘ならば、私にとっては大体の相手がヌルく感じるから容易いものだ。
「まず事情から聞こうかな、一体誰から追われてるの?」
「は、はい……実は私、王宮魔術師に追われてて……」
「ちょっと待って」
想像してたのよりかなり規模がデカイ。
王宮魔術師って言ったら、王の側近。人間の中でもかなりの上位に位置するエリート集団だ。
そんなやつらに追われているとは……。
「い、一体何やらかしたの? 王宮魔術師は並大抵のことじゃあ動かないって聞いたんだけど……」
「順を追って説明します。実は私は何を隠そう王宮魔術師の第三席次でして…」
「うっそぉ!? そうは見えない!」
「言えた立場ではありませんけど結構失礼じゃないですか!?」
道理で魔法使いみたいな格好をしてたわけだ。
第三席次、つまりエリート揃いの王宮魔術師の中でも三番目に優秀ってことだ。見た目は高校生くらいなのに、すごいなぁこの子。
まぁ私も中学ぐらいの年齢で四天王やってたから人のこと言えないけど。
「こほん……それで、ある日趣味で魔法の開発をしてたら、新しい魔法を1つ作ることに成功したんです」
「新しい魔法? 凄いじゃん、どんな?」
「頭毛を永久的に消す魔法です」
「待って、オチが見えたんだけど」
この流れでそんなこと話すってことは、もう1つしか考え浮かばない。
恐らく、王宮の超お偉いさんとかにうっかりその魔法を使って、ツルっパゲにしてしまったとかそういうくだらないことなんだろう。その場合だと、この子が100パーセントぐらい悪いことになるけど。
「それで試し撃ちしたくなって、普段から毛並みを自慢してらっしゃる王様にそれを使ったらカンカンに怒って……現在に至ります」
「『現在に至ります』じゃないんだよ」
前言撤回、悪意がある分120パーセントこの子が悪い。
それで逃げてるのもまたよくない。弁明すれば投獄ぐらいで済んだだろうに。
「私も悪いとは思ってるんです…だから謝ろうとは思ってるんですけど、容赦なく殺しにくるものですから怖くて怖くて…」
「そ、そっか……まぁ殺しにくるほどでもないよね…」
「確かに魔法使ったあと10分間玉座の間で笑い転げたのは流石に悪かったと思いますけど…」
「八つ裂きにされても文句言えないよ」
「いやだってもうハゲた途端激しく怒り出して……ハゲだけにハゲしく、ぶふっ」
「ぶん殴るぞ」
だめだ……どこをとってもこの子が悪くない部分が見当たらない……。
でもなんでもやると言ってしまった手前、ここで見捨てるのは流石に少し酷いか。
「はぁ、分かったよ。私も一緒に謝ったげるから、ちゃんと素直に謝ろう?」
「ほ、ほんとですか!? ありがとうございます!! この恩は一生忘れません!」
ただの偏見だけど、すぐ忘れそうな気がする。
とにかく、即座に殺しに来ても、私が守れば大丈夫だろう。あくまで悪いのはソルシエルだから、こっちは徹底的に受け身に回らないといけないけど。
その時、店の入口の方からトントン、という音が聴こえてきた。
かなり強い魔力を複数感じる、これはもしかして……。
「ひぃぃっ、た、多分魔術師達ですよっ! 嗅ぎつけられた……!」
「大丈夫大丈夫、誠心誠意土下座しよ? ほら、早く来て」
私は嫌がるソルシエルの手をズルズルと引っ張って、強制的にベッドから引き摺り下ろした。
さて、謝るのは苦手だけど…頑張るしかないか。
未だに起きる気配は無いし、むしろうなされてる。やっぱり少し驚かしすぎたかな、反省反省。
「う~ん……骨髄から……ゴリラが……」
一体どんな過去を背負えばこんな寝言が出てくるのかは分からないけど、とにかく苦しそうだ。水でも持ってきた方がいいだろうか。
「……う、う~ん……あれ、ここは……?」
……と思って席を立ち上がったタイミングで、ソルシエルがむくりと上体を起こした。
「あ、気がついたんだね良かった」
「あ、いきなり気絶してごめんなさいエスペランザさん……………うぎゃぁぁぁぁああエスペランザだぁぁぁぁぁあぁあぁぁ殺されるぅぅぅぅぅぅう!?!?」
めっちゃくちゃ面白い反応するなこの子!
からかっちゃいけないって分かってるのに、ついついイタズラをしたくなってしまう。
でもやめとこう。これ以上やってドリムにでも噂が広まったらまたどつかれてしまう。
「そんなに怯えなくても、今の私は人間に敵対とかはしてないからさ。取って食ったりなんてしないよ、大丈夫」
「ほ、本当ですか? 内臓抜き取って血を啜ったりしませんか? 私を操り人形にして肉親と殺し合わせたりしませんか?」
「全盛期でもやらんわそんなの」
一体人間側の方で私はどんなおぞましい怪物として伝わってるんだろう……。
そもそも私は内臓の血を啜るどころか、人間を殺したことは一度も無いんだけどなぁ。どんな相手でも、精々全治半年ぐらいで抑えたつもりだ。
「そ、そうなんですね……すみません、名前を聞いただけで気絶なんて失礼なことを…」
「私こそ驚かせてごめんね、お詫びと言ってはなんだけど、なんか困ってるんでしょ? 協力してあげるよ」
「えっ、本当ですか!?」
「もちろん、何でも言って」
だいぶ怖がらせてしまったし、それぐらいはするべきだよね。
それに、この子は追われてると言ってた。それなら多分暴漢とかそんな感じの奴らに襲われたのだろう。
だったら十中八九戦闘になることは想像に難くない。戦闘ならば、私にとっては大体の相手がヌルく感じるから容易いものだ。
「まず事情から聞こうかな、一体誰から追われてるの?」
「は、はい……実は私、王宮魔術師に追われてて……」
「ちょっと待って」
想像してたのよりかなり規模がデカイ。
王宮魔術師って言ったら、王の側近。人間の中でもかなりの上位に位置するエリート集団だ。
そんなやつらに追われているとは……。
「い、一体何やらかしたの? 王宮魔術師は並大抵のことじゃあ動かないって聞いたんだけど……」
「順を追って説明します。実は私は何を隠そう王宮魔術師の第三席次でして…」
「うっそぉ!? そうは見えない!」
「言えた立場ではありませんけど結構失礼じゃないですか!?」
道理で魔法使いみたいな格好をしてたわけだ。
第三席次、つまりエリート揃いの王宮魔術師の中でも三番目に優秀ってことだ。見た目は高校生くらいなのに、すごいなぁこの子。
まぁ私も中学ぐらいの年齢で四天王やってたから人のこと言えないけど。
「こほん……それで、ある日趣味で魔法の開発をしてたら、新しい魔法を1つ作ることに成功したんです」
「新しい魔法? 凄いじゃん、どんな?」
「頭毛を永久的に消す魔法です」
「待って、オチが見えたんだけど」
この流れでそんなこと話すってことは、もう1つしか考え浮かばない。
恐らく、王宮の超お偉いさんとかにうっかりその魔法を使って、ツルっパゲにしてしまったとかそういうくだらないことなんだろう。その場合だと、この子が100パーセントぐらい悪いことになるけど。
「それで試し撃ちしたくなって、普段から毛並みを自慢してらっしゃる王様にそれを使ったらカンカンに怒って……現在に至ります」
「『現在に至ります』じゃないんだよ」
前言撤回、悪意がある分120パーセントこの子が悪い。
それで逃げてるのもまたよくない。弁明すれば投獄ぐらいで済んだだろうに。
「私も悪いとは思ってるんです…だから謝ろうとは思ってるんですけど、容赦なく殺しにくるものですから怖くて怖くて…」
「そ、そっか……まぁ殺しにくるほどでもないよね…」
「確かに魔法使ったあと10分間玉座の間で笑い転げたのは流石に悪かったと思いますけど…」
「八つ裂きにされても文句言えないよ」
「いやだってもうハゲた途端激しく怒り出して……ハゲだけにハゲしく、ぶふっ」
「ぶん殴るぞ」
だめだ……どこをとってもこの子が悪くない部分が見当たらない……。
でもなんでもやると言ってしまった手前、ここで見捨てるのは流石に少し酷いか。
「はぁ、分かったよ。私も一緒に謝ったげるから、ちゃんと素直に謝ろう?」
「ほ、ほんとですか!? ありがとうございます!! この恩は一生忘れません!」
ただの偏見だけど、すぐ忘れそうな気がする。
とにかく、即座に殺しに来ても、私が守れば大丈夫だろう。あくまで悪いのはソルシエルだから、こっちは徹底的に受け身に回らないといけないけど。
その時、店の入口の方からトントン、という音が聴こえてきた。
かなり強い魔力を複数感じる、これはもしかして……。
「ひぃぃっ、た、多分魔術師達ですよっ! 嗅ぎつけられた……!」
「大丈夫大丈夫、誠心誠意土下座しよ? ほら、早く来て」
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さて、謝るのは苦手だけど…頑張るしかないか。
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