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第2章 夫の裏切りと離婚の決意
2-4公爵邸の舞踏会と決定的な侮辱
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2-4公爵邸の舞踏会と決定的な侮辱
それから数日後、クラレンス公爵家の館で大規模な舞踏会が開かれる運びとなった。王宮の行事とタイミングを合わせたものであり、貴族や要人たちを広く招いての“交流の場”でもある。
ジェニファーはその準備に奔走し、内装の飾り付けや招待状の確認、当日の進行表などをチェックしていた。こういった業務は大変ではあったが、成功すれば公爵家の名声が高まるのは間違いない。自分の評価にも繋がるため、ジェニファーは全力を尽くしていた。
そして当日。館の大広間は豪華絢爛な装飾で彩られ、シャンデリアの光がきらめいている。床に敷かれた赤い絨毯の上を、思い思いのドレスや礼服を纏った貴族たちが行き交い、楽師たちの奏でる優雅な音楽が空気を満たしていた。
ジェニファーも純白のドレスに身を包み、貴婦人たちを迎える。表向きは微笑みを絶やさず、さながら“完璧な公爵夫人”そのものである。
しかし、そこにもまた、ローザの姿があった。彼女は深紅のドレスを着こなし、大胆な胸元を露わにしている。華やかな化粧と装飾品で着飾り、見る者の目を奪うような派手さを放っていた。
「ごきげんよう、ジェニファー公爵夫人。お招きありがとうございますわ」
ローザは上品な笑みを浮かべながら、どこか挑発的な瞳を向けてくる。
「ごきげんよう、ローザ嬢。今夜は思い切り楽しんでいってくださいね」
ジェニファーは“公爵夫人”としての礼儀を崩さない。だが、ローザの背後に目をやると、そこにはエドワードの姿があった。まるでエスコートでもしているかのように、彼女のすぐ後ろを歩いていたのだ。
(まるで正妻のように振る舞うつもり?)
怒りや悲しみが渦巻くが、ジェニファーはそれらを全て飲み込んで、笑顔を保つ。これもまた、貴族社会における“マナー”の一部なのだ。
やがて舞踏会が始まり、多くの紳士淑女が音楽に合わせて優美にステップを踏む。ジェニファーも招待客の貴族たちと挨拶を交わしながら、適宜ダンスに誘われるままフロアを回った。
しかし、公爵夫人であるジェニファーに本来なら集中すべき注目は、なぜかローザへと奪われている気配がある。ローザはエドワードに腕を取られ、情熱的なタンゴのリズムで華やかなステップを踏んでいた。周囲が拍手喝采する中、ジェニファーだけが“脇役”のような立ち位置に追いやられている。
「……なんとも派手なお二人ですこと」
「やっぱり殿下はあちらがお好きなのでしょうねぇ」
耳を澄ませれば、聞こえてくるのはそんな囁きばかり。貴婦人たちはジェニファーの前ではにこやかにお世辞を並べるが、裏ではこうして冷ややかな視線を送っている。
ジェニファーはじっと耐えるしかなかった。ここで取り乱せば「やはり若く未熟な夫人だ」と見なされ、イザベラからの評価も更に落ちるだろう。
そして、さらなる屈辱が訪れたのは、舞踏会も後半に差し掛かった頃だった。
メインのワルツが始まる直前、エドワードがフロアの中央に向かってローザの手を引いて進んでいく。貴族たちはそれを見てさっと道を開け、まるで二人を祝福するような空気を作る。
だが、本来ならばワルツの主役は“公爵夫人”であるジェニファーとその夫たるエドワードだ。公式の舞踏会で、開催家の夫妻が最初にワルツを踊るのは伝統でもある。
しかし、エドワードはジェニファーを無視し、ローザを選んだのだ。周囲の視線が一気にジェニファーへ集中する。
「まあ……あれはさすがに失礼ではなくて?」
「かわいそうに、公爵夫人……」
同情とも嘲笑ともつかない声が聞こえ、ジェニファーは胸をえぐられるような痛みに襲われる。
(もう、これ以上は……)
どれだけ我慢すればよいのだろう。自分は貴族としての誇りを守るため、家のため、と必死に耐えてきた。だが、今日という今日はあまりにも露骨すぎる。まるでジェニファーの存在そのものを否定されているようだった。
エドワードとローザが見せる完璧なステップは、周囲の口笛や拍手を呼び、フロアは盛り上がっている。二人は息を合わせ、ほとんど抱き合うかのような熱いワルツを踊ってみせた。
その光景を目に焼き付けながら、ジェニファーの目には涙が滲んだ。悔しい、悲しい、しかしどうにもならない――さまざまな感情が胸をいっぱいにするが、彼女は歯を食いしばって笑みを作ろうとする。
――けれど、それはもう限界だった。
「……お腹の具合が悪い。失礼するわ」
ジェニファーは苦しい言い訳を口にして、周囲に気づかれないように大広間を後にした。胸が張り裂けそうな苦しみに耐えきれず、館の廊下を足早に進む。途中でメイドが心配そうに声をかけてくるが、ジェニファーは軽く首を振り、そのまま逃げるように自室へ向かった。
部屋に入るや否や、彼女はドアに背をもたれかけ、頭を抱える。化粧や髪型は完璧に仕上げていたが、涙は勝手に溢れて止まらなかった。
――どうして、こんな仕打ちを受けなければならないの。
言葉にならない嘆きが、声となって嗚咽に変わる。外ではまだ、舞踏会の華やかな音楽が鳴り響いているのに、そのコントラストがかえって惨めさを際立たせた。
それから数日後、クラレンス公爵家の館で大規模な舞踏会が開かれる運びとなった。王宮の行事とタイミングを合わせたものであり、貴族や要人たちを広く招いての“交流の場”でもある。
ジェニファーはその準備に奔走し、内装の飾り付けや招待状の確認、当日の進行表などをチェックしていた。こういった業務は大変ではあったが、成功すれば公爵家の名声が高まるのは間違いない。自分の評価にも繋がるため、ジェニファーは全力を尽くしていた。
そして当日。館の大広間は豪華絢爛な装飾で彩られ、シャンデリアの光がきらめいている。床に敷かれた赤い絨毯の上を、思い思いのドレスや礼服を纏った貴族たちが行き交い、楽師たちの奏でる優雅な音楽が空気を満たしていた。
ジェニファーも純白のドレスに身を包み、貴婦人たちを迎える。表向きは微笑みを絶やさず、さながら“完璧な公爵夫人”そのものである。
しかし、そこにもまた、ローザの姿があった。彼女は深紅のドレスを着こなし、大胆な胸元を露わにしている。華やかな化粧と装飾品で着飾り、見る者の目を奪うような派手さを放っていた。
「ごきげんよう、ジェニファー公爵夫人。お招きありがとうございますわ」
ローザは上品な笑みを浮かべながら、どこか挑発的な瞳を向けてくる。
「ごきげんよう、ローザ嬢。今夜は思い切り楽しんでいってくださいね」
ジェニファーは“公爵夫人”としての礼儀を崩さない。だが、ローザの背後に目をやると、そこにはエドワードの姿があった。まるでエスコートでもしているかのように、彼女のすぐ後ろを歩いていたのだ。
(まるで正妻のように振る舞うつもり?)
怒りや悲しみが渦巻くが、ジェニファーはそれらを全て飲み込んで、笑顔を保つ。これもまた、貴族社会における“マナー”の一部なのだ。
やがて舞踏会が始まり、多くの紳士淑女が音楽に合わせて優美にステップを踏む。ジェニファーも招待客の貴族たちと挨拶を交わしながら、適宜ダンスに誘われるままフロアを回った。
しかし、公爵夫人であるジェニファーに本来なら集中すべき注目は、なぜかローザへと奪われている気配がある。ローザはエドワードに腕を取られ、情熱的なタンゴのリズムで華やかなステップを踏んでいた。周囲が拍手喝采する中、ジェニファーだけが“脇役”のような立ち位置に追いやられている。
「……なんとも派手なお二人ですこと」
「やっぱり殿下はあちらがお好きなのでしょうねぇ」
耳を澄ませれば、聞こえてくるのはそんな囁きばかり。貴婦人たちはジェニファーの前ではにこやかにお世辞を並べるが、裏ではこうして冷ややかな視線を送っている。
ジェニファーはじっと耐えるしかなかった。ここで取り乱せば「やはり若く未熟な夫人だ」と見なされ、イザベラからの評価も更に落ちるだろう。
そして、さらなる屈辱が訪れたのは、舞踏会も後半に差し掛かった頃だった。
メインのワルツが始まる直前、エドワードがフロアの中央に向かってローザの手を引いて進んでいく。貴族たちはそれを見てさっと道を開け、まるで二人を祝福するような空気を作る。
だが、本来ならばワルツの主役は“公爵夫人”であるジェニファーとその夫たるエドワードだ。公式の舞踏会で、開催家の夫妻が最初にワルツを踊るのは伝統でもある。
しかし、エドワードはジェニファーを無視し、ローザを選んだのだ。周囲の視線が一気にジェニファーへ集中する。
「まあ……あれはさすがに失礼ではなくて?」
「かわいそうに、公爵夫人……」
同情とも嘲笑ともつかない声が聞こえ、ジェニファーは胸をえぐられるような痛みに襲われる。
(もう、これ以上は……)
どれだけ我慢すればよいのだろう。自分は貴族としての誇りを守るため、家のため、と必死に耐えてきた。だが、今日という今日はあまりにも露骨すぎる。まるでジェニファーの存在そのものを否定されているようだった。
エドワードとローザが見せる完璧なステップは、周囲の口笛や拍手を呼び、フロアは盛り上がっている。二人は息を合わせ、ほとんど抱き合うかのような熱いワルツを踊ってみせた。
その光景を目に焼き付けながら、ジェニファーの目には涙が滲んだ。悔しい、悲しい、しかしどうにもならない――さまざまな感情が胸をいっぱいにするが、彼女は歯を食いしばって笑みを作ろうとする。
――けれど、それはもう限界だった。
「……お腹の具合が悪い。失礼するわ」
ジェニファーは苦しい言い訳を口にして、周囲に気づかれないように大広間を後にした。胸が張り裂けそうな苦しみに耐えきれず、館の廊下を足早に進む。途中でメイドが心配そうに声をかけてくるが、ジェニファーは軽く首を振り、そのまま逃げるように自室へ向かった。
部屋に入るや否や、彼女はドアに背をもたれかけ、頭を抱える。化粧や髪型は完璧に仕上げていたが、涙は勝手に溢れて止まらなかった。
――どうして、こんな仕打ちを受けなければならないの。
言葉にならない嘆きが、声となって嗚咽に変わる。外ではまだ、舞踏会の華やかな音楽が鳴り響いているのに、そのコントラストがかえって惨めさを際立たせた。
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