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第2章 夫の裏切りと離婚の決意
2-6決意と覚悟
2-6決意と覚悟
翌朝、ジェニファーは早速、書斎へ向かいペンを取った。離婚にまつわる書類を用意するには、まずどのような段取りが必要か、頭の中で整理する。
そもそも、貴族社会で離婚は珍しい。ましてや相手が王弟の公爵ともなれば、波紋は計り知れないだろう。国王や関係する貴族たちの意向も無視できない。一筋縄ではいかない手続きを踏まなければならないのは明白だった。
それでも、ジェニファーは進むしかない。
ドアをノックする音がして、マーサが顔を出す。
「ジェニファー様、少しご相談がございます」
「ええ、どうぞ。お入りなさい」
マーサは室内に入り、ジェニファーの向かいの椅子に座った。どこか深刻そうな顔をしている。
「実は、昨夜殿下とローザ嬢が密談していたとの報告がありまして。その内容までは把握できませんでしたが、ローザ嬢が“公爵家の財政”や“新たな商会への投資”について強く口出ししていたようなのです」
「……公爵家の財政、ですって?」
ジェニファーは眉をひそめる。エドワードには政治の方針や領地経営などで発言権があるのは当然だが、ローザはあくまで外部の人間だ。なぜ彼女がそこまで口を挟むのか。
「しかも、その商会というのは、以前からローザ嬢の遠縁が経営していると噂されていて……もしや、私利私欲のために殿下を利用している可能性がございます」
「そんな……。エドワード殿下は、そのことに気づいていないのでしょうか」
「さあ……少なくとも、昨夜の様子では殿下も乗り気のようでした。殿下は王宮からの許可を得れば、ある程度の予算を動かせますから。もしローザ嬢が裏で利益を得る仕組みを作ることができれば……」
ジェニファーは思わず唇を噛む。もしかしたら、エドワードは本当にローザを愛しているわけではなく、何らかの取り引きや打算的な関係で結びついているのかもしれない。それも含めて“自由”だと言い張っているのだろうが、正妻であるジェニファーを無視して進められるのはたまらなく不愉快だ。
――とはいえ、もはや私には関係のないことかもしれない。離婚を決意した以上、エドワードの行動に干渉する筋合いはない。
そう頭ではわかっていても、マーサからの報告を聞くと胸がざわつく。クラレンス公爵家は、言うまでもなく重要な貴族の一角。もしローザの策略で公爵家の財政が危うくなれば、ランカスター家にも影響が及ぶかもしれない。
「マーサ、私にできることは何かあるかしら。仮に殿下が暴走して、公爵家の財源を食い潰すようなことがあれば……」
ジェニファーがそう問うと、マーサは少し困ったように視線を落とす。
「公爵夫人としては、殿下に意見を申し上げることが可能です。ですが、昨夜のご様子では殿下が耳を傾けるかどうか……。むしろ、ローザ嬢と対立するのは得策とは思えません」
「……ええ、わかっています。私も闇雲に争うつもりはありません。もうすぐ、この家を出ることになるかもしれませんし」
ジェニファーの淡々とした言葉に、マーサは目を見開いた。
「この家を……出る、とおっしゃいますと?」
「昨夜、殿下に離婚を申し出ました。正式に手続きを行うためには多くの障害があるでしょうが、私はもうこの結婚を続けるつもりはありません」
マーサは一瞬言葉を失い、やがて小声でため息をついた。
「……そうですか。殿下からはまだ何も仰せつかっておりませんが、もしそうなれば公爵家にとっても大きな問題ですね。私どものような使用人には、あまり関わりのない話と言うべきかもしれませんが……」
「いいえ、マーサ。あなたには今までよくしていただきました。私が公爵家を離れたあとも、ここで仕えていくのですよね?」
「ええ、そのつもりです。ここは私の生まれ育った家同然ですので……ただ、ジェニファー様のご決断については、私個人としては応援したい気持ちもございます」
マーサの言葉に、ジェニファーは温かいものを感じた。自分を慕い、理解してくれる人が少しでもいる――それは、今の彼女にとってどれほど心強いことか。
「ありがとう。あなたのような味方がいるから、私は自分の道を選ぶ勇気を持てるのかもしれない。……まだ先行きはわからないけれど、もう決めたことです」
翌朝、ジェニファーは早速、書斎へ向かいペンを取った。離婚にまつわる書類を用意するには、まずどのような段取りが必要か、頭の中で整理する。
そもそも、貴族社会で離婚は珍しい。ましてや相手が王弟の公爵ともなれば、波紋は計り知れないだろう。国王や関係する貴族たちの意向も無視できない。一筋縄ではいかない手続きを踏まなければならないのは明白だった。
それでも、ジェニファーは進むしかない。
ドアをノックする音がして、マーサが顔を出す。
「ジェニファー様、少しご相談がございます」
「ええ、どうぞ。お入りなさい」
マーサは室内に入り、ジェニファーの向かいの椅子に座った。どこか深刻そうな顔をしている。
「実は、昨夜殿下とローザ嬢が密談していたとの報告がありまして。その内容までは把握できませんでしたが、ローザ嬢が“公爵家の財政”や“新たな商会への投資”について強く口出ししていたようなのです」
「……公爵家の財政、ですって?」
ジェニファーは眉をひそめる。エドワードには政治の方針や領地経営などで発言権があるのは当然だが、ローザはあくまで外部の人間だ。なぜ彼女がそこまで口を挟むのか。
「しかも、その商会というのは、以前からローザ嬢の遠縁が経営していると噂されていて……もしや、私利私欲のために殿下を利用している可能性がございます」
「そんな……。エドワード殿下は、そのことに気づいていないのでしょうか」
「さあ……少なくとも、昨夜の様子では殿下も乗り気のようでした。殿下は王宮からの許可を得れば、ある程度の予算を動かせますから。もしローザ嬢が裏で利益を得る仕組みを作ることができれば……」
ジェニファーは思わず唇を噛む。もしかしたら、エドワードは本当にローザを愛しているわけではなく、何らかの取り引きや打算的な関係で結びついているのかもしれない。それも含めて“自由”だと言い張っているのだろうが、正妻であるジェニファーを無視して進められるのはたまらなく不愉快だ。
――とはいえ、もはや私には関係のないことかもしれない。離婚を決意した以上、エドワードの行動に干渉する筋合いはない。
そう頭ではわかっていても、マーサからの報告を聞くと胸がざわつく。クラレンス公爵家は、言うまでもなく重要な貴族の一角。もしローザの策略で公爵家の財政が危うくなれば、ランカスター家にも影響が及ぶかもしれない。
「マーサ、私にできることは何かあるかしら。仮に殿下が暴走して、公爵家の財源を食い潰すようなことがあれば……」
ジェニファーがそう問うと、マーサは少し困ったように視線を落とす。
「公爵夫人としては、殿下に意見を申し上げることが可能です。ですが、昨夜のご様子では殿下が耳を傾けるかどうか……。むしろ、ローザ嬢と対立するのは得策とは思えません」
「……ええ、わかっています。私も闇雲に争うつもりはありません。もうすぐ、この家を出ることになるかもしれませんし」
ジェニファーの淡々とした言葉に、マーサは目を見開いた。
「この家を……出る、とおっしゃいますと?」
「昨夜、殿下に離婚を申し出ました。正式に手続きを行うためには多くの障害があるでしょうが、私はもうこの結婚を続けるつもりはありません」
マーサは一瞬言葉を失い、やがて小声でため息をついた。
「……そうですか。殿下からはまだ何も仰せつかっておりませんが、もしそうなれば公爵家にとっても大きな問題ですね。私どものような使用人には、あまり関わりのない話と言うべきかもしれませんが……」
「いいえ、マーサ。あなたには今までよくしていただきました。私が公爵家を離れたあとも、ここで仕えていくのですよね?」
「ええ、そのつもりです。ここは私の生まれ育った家同然ですので……ただ、ジェニファー様のご決断については、私個人としては応援したい気持ちもございます」
マーサの言葉に、ジェニファーは温かいものを感じた。自分を慕い、理解してくれる人が少しでもいる――それは、今の彼女にとってどれほど心強いことか。
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