白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚

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第2章 夫の裏切りと離婚の決意

2-7家族との衝突と邸を出る日

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2-7家族との衝突と邸を出る日

 その翌日、ジェニファーは実家であるランカスター家へと足を運んだ。離婚の意志を父に告げるためである。
 王都にあるランカスター家の館は、クラレンス公爵家ほどの豪勢さはないが、由緒正しい品格を備えていた。ジェニファーが幼少期を過ごした思い出深い場所だが、久しぶりに訪れるとやや寂れた雰囲気が漂っているようにも感じられる。やはり財政面が傾いているという噂は本当なのだろう。
 客間に通されると、父であるグレゴリー・ランカスター公が姿を現した。彼は厳つい顔つきに皺を刻み、威圧感のある体格をしているが、ジェニファーが幼い頃は優しい笑みを見せることも多かった。
「久しいな、ジェニファー。公爵家での暮らしはどうだ? エドワード殿下とはうまくやれているのか?」
 父の問いかけに、ジェニファーは淡々と切り出した。
「……父様。実は私、エドワード殿下との離婚を考えております」
「な、何だと?」
 グレゴリー公は驚きに目を見開き、思わず声を荒らげた。
「馬鹿を言うんじゃない! 離婚など認められるはずがないだろう。国王の弟君との縁組がどれほど重要かわかっているのか?」
 怒気を含んだ叱責に、ジェニファーは動じずにまっすぐ父を見返した。
「承知しています。でも、あの人との結婚生活は、あまりにも侮辱的で……私には耐えられません。こんな形で続けるくらいなら、いっそ離婚する方がましです」
「何を考えているんだ! これはお前一人の問題ではない! ランカスター家の命運がかかっているんだぞ!」
 父の怒声が客間に響く。ジェニファーはそれでも怯まず、言葉を重ねる。
「お父様には感謝しています。私を大事に育ててくださったし、この縁組をまとめるために多大な努力をしてくださった。でも……私はただの駒ではありません。どうか、私の意志を尊重してください」
「馬鹿を言うな! そうやって甘ったれたことを言うから、お前は……」
 グレゴリー公は顔を真っ赤にして怒鳴り、机を叩いた。しかし、ジェニファーが怯む様子はない。むしろ、静かに立ち上がって深々と頭を下げた。
「私はもう決めました。どんなにランカスター家に不利益があろうと、これ以上あの家にはいられません。申し訳ありませんが、私を止めようとしても無駄です」
「待ちなさい、ジェニファー! いいか、少し考え直せ……!」
 父の声を背中で聞きながら、ジェニファーは足早に客間を出て行った。廊下を歩く間、あちこちの使用人たちが心配そうな顔で見守るが、彼女は誰にも挨拶をせず、ただ胸を張って館を後にする。
 ――自分の決意は揺らがない。たとえ家族に罵倒されようとも。

 数日後、ジェニファーは最低限の身の回り品だけをまとめて、クラレンス公爵家の館を出た。まだ正式に離婚が成立したわけではないが、エドワードとの協議の末、別居という形で一旦距離を置くことになったのだ。
 行き先は、王都の少し外れにある離宮の一室。国王が一時的に外国の要人を迎えるための施設だが、使用していない部屋があることをマーサが調べてくれたのだ。ジェニファーは“体調不良”を理由に、そこで静養する名目を得て、事実上の別居生活を始める。
 ――公爵夫人としての地位は、まだ継続しているという建前。だが、心はすでに“離婚”に向かっている。
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