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第3章 新たな運命の扉
3-3.ある出会い――アレクサンダー・ヴォルフ大公
3.ある出会い――アレクサンダー・ヴォルフ大公
離宮での暮らしが始まってから、ひと月ほどが過ぎたある日のこと。
ジェニファーのもとに王宮から使者が訪れた。どうやら、外国からの客人を王都に迎えるにあたって、離宮の一部を利用するとの連絡があったらしい。
「国王陛下のご意向により、北方の大国ヴォルフ公国からの特使をこちらの離宮でおもてなしすることが決まりました。つきましては、ジェニファー様にはご迷惑をおかけいたしますが、離宮の設備などを少しお貸しいただきたいとのことです」
使者は淡々とそう説明すると、続けてこう付け加えた。
「ヴォルフ公国は軍事力と鉱山資源においてこの大陸でも屈指の存在です。国王陛下は、彼らとの関係を良好に保つため、大公ご自身をお迎えしての晩餐会を予定しているそうです。もしジェニファー様にご協力いただけるようでしたら、離宮の一室を飾り付けるなど、何かと手伝っていただけると助かります」
ジェニファーは困惑しながらも頷いた。公的な行事に貸し出すのであれば、ここは王家が管理する離宮なのだから、自分が断る権利などそもそもない。それどころか、名目上はまだ“公爵夫人”であり、王家の要請をないがしろにはできないだろう。
「わかりました。私にできることがあれば、お手伝いさせていただきます」
そう返事をしたジェニファーは、急きょメイドや使用人たちとともに離宮の客室を整え始めた。もともと人員が少ないため、テキパキと動いても結構な時間がかかる。
――そして数日後。
ヴォルフ公国からの特使が馬車で到着する。その一行の先頭に立ち、白馬に乗っていたのが、若き大公アレクサンダー・ヴォルフであった。
アレクサンダーは身長が高く、浅黒い肌と金色に近い焦げ茶の髪が特徴的な青年だ。北方の血筋とは思えないほど洗練された物腰を持ち、鋭い眼差しの奥にはどこか穏やかさが宿っている。
ジェニファーが離宮の玄関先で出迎えると、アレクサンダーは馬から降りて片膝をつき、貴族の礼を取った。
「これはご丁寧に。あなたがここの……ああ、話には聞いています。クラレンス公爵家のご令嬢でありながら、ここに滞在されているとか」
ジェニファーは、その発言に多少引っかかるものを感じつつも、微笑みで返す。
「私はジェニファー・ランカスターと申します。一応、公爵夫人という肩書きでここをお借りしているのですけれど……まだ至らない点も多く、行き届かないところがございましたら申し訳ございません」
アレクサンダーは微かに首を傾げ、興味を引かれたようにジェニファーの顔を見つめた。
「いいえ、とんでもない。あなたのような美しい方に出迎えていただけるなら、この離宮で過ごす時間が楽しみになりますよ」
ごく自然な口調で、さらりと褒め言葉を口にする彼に、ジェニファーは少し戸惑う。エドワードや王宮の貴族たちとは、どこか言葉の温度が違うように思えた。
「とにかく、歓迎いたします。離宮の設備は限られていますが、何か必要なものがあれば遠慮なく仰ってください」
「ありがとう。遠慮なくお願いすることになるかもしれません。これでも私、外交や軍務で色々な国を回っていますが、実はまだこちらの国には不慣れで……」
そう言って、アレクサンダーは愉快そうに笑う。その穏やかな表情に、ジェニファーはほんの少し安堵を覚えた。北方の大公と聞いて最初は厳つい男性を想像していたが、彼はむしろ物腰が柔らかく親しみやすい印象だ。
一方、周囲の従者たちは、そんなアレクサンダーの態度を見て微妙に焦っているのかもしれない。大公という立場でありながら、初対面の女性にあまりに砕けた態度を取るのは珍しいのだろう。
「では案内役を務めますので、どうぞ中へお入りください」
ジェニファーがそう告げると、アレクサンダーはうなずき、一行を従えて離宮の中へと足を踏み入れた。
離宮での暮らしが始まってから、ひと月ほどが過ぎたある日のこと。
ジェニファーのもとに王宮から使者が訪れた。どうやら、外国からの客人を王都に迎えるにあたって、離宮の一部を利用するとの連絡があったらしい。
「国王陛下のご意向により、北方の大国ヴォルフ公国からの特使をこちらの離宮でおもてなしすることが決まりました。つきましては、ジェニファー様にはご迷惑をおかけいたしますが、離宮の設備などを少しお貸しいただきたいとのことです」
使者は淡々とそう説明すると、続けてこう付け加えた。
「ヴォルフ公国は軍事力と鉱山資源においてこの大陸でも屈指の存在です。国王陛下は、彼らとの関係を良好に保つため、大公ご自身をお迎えしての晩餐会を予定しているそうです。もしジェニファー様にご協力いただけるようでしたら、離宮の一室を飾り付けるなど、何かと手伝っていただけると助かります」
ジェニファーは困惑しながらも頷いた。公的な行事に貸し出すのであれば、ここは王家が管理する離宮なのだから、自分が断る権利などそもそもない。それどころか、名目上はまだ“公爵夫人”であり、王家の要請をないがしろにはできないだろう。
「わかりました。私にできることがあれば、お手伝いさせていただきます」
そう返事をしたジェニファーは、急きょメイドや使用人たちとともに離宮の客室を整え始めた。もともと人員が少ないため、テキパキと動いても結構な時間がかかる。
――そして数日後。
ヴォルフ公国からの特使が馬車で到着する。その一行の先頭に立ち、白馬に乗っていたのが、若き大公アレクサンダー・ヴォルフであった。
アレクサンダーは身長が高く、浅黒い肌と金色に近い焦げ茶の髪が特徴的な青年だ。北方の血筋とは思えないほど洗練された物腰を持ち、鋭い眼差しの奥にはどこか穏やかさが宿っている。
ジェニファーが離宮の玄関先で出迎えると、アレクサンダーは馬から降りて片膝をつき、貴族の礼を取った。
「これはご丁寧に。あなたがここの……ああ、話には聞いています。クラレンス公爵家のご令嬢でありながら、ここに滞在されているとか」
ジェニファーは、その発言に多少引っかかるものを感じつつも、微笑みで返す。
「私はジェニファー・ランカスターと申します。一応、公爵夫人という肩書きでここをお借りしているのですけれど……まだ至らない点も多く、行き届かないところがございましたら申し訳ございません」
アレクサンダーは微かに首を傾げ、興味を引かれたようにジェニファーの顔を見つめた。
「いいえ、とんでもない。あなたのような美しい方に出迎えていただけるなら、この離宮で過ごす時間が楽しみになりますよ」
ごく自然な口調で、さらりと褒め言葉を口にする彼に、ジェニファーは少し戸惑う。エドワードや王宮の貴族たちとは、どこか言葉の温度が違うように思えた。
「とにかく、歓迎いたします。離宮の設備は限られていますが、何か必要なものがあれば遠慮なく仰ってください」
「ありがとう。遠慮なくお願いすることになるかもしれません。これでも私、外交や軍務で色々な国を回っていますが、実はまだこちらの国には不慣れで……」
そう言って、アレクサンダーは愉快そうに笑う。その穏やかな表情に、ジェニファーはほんの少し安堵を覚えた。北方の大公と聞いて最初は厳つい男性を想像していたが、彼はむしろ物腰が柔らかく親しみやすい印象だ。
一方、周囲の従者たちは、そんなアレクサンダーの態度を見て微妙に焦っているのかもしれない。大公という立場でありながら、初対面の女性にあまりに砕けた態度を取るのは珍しいのだろう。
「では案内役を務めますので、どうぞ中へお入りください」
ジェニファーがそう告げると、アレクサンダーはうなずき、一行を従えて離宮の中へと足を踏み入れた。
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