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第3章 新たな運命の扉
3-6.告げられる想い
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3-6.告げられる想い
曲が終わると、アレクサンダーは照れたように息をつき、ジェニファーの手を離した。
「いやはや……私のような初心者にお付き合いいただき、ありがとうございます。あなたのおかげでとても楽しい一曲になりました」
ジェニファーも軽く笑みを返す。
「私こそ、異国の方と踊るのは新鮮で……不慣れな部分もありましたけれど、楽しませていただきました」
その時、アレクサンダーの瞳が真剣な色を帯びる。騒がしい宴の最中だが、二人の周囲だけがふと静かに感じられるような、不思議な瞬間だった。
「ジェニファー、あなたともっと話がしたい。もしよければ、晩餐会が終わったあとに少しお時間をいただけませんか? あなたのことを……もっと知りたい」
その言葉に、一瞬ジェニファーの心が揺れる。だが、今の自分はエドワードとの離婚問題を抱える身。公爵夫人という肩書きも中途半端に残ったままで、誰かと親密に関わることなど許されるのだろうか。
――しかし、彼女の口をついて出たのは、意外にも肯定の返事だった。
「はい……わかりました。お役に立てるかわかりませんが、よければお話をしましょう」
こうして晩餐会が終わった後、ジェニファーは王宮の庭園へと足を運んだ。夜空には月が浮かび、淡い光が噴水と植え込みを照らしている。冷たい石畳を歩くと、空気は涼しく、肌に触れる夜風が心地よい。
少し遅れてやってきたアレクサンダーは、辺りを見回してからジェニファーを見つめた。
「こんなに美しい庭園なのに、誰もいないんですね。みんな宴の余韻に浸っているのかな」
ジェニファーは微笑みながら頷く。
「だと思います。舞踏会が好きな方はまだ踊っているでしょうし、お酒好きの方は室内で飲み比べをしているかもしれません」
そんな軽いやり取りを交わしてから、アレクサンダーは唐突に言葉を切り出した。
「あなたは……どうして、そんなに悲しげな目をしているのですか」
ジェニファーはドキリとする。自分では隠しているつもりでも、アレクサンダーの目には伝わってしまったのか。
「いえ、私は――」
「無理に答えなくてもいい。ただ……あなたを見ていると、笑顔がとても上品で、それでいてどこか寂しそうで、痛ましいほどに儚い。私はそこに惹かれてしまったんです」
夜の闇に溶け込むような、静かな声。ジェニファーは目を伏せた。まさかこんなにも率直に想いを告げられるとは思わず、胸がざわつく。
「私は……クラレンス公爵夫人という立場にありますが、実際はもう夫と暮らしていません。詳しい事情は言えませんが、いずれ離婚するつもりで……いろいろと複雑なんです」
「そう……やはり、そうなのですね」
アレクサンダーは少しだけ頷いた。驚いた様子もなく、どこか納得したような面持ちである。
「それでも、私はあなたに興味がある。あなたの笑顔が、あなたの強さが――たとえ傷ついてもなお、こうして立っている姿が、とても尊く見えるんです。……もし、少しでも私に心を開いてくれるのなら、私はあなたの力になりたい」
「力になりたい、って……」
「それが金銭的な問題だとしても、政治的な後ろ盾が必要だとしても、私にできることなら惜しむつもりはありません。なぜなら、私はこう思うから――“縁あって出会った人を、できる限り救いたい”と」
ジェニファーの胸は、言葉にできない感情でいっぱいになる。これまで、彼女は利用される側であった。ランカスター家にとっても、エドワードにとっても、都合のいい“飾り物”に過ぎなかったのだ。
それが今、この異国から来た青年は、彼女自身の尊厳を見て、心を動かしてくれている。見返りを求めるのではなく、“助けたい”という。
――信じていいのだろうか。
心の中の迷いは、まだ完全には晴れない。だが、アレクサンダーの誠実そうな瞳を見ていると、ジェニファーは自分が失いかけていた“希望”という名の光を思い出していくのを感じた。
「ありがとうございます。……正直に言うと、今はまだ混乱していて、誰かを信じる余裕すらないんです。でも、あなたがそう言ってくれることが、私の心を支えてくれます」
そう告げると、アレクサンダーは満足そうに微笑み、軽く片膝をついてジェニファーの手に口づけした。
「あなたのペースで構わない。私はいつでもここにいます。あなたが扉を開くときまで、待ちますよ」
曲が終わると、アレクサンダーは照れたように息をつき、ジェニファーの手を離した。
「いやはや……私のような初心者にお付き合いいただき、ありがとうございます。あなたのおかげでとても楽しい一曲になりました」
ジェニファーも軽く笑みを返す。
「私こそ、異国の方と踊るのは新鮮で……不慣れな部分もありましたけれど、楽しませていただきました」
その時、アレクサンダーの瞳が真剣な色を帯びる。騒がしい宴の最中だが、二人の周囲だけがふと静かに感じられるような、不思議な瞬間だった。
「ジェニファー、あなたともっと話がしたい。もしよければ、晩餐会が終わったあとに少しお時間をいただけませんか? あなたのことを……もっと知りたい」
その言葉に、一瞬ジェニファーの心が揺れる。だが、今の自分はエドワードとの離婚問題を抱える身。公爵夫人という肩書きも中途半端に残ったままで、誰かと親密に関わることなど許されるのだろうか。
――しかし、彼女の口をついて出たのは、意外にも肯定の返事だった。
「はい……わかりました。お役に立てるかわかりませんが、よければお話をしましょう」
こうして晩餐会が終わった後、ジェニファーは王宮の庭園へと足を運んだ。夜空には月が浮かび、淡い光が噴水と植え込みを照らしている。冷たい石畳を歩くと、空気は涼しく、肌に触れる夜風が心地よい。
少し遅れてやってきたアレクサンダーは、辺りを見回してからジェニファーを見つめた。
「こんなに美しい庭園なのに、誰もいないんですね。みんな宴の余韻に浸っているのかな」
ジェニファーは微笑みながら頷く。
「だと思います。舞踏会が好きな方はまだ踊っているでしょうし、お酒好きの方は室内で飲み比べをしているかもしれません」
そんな軽いやり取りを交わしてから、アレクサンダーは唐突に言葉を切り出した。
「あなたは……どうして、そんなに悲しげな目をしているのですか」
ジェニファーはドキリとする。自分では隠しているつもりでも、アレクサンダーの目には伝わってしまったのか。
「いえ、私は――」
「無理に答えなくてもいい。ただ……あなたを見ていると、笑顔がとても上品で、それでいてどこか寂しそうで、痛ましいほどに儚い。私はそこに惹かれてしまったんです」
夜の闇に溶け込むような、静かな声。ジェニファーは目を伏せた。まさかこんなにも率直に想いを告げられるとは思わず、胸がざわつく。
「私は……クラレンス公爵夫人という立場にありますが、実際はもう夫と暮らしていません。詳しい事情は言えませんが、いずれ離婚するつもりで……いろいろと複雑なんです」
「そう……やはり、そうなのですね」
アレクサンダーは少しだけ頷いた。驚いた様子もなく、どこか納得したような面持ちである。
「それでも、私はあなたに興味がある。あなたの笑顔が、あなたの強さが――たとえ傷ついてもなお、こうして立っている姿が、とても尊く見えるんです。……もし、少しでも私に心を開いてくれるのなら、私はあなたの力になりたい」
「力になりたい、って……」
「それが金銭的な問題だとしても、政治的な後ろ盾が必要だとしても、私にできることなら惜しむつもりはありません。なぜなら、私はこう思うから――“縁あって出会った人を、できる限り救いたい”と」
ジェニファーの胸は、言葉にできない感情でいっぱいになる。これまで、彼女は利用される側であった。ランカスター家にとっても、エドワードにとっても、都合のいい“飾り物”に過ぎなかったのだ。
それが今、この異国から来た青年は、彼女自身の尊厳を見て、心を動かしてくれている。見返りを求めるのではなく、“助けたい”という。
――信じていいのだろうか。
心の中の迷いは、まだ完全には晴れない。だが、アレクサンダーの誠実そうな瞳を見ていると、ジェニファーは自分が失いかけていた“希望”という名の光を思い出していくのを感じた。
「ありがとうございます。……正直に言うと、今はまだ混乱していて、誰かを信じる余裕すらないんです。でも、あなたがそう言ってくれることが、私の心を支えてくれます」
そう告げると、アレクサンダーは満足そうに微笑み、軽く片膝をついてジェニファーの手に口づけした。
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