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第4章 元夫の後悔と幸せな再婚
4-1.離婚交渉の幕開け
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4-1.離婚交渉の幕開け
王宮での晩餐会からしばらく経ち、ジェニファー・ランカスターは本格的に離婚の手続きを進めようと動き始めていた。
名目上はまだクラレンス公爵夫人とはいえ、既にエドワードとは別居状態。離宮に滞在する彼女の下には、政治に強い法律家や弁護士の来訪が相次いでいる。やはり「王弟である公爵」との離婚となれば、普通の貴族の離婚とは次元が違う。国王の許可や公爵家の財産問題、さらにはランカスター家が王宮でどう扱われるか――様々な要因が複雑に絡み合うのだ。
それでもジェニファーには迷いがなかった。あの侮辱的な結婚生活に戻るつもりは毛頭ない。たとえ財産を失い、家から追放されることになったとしても、あの“檻”に閉じ込められ続けるぐらいなら一人で生きていく道を選ぶ。
そんな彼女を支えてくれるのは、メイドのクリスティーナや家令長マーサ(公爵家に残っているが、密かにジェニファーへ情報を送ってくれる)、そして新たに知り合った有能な弁護士たちだった。さらに――北方の大公、アレクサンダー・ヴォルフの存在も、ジェニファーの心を強く後押ししていた。
アレクサンダーとの関係を、ジェニファーはまだ“友好的な知己”という程度にしか考えまいとしている。自分にはまだ離婚という大きな障害があり、公爵夫人としての鎖が完全には外れていないのだから。
しかし、彼が時折見せる誠実な眼差しや、「困ったことがあれば何でも助力する」という言葉の数々は、ジェニファーの孤独を和らげ、未来を信じる力を与えてくれているのは事実だった。
そして、ついに離婚に向けた最初の大きな交渉の場が設定された。
王宮の一室――ここは国王の裁定が必要となる特別な紛争や、貴族同士の大きな揉め事を“非公式”に話し合うための場である。王族に関わる案件がこじれる前に、できるだけ穏便に解決を図る目的を持つ。
その日は、ジェニファーの代理人である弁護士が同席し、エドワード陣営(彼自身と側近、弁護士)と向き合う形となった。
ジェニファーは胸を張って会議室へ入った。引き締まった表情には毅然とした意志が宿っている。
エドワードはその姿を見て、一瞬だけ視線を揺らす。だが、すぐに冷たい仮面をかぶり、「待っていたよ、ジェニファー」と淡々とした口調で言った。
「離婚を望むというならば、君にはそれ相応の覚悟があるのだろうな」
その言葉は脅しにも近い響きを含む。しかしジェニファーは動じない。
「ええ、覚悟はしています。もはや私たちは仮面夫婦の体すら保てない状態ですから。形式を取り繕うメリットも見当たりません」
「ふん……」
エドワードは鼻で笑うような仕草を見せるが、対してジェニファーの代理人弁護士が軽く咳払いをして話を進める。
「では、具体的に財産分与や諸手当の内容を詰めさせていただきましょう。いくら契約結婚であったとはいえ、夫人には相応の補償が必要と考えます」
「補償だと? ランカスター家が望んで結んだ縁組ではなかったのか?」
「殿下、結婚に双方の合意があったことは事実でも、夫婦生活の実態がなかったうえに、公爵夫人としての立場を著しく損なう行為が重なっていたこと――こちらは揺るぎない事実です。法的に見れば、夫人に不利な扱いが多々あったわけですから、その点について議論する必要があります」
弁護士が淡々と指摘するたびに、エドワードの表情は険しくなる。まるで「俺に恥をかかせる気か」と言わんばかりだ。だが、ジェニファーは黙って弁護士の後ろに控え、堂々とエドワードの視線を受け止めていた。
結局、この日は結論が出ることなく協議は終わった。エドワード陣営も、いきなりジェニファー側の要求をすべて呑むつもりはなく、今後何度か同席して話し合うという形で散会となる。
しかし、ジェニファーにとっては大きな一歩だった。エドワードと正面から対峙し、「私はもうあなたの人形ではない」と言わんばかりに意志を示すことができたのだから。
(あの冷たい眼差し……。でも、以前の私だったら萎縮していたかもしれない。今の私は、もう違う)
会場を後にする廊下を歩きながら、ジェニファーはそう自分に言い聞かせる。出口付近で待っていたクリスティーナが「お疲れさまでした」と声をかけると、ジェニファーは小さく微笑んで答えた。
「ありがとう。まだ先は長いけれど、頑張るわ」
王宮での晩餐会からしばらく経ち、ジェニファー・ランカスターは本格的に離婚の手続きを進めようと動き始めていた。
名目上はまだクラレンス公爵夫人とはいえ、既にエドワードとは別居状態。離宮に滞在する彼女の下には、政治に強い法律家や弁護士の来訪が相次いでいる。やはり「王弟である公爵」との離婚となれば、普通の貴族の離婚とは次元が違う。国王の許可や公爵家の財産問題、さらにはランカスター家が王宮でどう扱われるか――様々な要因が複雑に絡み合うのだ。
それでもジェニファーには迷いがなかった。あの侮辱的な結婚生活に戻るつもりは毛頭ない。たとえ財産を失い、家から追放されることになったとしても、あの“檻”に閉じ込められ続けるぐらいなら一人で生きていく道を選ぶ。
そんな彼女を支えてくれるのは、メイドのクリスティーナや家令長マーサ(公爵家に残っているが、密かにジェニファーへ情報を送ってくれる)、そして新たに知り合った有能な弁護士たちだった。さらに――北方の大公、アレクサンダー・ヴォルフの存在も、ジェニファーの心を強く後押ししていた。
アレクサンダーとの関係を、ジェニファーはまだ“友好的な知己”という程度にしか考えまいとしている。自分にはまだ離婚という大きな障害があり、公爵夫人としての鎖が完全には外れていないのだから。
しかし、彼が時折見せる誠実な眼差しや、「困ったことがあれば何でも助力する」という言葉の数々は、ジェニファーの孤独を和らげ、未来を信じる力を与えてくれているのは事実だった。
そして、ついに離婚に向けた最初の大きな交渉の場が設定された。
王宮の一室――ここは国王の裁定が必要となる特別な紛争や、貴族同士の大きな揉め事を“非公式”に話し合うための場である。王族に関わる案件がこじれる前に、できるだけ穏便に解決を図る目的を持つ。
その日は、ジェニファーの代理人である弁護士が同席し、エドワード陣営(彼自身と側近、弁護士)と向き合う形となった。
ジェニファーは胸を張って会議室へ入った。引き締まった表情には毅然とした意志が宿っている。
エドワードはその姿を見て、一瞬だけ視線を揺らす。だが、すぐに冷たい仮面をかぶり、「待っていたよ、ジェニファー」と淡々とした口調で言った。
「離婚を望むというならば、君にはそれ相応の覚悟があるのだろうな」
その言葉は脅しにも近い響きを含む。しかしジェニファーは動じない。
「ええ、覚悟はしています。もはや私たちは仮面夫婦の体すら保てない状態ですから。形式を取り繕うメリットも見当たりません」
「ふん……」
エドワードは鼻で笑うような仕草を見せるが、対してジェニファーの代理人弁護士が軽く咳払いをして話を進める。
「では、具体的に財産分与や諸手当の内容を詰めさせていただきましょう。いくら契約結婚であったとはいえ、夫人には相応の補償が必要と考えます」
「補償だと? ランカスター家が望んで結んだ縁組ではなかったのか?」
「殿下、結婚に双方の合意があったことは事実でも、夫婦生活の実態がなかったうえに、公爵夫人としての立場を著しく損なう行為が重なっていたこと――こちらは揺るぎない事実です。法的に見れば、夫人に不利な扱いが多々あったわけですから、その点について議論する必要があります」
弁護士が淡々と指摘するたびに、エドワードの表情は険しくなる。まるで「俺に恥をかかせる気か」と言わんばかりだ。だが、ジェニファーは黙って弁護士の後ろに控え、堂々とエドワードの視線を受け止めていた。
結局、この日は結論が出ることなく協議は終わった。エドワード陣営も、いきなりジェニファー側の要求をすべて呑むつもりはなく、今後何度か同席して話し合うという形で散会となる。
しかし、ジェニファーにとっては大きな一歩だった。エドワードと正面から対峙し、「私はもうあなたの人形ではない」と言わんばかりに意志を示すことができたのだから。
(あの冷たい眼差し……。でも、以前の私だったら萎縮していたかもしれない。今の私は、もう違う)
会場を後にする廊下を歩きながら、ジェニファーはそう自分に言い聞かせる。出口付近で待っていたクリスティーナが「お疲れさまでした」と声をかけると、ジェニファーは小さく微笑んで答えた。
「ありがとう。まだ先は長いけれど、頑張るわ」
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