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第4章 元夫の後悔と幸せな再婚
4-3.ランカスター家の大いなる反発
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4-3.ランカスター家の大いなる反発
ジェニファーが離婚に踏み切るうえで、最大の障害となるのが実家ランカスター家である。
父グレゴリー・ランカスター公は、王宮での影響力を維持するため、娘を王弟エドワードと結婚させたのに、今さら離婚されては面目丸潰れ。ひいては家の地位が危うくなる可能性が高い。
離婚の話が具体的に進み始めたことを聞きつけた彼は、怒りに我を忘れるほどだった。
「ジェニファーめ……勝手なことを! このままでは我がランカスター家が王宮から疎まれ、衰退していくのは目に見えているのだぞ!」
客間で父の声が響き渡る。使用人たちは震えあがりながら後ずさる。
「……落ち着いてくださいませ。殿下が娘を冷遇し、愛人を連れ回しているという話は、もはや社交界中が知っております。むしろジェニファー様が同情を集めているような状況とも……」
側近の一人が恐る恐る意見するが、父は怒りで耳を傾けようとしない。
「同情など何の役に立つ! エドワード殿下との繋がりを捨てるなど、家として許せるはずがないだろう! くそっ……」
父は机を叩き、荒々しく立ち上がる。
「こうなったら、直接ジェニファーに会って説得するしかない。あの娘は一度言い出したら頑固だから、どこかの男に唆されたのかもしれん。殴り飛ばしてでも目を覚まさせねば……」
ランカスター公は血相を変え、すぐに馬車の用意を命じる。
――その一方で、実家の母や兄弟たちも事情を察してはいるが、父の剣幕に口出しできる状態ではなかった。ジェニファーを案じる気持ちはあっても、それを表に出せない雰囲気が家を支配していた。
その日の夕刻、ジェニファーが離宮の自室にいると、やけに騒がしい声が聞こえてくる。扉を開けると、そこには父グレゴリー公が怒気を含んだ表情で立っていた。
「ジェニファー……! よくも勝手な真似をしてくれたな!」
「父様……驚きました。ここまでいらっしゃるとは思いませんでした」
ジェニファーも多少うろたえながら応対するが、父の怒りは収まらない。威圧的な態度で彼女を睨みつける。
「お前、離婚などと馬鹿を抜かす気か。身の程を知れ! 王弟との縁組は我が家の悲願だ! 裏切るつもりか!」
「……私はもう、公爵家には戻りません。あれほど私を踏みにじった方と暮らす理由などありません」
「踏みにじられた? 貴族たるもの、家のために多少の犠牲は当然だ! お前はそれを理解せずに甘えているだけではないのか!」
ジェニファーは胸に渦巻く悲しみを堪えながら、はっきりと反論する。
「いいえ、私は散々耐えてきました。でも、彼は目の前で愛人を誇示し、私を侮辱し続けました。そんな結婚を続ける意味がどこにあるのです? “公爵家と繋がっていれば家の名誉は保てる”――それが大義名分なら、私はいらないわ」
父は苛立ちを隠せず、ギリギリと歯ぎしりする。
「貴様……親に向かってなんという口を利く。ランカスター家を捨てる気か!」
「捨てるのはランカスター家ではなく、“あの結婚”です。私は家に恨みがあるわけではないけれど、自分の尊厳を失ってまで犠牲になるつもりはありません」
その毅然とした態度に、父は思わず言葉を失う。娘がこれほどまで強い意志を持っているとは、想像していなかったのだろう。
やがて父は少しだけ声を落とし、激しく息をつきながら口を開く。
「……いいか、ジェニファー。お前が離婚を強行するなら、我が家は公爵家どころか王家からも見放される可能性がある。その時、お前の兄弟たちはどうなる。縁談や官職、すべて断られるかもしれん。お前は家族を巻き込むつもりか」
ジェニファーの胸に痛みが走る。確かに、それは無視できない問題だ。自分の決断が、兄弟や母の将来を狭めることになるかもしれない。
――だからといって、自分が一生あの結婚に囚われる道を選ぶのか?
心の中で葛藤が生まれるが、ジェニファーは目を伏せたまま言う。
「……もし私の離婚が原因で、家族に不利益が生じるなら、それは私の責任です。私ができる限りの補償を考えます。ですが、私を無理やりエドワード殿下のもとに返すなら、私は命をかけても抵抗します」
「バカな……。お前がどれだけ強情を張ろうと、世の中は甘くはないぞ! 女一人で生きていけるとでも思っているのか!」
「一人ではありません。助けてくれる人たちも、私を理解してくれる人たちもいます。私はそれを頼りに、生き抜く覚悟です」
ジェニファーがまっすぐに父を見返すと、グレゴリー公はしばし沈黙に陥る。娘の決意が、想像以上に確固たるものであると悟ったからだろう。
激しい怒りを抱えたまま、グレゴリー公は舌打ちして踵を返す。
「……好きにしろ。その代わり、あとで泣きついてきても知らんからな!」
その捨て台詞を残して、父は足早に離宮を後にした。
ジェニファーはその場に立ち尽くし、少しの間、息を整えられずにいた。背筋に冷たい汗が伝う。
(これで本当に、ランカスター家との縁が切れてしまうかもしれない。それでも――後悔はしない)
目を閉じて深呼吸すると、心の中に浮かぶのはアレクサンダーの柔らかな笑顔。あの人なら、きっと私の選択を否定しない。そう思うと、自然と次の行動に移る力が湧いてきた。
ジェニファーが離婚に踏み切るうえで、最大の障害となるのが実家ランカスター家である。
父グレゴリー・ランカスター公は、王宮での影響力を維持するため、娘を王弟エドワードと結婚させたのに、今さら離婚されては面目丸潰れ。ひいては家の地位が危うくなる可能性が高い。
離婚の話が具体的に進み始めたことを聞きつけた彼は、怒りに我を忘れるほどだった。
「ジェニファーめ……勝手なことを! このままでは我がランカスター家が王宮から疎まれ、衰退していくのは目に見えているのだぞ!」
客間で父の声が響き渡る。使用人たちは震えあがりながら後ずさる。
「……落ち着いてくださいませ。殿下が娘を冷遇し、愛人を連れ回しているという話は、もはや社交界中が知っております。むしろジェニファー様が同情を集めているような状況とも……」
側近の一人が恐る恐る意見するが、父は怒りで耳を傾けようとしない。
「同情など何の役に立つ! エドワード殿下との繋がりを捨てるなど、家として許せるはずがないだろう! くそっ……」
父は机を叩き、荒々しく立ち上がる。
「こうなったら、直接ジェニファーに会って説得するしかない。あの娘は一度言い出したら頑固だから、どこかの男に唆されたのかもしれん。殴り飛ばしてでも目を覚まさせねば……」
ランカスター公は血相を変え、すぐに馬車の用意を命じる。
――その一方で、実家の母や兄弟たちも事情を察してはいるが、父の剣幕に口出しできる状態ではなかった。ジェニファーを案じる気持ちはあっても、それを表に出せない雰囲気が家を支配していた。
その日の夕刻、ジェニファーが離宮の自室にいると、やけに騒がしい声が聞こえてくる。扉を開けると、そこには父グレゴリー公が怒気を含んだ表情で立っていた。
「ジェニファー……! よくも勝手な真似をしてくれたな!」
「父様……驚きました。ここまでいらっしゃるとは思いませんでした」
ジェニファーも多少うろたえながら応対するが、父の怒りは収まらない。威圧的な態度で彼女を睨みつける。
「お前、離婚などと馬鹿を抜かす気か。身の程を知れ! 王弟との縁組は我が家の悲願だ! 裏切るつもりか!」
「……私はもう、公爵家には戻りません。あれほど私を踏みにじった方と暮らす理由などありません」
「踏みにじられた? 貴族たるもの、家のために多少の犠牲は当然だ! お前はそれを理解せずに甘えているだけではないのか!」
ジェニファーは胸に渦巻く悲しみを堪えながら、はっきりと反論する。
「いいえ、私は散々耐えてきました。でも、彼は目の前で愛人を誇示し、私を侮辱し続けました。そんな結婚を続ける意味がどこにあるのです? “公爵家と繋がっていれば家の名誉は保てる”――それが大義名分なら、私はいらないわ」
父は苛立ちを隠せず、ギリギリと歯ぎしりする。
「貴様……親に向かってなんという口を利く。ランカスター家を捨てる気か!」
「捨てるのはランカスター家ではなく、“あの結婚”です。私は家に恨みがあるわけではないけれど、自分の尊厳を失ってまで犠牲になるつもりはありません」
その毅然とした態度に、父は思わず言葉を失う。娘がこれほどまで強い意志を持っているとは、想像していなかったのだろう。
やがて父は少しだけ声を落とし、激しく息をつきながら口を開く。
「……いいか、ジェニファー。お前が離婚を強行するなら、我が家は公爵家どころか王家からも見放される可能性がある。その時、お前の兄弟たちはどうなる。縁談や官職、すべて断られるかもしれん。お前は家族を巻き込むつもりか」
ジェニファーの胸に痛みが走る。確かに、それは無視できない問題だ。自分の決断が、兄弟や母の将来を狭めることになるかもしれない。
――だからといって、自分が一生あの結婚に囚われる道を選ぶのか?
心の中で葛藤が生まれるが、ジェニファーは目を伏せたまま言う。
「……もし私の離婚が原因で、家族に不利益が生じるなら、それは私の責任です。私ができる限りの補償を考えます。ですが、私を無理やりエドワード殿下のもとに返すなら、私は命をかけても抵抗します」
「バカな……。お前がどれだけ強情を張ろうと、世の中は甘くはないぞ! 女一人で生きていけるとでも思っているのか!」
「一人ではありません。助けてくれる人たちも、私を理解してくれる人たちもいます。私はそれを頼りに、生き抜く覚悟です」
ジェニファーがまっすぐに父を見返すと、グレゴリー公はしばし沈黙に陥る。娘の決意が、想像以上に確固たるものであると悟ったからだろう。
激しい怒りを抱えたまま、グレゴリー公は舌打ちして踵を返す。
「……好きにしろ。その代わり、あとで泣きついてきても知らんからな!」
その捨て台詞を残して、父は足早に離宮を後にした。
ジェニファーはその場に立ち尽くし、少しの間、息を整えられずにいた。背筋に冷たい汗が伝う。
(これで本当に、ランカスター家との縁が切れてしまうかもしれない。それでも――後悔はしない)
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