白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚

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第4章 元夫の後悔と幸せな再婚

4-4.アレクサンダーからの申し出

4-4.アレクサンダーからの申し出

 そんなある日、ジェニファーのもとにアレクサンダーから一通の手紙が届いた。
 内容は「私の私邸に招待したい。今後のことも含めて、直接お話ししたい。」というもの。ヴォルフ公国の大使館に近い建物を借り受け、アレクサンダーたちが滞在しているらしい。
 離宮を出て彼と面会するのは少々勇気が要るが、ジェニファーは“公爵夫人”という肩書きを使って外出許可を取り、馬車を走らせた。
 アレクサンダーの私邸は、王都の貴族街にある館の一角を改装したもののようで、北方のインテリアを取り入れつつ、落ち着いた雰囲気が漂っている。
「ようこそ、ジェニファー。招待に応じてくれて嬉しいよ」
 玄関ホールで出迎えてくれたアレクサンダーは、柔らかな笑みを浮かべている。ジェニファーも会釈で応じた。
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。……こんなにも静かで素敵な場所なのですね」
「街中だと聞いていたけれど、庭が意外に広くて驚いたよ。さあ、奥のサロンへ」

 二人が通されたサロンは大きな窓があり、午後の陽光が差し込んで暖かい。壁には北方の風景画が飾られ、その独特の色彩がどこか神秘的だ。
 メイドが用意してくれたお茶と菓子を前に、しばし世間話を交わしたあと、アレクサンダーはゆっくりと切り出した。
「君が離婚に向けて動いていることは、私にも伝わってきています。やはり手続きは複雑なようだね……大丈夫?」
「はい。まだ簡単には進みませんが、私としては一歩ずつ前に進めていくしかないと思っています」
「君がそう決めたなら、私も応援する。困ったことがあれば、遠慮なく言ってほしい」
 アレクサンダーは迷いのない声でそう告げる。ジェニファーは一瞬、胸がぎゅっと締め付けられる思いだった。
「……本当に、そこまでしていただく理由はないのに」
「理由なんて要らないよ。君が苦しんでいるのを見て、助けになりたいと思っただけだ。私は大公として、国益や外交を考える立場にあるけれど、個人的な感情で動くこともあるんだ」
 そう言って、彼は少しだけ笑いながら言葉を続ける。
「それに……何より、君が自由になってくれると嬉しい。君が心から笑える場所を見つけられるなら、私としてもこんなに喜ばしいことはないからね」
 ジェニファーはその真摯な眼差しに、思わず言葉をなくす。以前の彼女なら「男性の甘い言葉など信用できない」と思ったかもしれない。エドワードやローザが人を都合よく利用する姿を見てきたからだ。
 しかし、アレクサンダーには不思議と打算めいたものを感じない。むしろ彼は“大公”という大きな立場を持ちながらも、ジェニファーひとりのために手を差し伸べてくれようとしているように見える。
「……ありがとうございます。私、心からそう言ってもらえるなんて、思っていなかったので……正直、少し混乱しています」
「混乱させてしまったなら、ごめんね。でも、私は嘘をつくつもりはないよ。君が離婚を成し遂げ、もし新たな道を探すなら、その選択肢のひとつとして“北方のヴォルフ公国”があってもいい。それを私は歓迎したいんだ」
「ヴォルフ公国……!」
 ジェニファーは驚いて顔を上げる。そこまで具体的な提案が来るとは考えていなかった。確かに、エドワードと離婚すれば、彼女は王都での地位を失う可能性が高い。貴族社会で生きづらくなるかもしれない。ならば、新天地を求めるのも一つの手段だろう。
 だが、それは同時に、アレクサンダーの国へ行くということ。彼女にとっては未知の土地だ。
「考えるだけでいい。君を“私の国へ連れて行きたい”と願うのは、私のわがままかもしれないから。……けれど、もし君が望むなら、私はいつでも準備を整えるつもりでいるよ」
 アレクサンダーの声音は誠実で、押し付けがましさは微塵も感じられなかった。それがかえってジェニファーの胸を揺さぶる。
(私が本当に自由になれたら……この人と一緒に、新しい人生を歩むのも、悪くないかもしれない)
 ほんのわずかな希望が、彼女の中で芽生えた。もちろん、離婚が成立するかどうか、いまだに不確定な状況だ。だが、漠然とした暗闇のなかに、一つの“道”が見えたような気がする。
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