25 / 29
第4章 元夫の後悔と幸せな再婚
4-4.アレクサンダーからの申し出
しおりを挟む
4-4.アレクサンダーからの申し出
そんなある日、ジェニファーのもとにアレクサンダーから一通の手紙が届いた。
内容は「私の私邸に招待したい。今後のことも含めて、直接お話ししたい。」というもの。ヴォルフ公国の大使館に近い建物を借り受け、アレクサンダーたちが滞在しているらしい。
離宮を出て彼と面会するのは少々勇気が要るが、ジェニファーは“公爵夫人”という肩書きを使って外出許可を取り、馬車を走らせた。
アレクサンダーの私邸は、王都の貴族街にある館の一角を改装したもののようで、北方のインテリアを取り入れつつ、落ち着いた雰囲気が漂っている。
「ようこそ、ジェニファー。招待に応じてくれて嬉しいよ」
玄関ホールで出迎えてくれたアレクサンダーは、柔らかな笑みを浮かべている。ジェニファーも会釈で応じた。
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。……こんなにも静かで素敵な場所なのですね」
「街中だと聞いていたけれど、庭が意外に広くて驚いたよ。さあ、奥のサロンへ」
二人が通されたサロンは大きな窓があり、午後の陽光が差し込んで暖かい。壁には北方の風景画が飾られ、その独特の色彩がどこか神秘的だ。
メイドが用意してくれたお茶と菓子を前に、しばし世間話を交わしたあと、アレクサンダーはゆっくりと切り出した。
「君が離婚に向けて動いていることは、私にも伝わってきています。やはり手続きは複雑なようだね……大丈夫?」
「はい。まだ簡単には進みませんが、私としては一歩ずつ前に進めていくしかないと思っています」
「君がそう決めたなら、私も応援する。困ったことがあれば、遠慮なく言ってほしい」
アレクサンダーは迷いのない声でそう告げる。ジェニファーは一瞬、胸がぎゅっと締め付けられる思いだった。
「……本当に、そこまでしていただく理由はないのに」
「理由なんて要らないよ。君が苦しんでいるのを見て、助けになりたいと思っただけだ。私は大公として、国益や外交を考える立場にあるけれど、個人的な感情で動くこともあるんだ」
そう言って、彼は少しだけ笑いながら言葉を続ける。
「それに……何より、君が自由になってくれると嬉しい。君が心から笑える場所を見つけられるなら、私としてもこんなに喜ばしいことはないからね」
ジェニファーはその真摯な眼差しに、思わず言葉をなくす。以前の彼女なら「男性の甘い言葉など信用できない」と思ったかもしれない。エドワードやローザが人を都合よく利用する姿を見てきたからだ。
しかし、アレクサンダーには不思議と打算めいたものを感じない。むしろ彼は“大公”という大きな立場を持ちながらも、ジェニファーひとりのために手を差し伸べてくれようとしているように見える。
「……ありがとうございます。私、心からそう言ってもらえるなんて、思っていなかったので……正直、少し混乱しています」
「混乱させてしまったなら、ごめんね。でも、私は嘘をつくつもりはないよ。君が離婚を成し遂げ、もし新たな道を探すなら、その選択肢のひとつとして“北方のヴォルフ公国”があってもいい。それを私は歓迎したいんだ」
「ヴォルフ公国……!」
ジェニファーは驚いて顔を上げる。そこまで具体的な提案が来るとは考えていなかった。確かに、エドワードと離婚すれば、彼女は王都での地位を失う可能性が高い。貴族社会で生きづらくなるかもしれない。ならば、新天地を求めるのも一つの手段だろう。
だが、それは同時に、アレクサンダーの国へ行くということ。彼女にとっては未知の土地だ。
「考えるだけでいい。君を“私の国へ連れて行きたい”と願うのは、私のわがままかもしれないから。……けれど、もし君が望むなら、私はいつでも準備を整えるつもりでいるよ」
アレクサンダーの声音は誠実で、押し付けがましさは微塵も感じられなかった。それがかえってジェニファーの胸を揺さぶる。
(私が本当に自由になれたら……この人と一緒に、新しい人生を歩むのも、悪くないかもしれない)
ほんのわずかな希望が、彼女の中で芽生えた。もちろん、離婚が成立するかどうか、いまだに不確定な状況だ。だが、漠然とした暗闇のなかに、一つの“道”が見えたような気がする。
そんなある日、ジェニファーのもとにアレクサンダーから一通の手紙が届いた。
内容は「私の私邸に招待したい。今後のことも含めて、直接お話ししたい。」というもの。ヴォルフ公国の大使館に近い建物を借り受け、アレクサンダーたちが滞在しているらしい。
離宮を出て彼と面会するのは少々勇気が要るが、ジェニファーは“公爵夫人”という肩書きを使って外出許可を取り、馬車を走らせた。
アレクサンダーの私邸は、王都の貴族街にある館の一角を改装したもののようで、北方のインテリアを取り入れつつ、落ち着いた雰囲気が漂っている。
「ようこそ、ジェニファー。招待に応じてくれて嬉しいよ」
玄関ホールで出迎えてくれたアレクサンダーは、柔らかな笑みを浮かべている。ジェニファーも会釈で応じた。
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。……こんなにも静かで素敵な場所なのですね」
「街中だと聞いていたけれど、庭が意外に広くて驚いたよ。さあ、奥のサロンへ」
二人が通されたサロンは大きな窓があり、午後の陽光が差し込んで暖かい。壁には北方の風景画が飾られ、その独特の色彩がどこか神秘的だ。
メイドが用意してくれたお茶と菓子を前に、しばし世間話を交わしたあと、アレクサンダーはゆっくりと切り出した。
「君が離婚に向けて動いていることは、私にも伝わってきています。やはり手続きは複雑なようだね……大丈夫?」
「はい。まだ簡単には進みませんが、私としては一歩ずつ前に進めていくしかないと思っています」
「君がそう決めたなら、私も応援する。困ったことがあれば、遠慮なく言ってほしい」
アレクサンダーは迷いのない声でそう告げる。ジェニファーは一瞬、胸がぎゅっと締め付けられる思いだった。
「……本当に、そこまでしていただく理由はないのに」
「理由なんて要らないよ。君が苦しんでいるのを見て、助けになりたいと思っただけだ。私は大公として、国益や外交を考える立場にあるけれど、個人的な感情で動くこともあるんだ」
そう言って、彼は少しだけ笑いながら言葉を続ける。
「それに……何より、君が自由になってくれると嬉しい。君が心から笑える場所を見つけられるなら、私としてもこんなに喜ばしいことはないからね」
ジェニファーはその真摯な眼差しに、思わず言葉をなくす。以前の彼女なら「男性の甘い言葉など信用できない」と思ったかもしれない。エドワードやローザが人を都合よく利用する姿を見てきたからだ。
しかし、アレクサンダーには不思議と打算めいたものを感じない。むしろ彼は“大公”という大きな立場を持ちながらも、ジェニファーひとりのために手を差し伸べてくれようとしているように見える。
「……ありがとうございます。私、心からそう言ってもらえるなんて、思っていなかったので……正直、少し混乱しています」
「混乱させてしまったなら、ごめんね。でも、私は嘘をつくつもりはないよ。君が離婚を成し遂げ、もし新たな道を探すなら、その選択肢のひとつとして“北方のヴォルフ公国”があってもいい。それを私は歓迎したいんだ」
「ヴォルフ公国……!」
ジェニファーは驚いて顔を上げる。そこまで具体的な提案が来るとは考えていなかった。確かに、エドワードと離婚すれば、彼女は王都での地位を失う可能性が高い。貴族社会で生きづらくなるかもしれない。ならば、新天地を求めるのも一つの手段だろう。
だが、それは同時に、アレクサンダーの国へ行くということ。彼女にとっては未知の土地だ。
「考えるだけでいい。君を“私の国へ連れて行きたい”と願うのは、私のわがままかもしれないから。……けれど、もし君が望むなら、私はいつでも準備を整えるつもりでいるよ」
アレクサンダーの声音は誠実で、押し付けがましさは微塵も感じられなかった。それがかえってジェニファーの胸を揺さぶる。
(私が本当に自由になれたら……この人と一緒に、新しい人生を歩むのも、悪くないかもしれない)
ほんのわずかな希望が、彼女の中で芽生えた。もちろん、離婚が成立するかどうか、いまだに不確定な状況だ。だが、漠然とした暗闇のなかに、一つの“道”が見えたような気がする。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる