白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚

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第4章 元夫の後悔と幸せな再婚

4-5.破綻する公爵家とエドワードの後悔

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4-5.破綻する公爵家とエドワードの後悔

 その後も離婚協議は続いたが、エドワード陣営は次第に焦りを見せ始めていた。
 なぜなら、公爵家の財政がローザの浪費と投資失敗によって急速に悪化しているからだ。さらに、社交界では「エドワード殿下は愛人に振り回されている」「公爵夫人との離婚がこじれている」などの醜聞が広がり、エドワードの立場はますます不利になっていく。
 ある日の夜、エドワードは公爵家の執務室で書類を睨みながら苛立ちを爆発させていた。
「こんなはずではなかった……。何故だ、なぜこんなにも事態が悪化する」
 机に散乱するのは、ローザの商会が生んだ赤字の報告書や、追加融資を断られた王宮とのやり取りなど。頭痛を抑えきれず、眉間を押さえる。
 一方のローザはと言えば、最近ではエドワードと顔を合わせることも減り、勝手に遊び歩いているらしい。宝石やドレスを買い漁り、夜会では他の貴族男性に媚を売っているとの噂もある。
「ちくしょう……!」
 エドワードは拳を握りしめ、壁を殴りつける。部屋にいた執事が慌てて声をかけた。
「殿下、お怪我をなさいます。どうか落ち着いて……」
「落ち着けるものか! どうしてこうなった……」
 かつては、整った容姿と王弟という立場で、エドワードは社交界の華だった。ジェニファーとの形式結婚を結んだのも、ランカスター家との繋がりを得て王宮内での地位を確固たるものにするためだった。
 あの時は、ジェニファーが多少冷遇されようが、自分には愛人がいるし好き勝手に生きていける――そう思い込んでいた。ジェニファーはおとなしく従うだけの駒に過ぎないはずだった。
 しかし、今となってはどうだ。ジェニファーは離宮に移り住み、離婚を求めて反抗を始めた。しかも、社交界ではジェニファーに同情する声も少なくない。彼女の堅実な美徳を評価する人々からは、「エドワード殿下が手放したのは惜しい」とさえ囁かれている。
 (ジェニファーは……あの優しく気高い姿は……もう、俺の手には戻らないのか?)
 そんな思いが一瞬胸をよぎるが、エドワードはかぶりを振ってかき消す。自分からあれほど蔑んでおきながら、今さら惜しく思うなど矛盾だ。いや、矛盾だとわかっていても心が軋む。
「まったく……どうしたらいい」
 誰に問うでもなく呟いたとき、扉の向こうから軽いノックの音がした。続いて聞こえる、甘ったるい女性の声。
「ねえ、エドワード。私よ、ローザ」
 エドワードは一瞬眉をひそめたが、深いため息をついて扉を開けるよう執事に指示する。
 ローザは艶やかな夜会服を着て、香水の匂いを漂わせながら入ってきた。
「ご機嫌いかが? 最近顔を見せてくれないから、寂しかったわ」
「……どこに行っていた」
 エドワードは冷ややかに問いかけるが、ローザは気にする様子もなく笑う。
「ちょっと友人とお茶をしていただけよ。ああそうそう、あなたに頼んでいた追加融資の件、まだ?」
「馬鹿を言うな。これ以上、金を出せるわけがないだろう。公爵家の帳簿を見ろ。火の車だ」
「そんなの嘘よ。あなたは王弟、いくらでも金を作れるでしょう?」
 ローザのあまりの言い草に、エドワードは言葉を失う。
「……君は俺が誰かに頼めば、簡単に金が出てくると思っているのか? 公爵家の資金は無尽蔵じゃない。王弟といえども、王家の金庫を好き勝手に開けられるわけでもない。そんなことをすれば、陛下からの信頼を失い、遠からず失脚だ!」
「ふうん……失脚ねえ。それは困るわ」
 ローザは冗談めかして言うが、その目にはまるで感情がない。
「でも私、贅沢を我慢する気はさらさらないの。エドワード、あなたは私を喜ばせるだけの力がない男ってことになるわよ? それでもいいの?」
 エドワードの胸中に苛立ちがこみ上げる。どうしてこんな女に囚われてしまったのか。ジェニファーと結婚していた頃のほうが、はるかに平穏だったのではないか――そんな後悔の念が押し寄せる。
「君は……俺を利用するだけ利用して、切り捨てるつもりか?」
「さあ、どうかしら。あなた次第ね」
 そう答えるローザの笑みは、どこまでも残酷で美しい。エドワードはその場に立ち尽くし、思考が停止してしまう。これまで思い通りに生きてきたはずが、いつの間にか逆転されている――それを痛感する瞬間だった。
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