26 / 29
第4章 元夫の後悔と幸せな再婚
4-5.破綻する公爵家とエドワードの後悔
4-5.破綻する公爵家とエドワードの後悔
その後も離婚協議は続いたが、エドワード陣営は次第に焦りを見せ始めていた。
なぜなら、公爵家の財政がローザの浪費と投資失敗によって急速に悪化しているからだ。さらに、社交界では「エドワード殿下は愛人に振り回されている」「公爵夫人との離婚がこじれている」などの醜聞が広がり、エドワードの立場はますます不利になっていく。
ある日の夜、エドワードは公爵家の執務室で書類を睨みながら苛立ちを爆発させていた。
「こんなはずではなかった……。何故だ、なぜこんなにも事態が悪化する」
机に散乱するのは、ローザの商会が生んだ赤字の報告書や、追加融資を断られた王宮とのやり取りなど。頭痛を抑えきれず、眉間を押さえる。
一方のローザはと言えば、最近ではエドワードと顔を合わせることも減り、勝手に遊び歩いているらしい。宝石やドレスを買い漁り、夜会では他の貴族男性に媚を売っているとの噂もある。
「ちくしょう……!」
エドワードは拳を握りしめ、壁を殴りつける。部屋にいた執事が慌てて声をかけた。
「殿下、お怪我をなさいます。どうか落ち着いて……」
「落ち着けるものか! どうしてこうなった……」
かつては、整った容姿と王弟という立場で、エドワードは社交界の華だった。ジェニファーとの形式結婚を結んだのも、ランカスター家との繋がりを得て王宮内での地位を確固たるものにするためだった。
あの時は、ジェニファーが多少冷遇されようが、自分には愛人がいるし好き勝手に生きていける――そう思い込んでいた。ジェニファーはおとなしく従うだけの駒に過ぎないはずだった。
しかし、今となってはどうだ。ジェニファーは離宮に移り住み、離婚を求めて反抗を始めた。しかも、社交界ではジェニファーに同情する声も少なくない。彼女の堅実な美徳を評価する人々からは、「エドワード殿下が手放したのは惜しい」とさえ囁かれている。
(ジェニファーは……あの優しく気高い姿は……もう、俺の手には戻らないのか?)
そんな思いが一瞬胸をよぎるが、エドワードはかぶりを振ってかき消す。自分からあれほど蔑んでおきながら、今さら惜しく思うなど矛盾だ。いや、矛盾だとわかっていても心が軋む。
「まったく……どうしたらいい」
誰に問うでもなく呟いたとき、扉の向こうから軽いノックの音がした。続いて聞こえる、甘ったるい女性の声。
「ねえ、エドワード。私よ、ローザ」
エドワードは一瞬眉をひそめたが、深いため息をついて扉を開けるよう執事に指示する。
ローザは艶やかな夜会服を着て、香水の匂いを漂わせながら入ってきた。
「ご機嫌いかが? 最近顔を見せてくれないから、寂しかったわ」
「……どこに行っていた」
エドワードは冷ややかに問いかけるが、ローザは気にする様子もなく笑う。
「ちょっと友人とお茶をしていただけよ。ああそうそう、あなたに頼んでいた追加融資の件、まだ?」
「馬鹿を言うな。これ以上、金を出せるわけがないだろう。公爵家の帳簿を見ろ。火の車だ」
「そんなの嘘よ。あなたは王弟、いくらでも金を作れるでしょう?」
ローザのあまりの言い草に、エドワードは言葉を失う。
「……君は俺が誰かに頼めば、簡単に金が出てくると思っているのか? 公爵家の資金は無尽蔵じゃない。王弟といえども、王家の金庫を好き勝手に開けられるわけでもない。そんなことをすれば、陛下からの信頼を失い、遠からず失脚だ!」
「ふうん……失脚ねえ。それは困るわ」
ローザは冗談めかして言うが、その目にはまるで感情がない。
「でも私、贅沢を我慢する気はさらさらないの。エドワード、あなたは私を喜ばせるだけの力がない男ってことになるわよ? それでもいいの?」
エドワードの胸中に苛立ちがこみ上げる。どうしてこんな女に囚われてしまったのか。ジェニファーと結婚していた頃のほうが、はるかに平穏だったのではないか――そんな後悔の念が押し寄せる。
「君は……俺を利用するだけ利用して、切り捨てるつもりか?」
「さあ、どうかしら。あなた次第ね」
そう答えるローザの笑みは、どこまでも残酷で美しい。エドワードはその場に立ち尽くし、思考が停止してしまう。これまで思い通りに生きてきたはずが、いつの間にか逆転されている――それを痛感する瞬間だった。
その後も離婚協議は続いたが、エドワード陣営は次第に焦りを見せ始めていた。
なぜなら、公爵家の財政がローザの浪費と投資失敗によって急速に悪化しているからだ。さらに、社交界では「エドワード殿下は愛人に振り回されている」「公爵夫人との離婚がこじれている」などの醜聞が広がり、エドワードの立場はますます不利になっていく。
ある日の夜、エドワードは公爵家の執務室で書類を睨みながら苛立ちを爆発させていた。
「こんなはずではなかった……。何故だ、なぜこんなにも事態が悪化する」
机に散乱するのは、ローザの商会が生んだ赤字の報告書や、追加融資を断られた王宮とのやり取りなど。頭痛を抑えきれず、眉間を押さえる。
一方のローザはと言えば、最近ではエドワードと顔を合わせることも減り、勝手に遊び歩いているらしい。宝石やドレスを買い漁り、夜会では他の貴族男性に媚を売っているとの噂もある。
「ちくしょう……!」
エドワードは拳を握りしめ、壁を殴りつける。部屋にいた執事が慌てて声をかけた。
「殿下、お怪我をなさいます。どうか落ち着いて……」
「落ち着けるものか! どうしてこうなった……」
かつては、整った容姿と王弟という立場で、エドワードは社交界の華だった。ジェニファーとの形式結婚を結んだのも、ランカスター家との繋がりを得て王宮内での地位を確固たるものにするためだった。
あの時は、ジェニファーが多少冷遇されようが、自分には愛人がいるし好き勝手に生きていける――そう思い込んでいた。ジェニファーはおとなしく従うだけの駒に過ぎないはずだった。
しかし、今となってはどうだ。ジェニファーは離宮に移り住み、離婚を求めて反抗を始めた。しかも、社交界ではジェニファーに同情する声も少なくない。彼女の堅実な美徳を評価する人々からは、「エドワード殿下が手放したのは惜しい」とさえ囁かれている。
(ジェニファーは……あの優しく気高い姿は……もう、俺の手には戻らないのか?)
そんな思いが一瞬胸をよぎるが、エドワードはかぶりを振ってかき消す。自分からあれほど蔑んでおきながら、今さら惜しく思うなど矛盾だ。いや、矛盾だとわかっていても心が軋む。
「まったく……どうしたらいい」
誰に問うでもなく呟いたとき、扉の向こうから軽いノックの音がした。続いて聞こえる、甘ったるい女性の声。
「ねえ、エドワード。私よ、ローザ」
エドワードは一瞬眉をひそめたが、深いため息をついて扉を開けるよう執事に指示する。
ローザは艶やかな夜会服を着て、香水の匂いを漂わせながら入ってきた。
「ご機嫌いかが? 最近顔を見せてくれないから、寂しかったわ」
「……どこに行っていた」
エドワードは冷ややかに問いかけるが、ローザは気にする様子もなく笑う。
「ちょっと友人とお茶をしていただけよ。ああそうそう、あなたに頼んでいた追加融資の件、まだ?」
「馬鹿を言うな。これ以上、金を出せるわけがないだろう。公爵家の帳簿を見ろ。火の車だ」
「そんなの嘘よ。あなたは王弟、いくらでも金を作れるでしょう?」
ローザのあまりの言い草に、エドワードは言葉を失う。
「……君は俺が誰かに頼めば、簡単に金が出てくると思っているのか? 公爵家の資金は無尽蔵じゃない。王弟といえども、王家の金庫を好き勝手に開けられるわけでもない。そんなことをすれば、陛下からの信頼を失い、遠からず失脚だ!」
「ふうん……失脚ねえ。それは困るわ」
ローザは冗談めかして言うが、その目にはまるで感情がない。
「でも私、贅沢を我慢する気はさらさらないの。エドワード、あなたは私を喜ばせるだけの力がない男ってことになるわよ? それでもいいの?」
エドワードの胸中に苛立ちがこみ上げる。どうしてこんな女に囚われてしまったのか。ジェニファーと結婚していた頃のほうが、はるかに平穏だったのではないか――そんな後悔の念が押し寄せる。
「君は……俺を利用するだけ利用して、切り捨てるつもりか?」
「さあ、どうかしら。あなた次第ね」
そう答えるローザの笑みは、どこまでも残酷で美しい。エドワードはその場に立ち尽くし、思考が停止してしまう。これまで思い通りに生きてきたはずが、いつの間にか逆転されている――それを痛感する瞬間だった。
あなたにおすすめの小説
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。
山田 バルス
恋愛
結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。
また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。
大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。
かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。
国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。
スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。
ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。
後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。
翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。
価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました
鷹 綾
恋愛
19話 以降公開設定ミスしてました。
完結まで公開させてもらいました。
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」
そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。
王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。
私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。
けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。
華やかな王宮。
厳しい王妃許育。
揺らぐ王家の威信。
そして――王子の重大な過ち。
王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。
離縁を望んでも叶わない義妹。
肩書きを失ってなお歩き直す王子。
そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。
ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。
婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
旦那様、離婚してくださいませ!
ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。
まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。
離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。
今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。
夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。
それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。
お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに……
なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。