離婚するはずの旦那様を、なぜか看病しています

鍛高譚

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第1章:「貴族の結婚なんてこんなもの」

2話

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婚礼の日

 婚礼は、思ったよりもあっさりとしたものだった。
 もちろん形式としては公爵家と辺境伯家の結合を盛大に祝うべく、多くの賓客が集い、王都の大聖堂で挙式も行われた。しかし、これは政治的意味合いの強い式だ。
 壇上に立つ私たちのもとへ、次々と貴族や廷臣たちが祝いの言葉をかける。私は淀みない笑顔で応対するが、内心ではもう終わってくれとしか思っていなかった。

「アルタイ・ヴェルノア公爵令嬢、ベガ・アルシェール辺境伯侯爵。両名の祝福をここに――」

 司祭が儀式の言葉を唱え、指輪の交換が行われる。
 私は目の前にいるベガをちらりと見上げた。彼はまるで仮面のように無表情だ。だが、周囲の視線を意識してか、ぎこちなくとも優しい仕草で私の指に指輪をはめる。
 私も同じように、彼の指へ指輪を滑らせた。

(これで、私はこの人の妻――“辺境伯夫人”になったのね)

 不思議と胸がざわつくような、何かが変わってしまったような感覚があった。しかし同時に、その変化をどこか客観的に見つめている自分もいた。

「おめでとうございます、アルタイ様。今後とも、お幸せに」

「ありがとう、姉様。そちらもお体にお気をつけて」

 式典が終わり、私は姉に軽く抱擁される。姉は既に別の公爵家に嫁いでいるが、私とは対照的に結婚へ夢や憧れを抱いていた人だ。
 しかし姉は私の性格をよく知っているからこそ、表面的な言葉以上のことは言わない。

 披露宴が行われる広間でも、私は社交界の誰もが納得するような振る舞いを心がけた。
 ベガはほとんど会話に加わらず、居心地が悪そうに立っているだけ。私は苦笑して、自ら挨拶を取り仕切り、彼の存在感を上手に補うよう努めた。
 周囲には、辺境伯夫妻が“とてもお似合い”に見えたことだろう。二人そろって沈黙を守るよりは、私が話の主導権を握るほうが円滑に事が進む。
 そうして、私たちの婚礼は滞りなく、無難に終わった。
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