SP24歳 女子高生始めました。

鍛高譚

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第5話:スーツに戻って地獄に逆戻り!? ゴールデンウィークは修羅場です

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第5章:スーツに戻って地獄に逆戻り!? ゴールデンウィークは修羅場です


5-1:任務開始、そして寿司(高洲)へ


 


 ゴールデンウィーク――学生たちにとっては、夢のような長期休暇の始まり。


 当然、制服に悩まされ続けた倉子と真子にとっても、それはまさに“解放の象徴”だった。


 


「ついに……ついにこの時が来たわ……!」

 倉子は深々とソファに沈み込み、スカートのない太ももを解放的に伸ばした。


 


「最高っスね……制服なし、スケジュール白紙……お昼まで寝て、午後はゲーム……」

 真子も毛布にくるまり、アイスを片手に笑っていた。


 


 そのときだった。


 


 ピロンッ


 


 ふたりのスマホに、同時に“警備連絡”の通知が届いた。


 


「……いやな予感しかしない」


「これ、見なかったことにしません?」


 


 恐る恐る開いたスケジュールアプリには、こう表示されていた。


 


 【至急任務】5月1日~5日 ドナルド・トラブル大統領(アメリア合衆国)来日特別警護任務

 場所:東京都内・各所視察同行

 服装:黒スーツ/機密インカム配備


 


「……スーツ?」


「って、アメリアって……え、えええええ!? これ、本国の大統領じゃないスか!!」


 


 ふたりは絶望した。


 そしてその翌日。

 都内某ホテルのロビーに、黒スーツ姿の二人がいた。


 


 普段はセーラー服で校内を走り回っていた彼女たちが、いまはジャケットにインカム、ヒールを鳴らしてプロの顔に戻っていた。


 


「……やっぱりスーツ、落ち着くわね」

 倉子が胸元の無線を確認しながら言った。


 


「ですよね~。制服だと恥ずかしさが先に来るけど、これは戦闘服って感じッス」


 


 そこへ、彼――アメリア合衆国大統領、ドナルド・トラブルが登場した。


 


 白いスーツに派手なネクタイ、金髪オールバック。

 にこやかに手を振りながら、観光大使のような笑顔で歩いてくる。


 


 「Hello~! This is Japan! Sushi! Samurai! Wa~!」


 


 (……うわぁ、本当にトラブルだこの人)


 


 ふたりの心の声がシンクロした。


 


 初対面のはずだが、なぜか真子にハグしてきて、

 倉子の背中をポンと叩いてからウィンク。


 


「SP? NICE! ビューティフル! カンペキ~!」


 


 「と、とりあえずスケジュールを――」

 倉子が同行マネージャーに話しかけようとした瞬間。


 


 「SUSHI!! I WANT SUSHI NOW!!!」


 


 周囲が一瞬止まる。


 


 真子が笑顔で確認する。


 


「……え、あの、本日は都庁の表敬訪問と日米友好記念パーティのはず……」


 


 「NO! Sushi first! In the market! The famous one! Tsuki… Tsuki…」


 


「……築地?」


 


 そしてそのまま、ドナルド・トラブル大統領は、視察をすっぽかして高洲の寿司横丁へと向かってしまった。


 


* * *


 


 ――現地、高洲。


 


 GWで観光客が詰めかける市場通り。


 その中を、大統領を囲むようにしてSPたちが猛ダッシュ。

 倉子と真子は観光客に頭を下げながら通路を確保していた。


 


「すみません通ります! 大統領です、すみません、大統領です!」


「いやほんと迷惑ッスよ大統領ぉおお……!」


 


 その間もトラブル大統領は大はしゃぎ。


 


 「OH! ツナ! マグロ! エビ! ホタテ!! カンパチィイイ!!」


 


 勝手に寿司屋に入り、職人の後ろから覗き込む。

 記念撮影を求められると、後ろから真子を引き寄せてピース。


 


 「美人SPと日本のSUSHI! BEST SHOT!」


 


 (うわ、ハグきた。ぬ、ぬくもりが…不快ッス!)


 


 その写真がSNSで拡散されたのは、その日の夜のことだった。


 


* * *


 


 任務初日が終わった頃。


 


 ホテルの非常階段に腰掛けて、スーツ姿の二人は無言だった。


 


「……あと、4日あるんですよね……」


「……そうね」


 


 夜風が吹く。


 


 真子がボソッと呟く。


 


「先輩……制服でもいいです。学校に帰りたいです……」


 


 倉子も深く頷いた。


 


「ブルマでも……朝礼でも……“体育館で貧血倒れそうな校長の話”でもいいから……」


 


 こうして、ゴールデンウィークという名の災厄ウィークが幕を開けたのだった。





---


5-2:二日目、ラーメンと通行封鎖地獄


 


 二日目の朝――。


 ホテルの地下駐車場、黒いSUVの横で倉子と真子は待機していた。


 


「昨日、マジで地獄でしたね……」

 真子が眠たげに言いながら、ストレッチをしている。


 


「ええ。市場のあの混雑、ボディガード人生でもトップクラスよ」

 倉子は静かに腕時計を確認しつつ、うなずいた。


 


 本来ならこの日は、外国大使館関係者との昼食会、午後から経済フォーラム出席、夜は外務省主催の歓迎会。きっちり分刻みのスケジュールが組まれていた。


 ――そう、“本来なら”。


 


「ハロー! トラブル・アゲイン!!」


 


 笑顔で登場したのは、今日も元気いっぱいなドナルド・トラブル大統領。


 花柄シャツにスラックス、ノーネクタイの軽装。


 


「Today is…… RAMEN DAY!!」


 


 「……え?」


 


 倉子と真子の表情が同時に固まる。


 


「トゥデイ……ラーメン……?」


 


 「Yes! Japan’s soul food! I want a bowl! Hot! Spicy! Tonkotsu!」


 


 随行スタッフ:「そ、総理官邸には……?」


 


 「レイター! RAMEN FIRST!!」


 


 その一言で、警備計画が丸ごと吹き飛んだ。


 


* * *


 


 1時間後――。


 都内某有名ラーメンストリート。

 狭い通りに、人・人・人。


 


 その真ん中を、外国大統領の一団が堂々と進むという異常事態。


 


「警備ライン下がって!そこの自転車動かして!」

「お願いです!ほんと、そこ通らせてーっ!」

「大統領通ります!すみません!大統領なんです!」


 


 倉子と真子は、一般人の視線にさらされながら、通行規制の最前線で悲鳴を上げていた。


 


「ねえ真子……これ、昨日より悪化してない?」

「完全に悪化ッス! 人数3倍ッス! 空気熱いッス!」


 


 しかも、大統領はご満悦で屋台風のラーメン店に入り、


 


 「カメラ! 撮ってくれ! 麺をすする私! ワビサビィィ!」


 


 などと叫びながら、トッピング全部乗せラーメンをすすり上げていた。


 


 どこからともなく現れた外国人観光客が「トラブル大統領ラーメンなう」とSNSにアップし、現場はさらにカオスに。


 


 狭い厨房にまで人が入り込もうとし、倉子がカウンター内に自ら入って制止。


 


「入らないでください!危険です!火が……っ」


「先輩、まさかの厨房イン!?」


「麺湯切ってるSPなんて聞いたことないわよ!」


 


 さらに、大統領がラーメン店主に絡みながら、唐突に真子を指差した。


 


「オオ!ラーメンガールSP! きっと似合う! 制服のまま厨房へ!!」


 


「えええええ!? 無理ッス無理ッス!」


 


* * *


 


 食事後、現場はさらにカオスを極める。


 トラブル大統領、突然路上インタビューを受け始め、


 


 「ジャパニーズヌードル、カンペキ! イチバンオイシイ! マイハート!」


 


 周囲から歓声と拍手。


 その間、警備班は半泣きで人払いとルート再構築に奔走。


 


「緊急経路Cへ誘導開始!次の交差点を封鎖!誰か交番に話つけてー!」


「広報、もうラーメン公式発表しちゃって!止めるな!逆に乗れ!」


 


 そんな大混乱の中、倉子と真子は警備車両の影に身を寄せて、冷たいお茶を一口ずつ啜っていた。


 


「……なんなのよ、この仕事……」


「任務中に“麺の硬さ”について議論したの、人生初ッスよ……」


 


 倉子がポケットからスマホを取り出す。


 予定表には、明日以降のスケジュールが並ぶ。


 


 【5月3日:焼肉店視察予定】

 【5月4日:うなぎ蒲焼希望】

 【5月5日:自由行動(アキハバラ予定地?)】


 


「…………」


「……先輩、次、焼かれますね。私ら……」


「ええ。次は“焼き”がテーマの地獄みたい」


 


 二人は顔を見合わせ、そしてそっと目を閉じた。


 


 ――ゴールデンウィーク三日目。

 それは、まだまだ地獄の始まりにすぎなかった――。



---




5-3:三日目、焼肉という名の戦場


 


 三日目の朝。


 予定では、高級ホテル内でのランチと、都内ビジネス施設視察。

 そのはずだった。少なくとも書面上では。


 


 だが――。


 


「YAKINIKU! MEAT! GRILL! FIRE!!」


 


 ホテルのロビーに響く、大統領の元気すぎる第一声。


 


 「お、お肉ですか……?」


 


 SPチームの代表が恐る恐る聞き返すと、トラブル大統領は上機嫌で親指を立てた。


 


 「JAPANESE BBQ! グリルでジュ~!ってやつが食べたいのさ!」


 


 そう言って、彼は“予定表”という概念をまるごと破壊した。


 しかも彼のご所望は、銀座の高級焼肉店ではなかった。


 


 「NO! ビジネス感はイヤだネ!ローカルな店!煙モクモクしてるとこ!」


 


 そして1時間後――


 


 下町の大衆焼肉商店街に、大統領とSPの大群が現れた。


 


* * *


 


 「……いやいやいやいや、狭ッ!!」


 


 真子が叫ぶ。


 


 道幅はせいぜい2メートル。両脇にひしめく古びた焼肉店の軒先。

 昼からビール片手に肉を焼く地元のおじさんたち。


 


 そこに、サングラスをかけたガタイのいいSPたちがずらりと並び、中心には陽気に手を振る大統領。


 


 「すっごい浮いてる! ていうか、異物感しかないッス!」


「でも本人はノリノリよ……」


 


 案の定、大統領は一軒の焼肉屋にズカズカと入り、勝手に七輪の前へ。

 おしぼりを振り回しながら、ニコニコと「カモ~ンミート!」と叫ぶ。


 


「……なんでこんな元気なの、この人……」


 


 焼き台の煙がモクモクと上がり、スーツの裾にじわじわと匂いが染みていく。


 


「……先輩、もう私たち、完全に燻製化してます……」


「脱いでも臭い、洗っても取れないやつね……」


 


 さらに店内には、地元テレビ局のカメラまで突入。


 「今日はなんと! アメリア合衆国のトラブル大統領が下町に出没です!」


 そして、カメラの前でドヤ顔で肉を焼くトラブル大統領。


 


 「ファイヤァ! ミディアム! コレ、ビーフ? ポーク? ワカラナイケド、ウマ~イ!!」


 


 その横で、真子はサイドに構え、火の粉と油跳ねに備えて立っていた。


 


「……SPって、焼肉の煙から客を守る職業だったんスか……?」


 


「違うけど否定できないのが悲しい……」


 


 そして事件は、その直後に起きた。


 


 「You、焼いてあげるヨ!」


 


 トラブル大統領が、なぜか倉子の肉を勝手に網に乗せ、焼き始めたのだ。


 


 「レディにはスマートにサービスネ!」


 


 網の上でジュウジュウと音を立てる肉を前に、倉子は笑顔のまま静かに目を閉じた。


 


「……真子、私、今すっごく複雑な気持ちなの」


「先輩、まさかとは思いますけど、“大統領に焼かれた肉”ってタグがつく世界線、初めてじゃないですか?」


「これ、笑い話にならないわよ。あとお尻、今さりげなく触られたわ」


「先輩、マジで訴えましょう……」


 


* * *


 


 なんとか店を出た後。


 大統領は「次はカラオケ行く? パリピっぽいとこ?」とノリノリだったが、

 さすがにスタッフとSPが全力で止め、ホテルへと強制送還された。


 


 その帰り道――。


 警備車両の後部座席、スーツのまま頭をぐったり下げた真子がぼそっと呟いた。


 


「先輩……昨日までの学校生活って……楽園だったんスね……」


 


「ブルマで走った日々が、懐かしくて涙出そうよ……」


 


 倉子はスマホの予定表を確認する。


 


 【5月4日:うなぎ蒲焼】

 【5月5日:自由行動→秋葉原メイド喫茶(?)】


 


「……次は、“焼かれた心”にタレを塗られる日か……」


「その次は、羞恥心をさらに炙る展開が待ってるんスね……」


 


 ふたりは同時に、深いため息をついた。


 


 次の任務は、さらに――“濃厚”である。






5-4:四日目、うなぎと密出発未遂


 


 五月四日、午前六時。


 その日の予定は、午前:表敬訪問/午後:国立博物館視察/夜:官邸レセプション。

 緻密に組まれたスケジュールが、スタッフの手元で美しく光っていた。


 


 ――しかし、その美しき紙の束は、わずか一言で燃え尽きることになる。


 


 「ウナギが食べたい! ウ・ナ・ギ・ノ・カ・バ・ヤ・キィィ!」


 


 今日も元気いっぱいの大統領、ドナルド・トラブル。


 朝食の席で「和朝食」を見た瞬間、目を輝かせながらスタッフに身を乗り出した。


 


 「この魚もいいけど……今日は“タレの香ばしいやつ”を食べたい気分なんだヨ!」


 


 付き添いの通訳が青ざめる。


 


 「だ、大統領……今日は午前に官邸の表敬訪問が……」


 


 「レイター! ウナギファースト!!」


 


 (……またかよ)


 倉子と真子は、SPルームでうな垂れた。


 


「次は“焼かれた心”に“タレで追い打ち”っスね……」


「昨日あんなに煙に燻されたのに、今日は甘ダレで煮詰められるのね……」


 


* * *


 


 10時、ホテルから警備車両で出発――のはずだった。


 


 だが、その時間になっても、大統領の姿が見えない。


 


 担当SP「……部屋にいないです」


 


「……は?」


 


 全員の動きが止まった。


 


 警備統括:「緊急確認! トラブル大統領、部屋から勝手に外出した可能性大!」


 


 慌てて監視カメラを確認すると――

 映っていたのは、サングラスにキャップを被り、ノリノリでエレベーターに乗り込む大統領の姿。


 


 真子:「完全に脱走犯ッスよ……!」


 


 倉子:「これ、笑えないやつよ……!」


 


 その10分後、スタッフのスマホに**「今ウナギ屋!イマカバヤキ!!」**という謎のスタンプ付きメッセージが届いた。


 


* * *


 


 場所は老舗のうなぎ専門店。

 予約もなく突入した大統領は、一般客と並んで笑顔で写真を撮っていた。


 


 「オー! グリルドイール!! カリッとネ! タレがジュ~!!」


 


 周囲の観光客も驚き、大統領の登場に大騒ぎ。


 


 記念撮影→SNS投稿→人だかり→ニュース速報――情報拡散まで15分。


 


 現地到着した倉子と真子は、完全に顔が引きつっていた。


 


「またかよぉおおぉぉ……!」


「さすがに今日こそ怒りますよ先輩! これ仕事の域超えてますって!」


 


 店内に入ると、大統領は店主に絡みながら笑顔で言った。


 


 「このウナギ、ファンタスティックだヨ! あ、レディたちも食べる? おごるヨ!」


 


 「……遠慮しときます」


 


 倉子は無表情で断りつつ、真子を引っ張って奥に下がった。


 


 「もうダメ……匂いで胃が逆流しそう……」


「てか、先輩……昨日の焼肉と今日の蒲焼きで、私らのスーツ、もう“和風出汁”の香りしかしないッスよ……」


「うちの社、クリーニング代出るかしら……」


 


* * *


 


 なんとか大統領を確保し、車に押し込んだあと。


 官邸訪問は中止、夜のレセプションだけなんとか形にした。


 


 帰りの車内――。

 真子はシートに沈み込みながら、スマホを操作していた。


 


 「……先輩。見てください」


 


 画面には、ネットニュースの速報が映っていた。


 


 『アメリア大統領、突如うなぎ屋に現る! “蒲焼きは世界の味”発言に称賛の声』


 


 「……これ、称賛されるのおかしくない?」


「悪目立ちの神様なのかしら、この人……」


 


 そして、倉子はスマホのスケジュールアプリを開いた。


 


 【5月5日:自由行動(秋葉原予定)】

 補足:本人が「メイドに会いたい」と発言済み


 


「……」


「……先輩、今度は“魂が焼かれる”予感がしてきました……」


「……ブルマのほうが、まだ布が多かった気がする」


 


 ふたりは沈黙し、同時に悟った。


 


 この任務、最終日が最大の地獄であることを――



5-5:五日目、メイド喫茶と“死”の羞恥


 


 五月五日、こどもの日。

 都心は晴れ渡り、ゴールデンウィーク最終日の活気で賑わっていた。


 


 ――午前十時。

 都内某超高級ホテル、アメリア大統領専用スイート前。


 


 「大統領は……?」

 倉子が淡々と尋ねる。


 


 「……い、いないです」


 


 アメリアSPのチーフが青ざめながら頭を抱える。

 また、やられたのだ。五日目にして**五度目の“脱出”**である。


 


 「私がルームサービスを取ってる間に……」


「窓から出たとか言わないでよ……?」


「正面玄関から“イエーイ!”って叫びながら出て行きました……」


 


 倉子と真子の顔が、同時にひきつる。


 


「……どこへ?」


 


 チーフSPは震える指で、スマホを差し出した。

 そこには大統領から送られてきた、自撮りの画像。


 


 背景は――秋葉原の電気街。

 そして、吹き出しにはこう書かれていた。


 


 『メイドさんに会いにきたヨ! 萌え萌えキュンってな!』


 


 


 「終わった……」


「こっちが“萌え尽きて死ぬ”パターン……」


 


* * *


 


 その1時間後。

 秋葉原・某有名メイド喫茶「メイド☆ファンタジア」。


 


 SPたちの懇願により、倉子と真子が“制服SP”から“メイドSP”へと転職させられていた。


 


 「すみません、他に頼める女性がいなくて……お願いです……!」


 


 アメリアSPの土下座に近い説得に、真子は完全に折れた。

 問題は――


 


 「……倉子先輩……だ、大丈夫っスか?」


 


 フリル満載のピンクメイド服に、白のエプロン、ふわふわのカチューシャ。


 その格好で、“氷のSP”こと倉子が、無言で立ち尽くしていた。


 


 そして、口を開く。


 


 「……恥ずか死ぬ」


 


 その一言は、もはや名言だった。


 


* * *


 


 店内には、満面の笑みでハートを作るトラブル大統領の姿。


 


 「オオ!カワイイイイ! 萌えー! 萌えー! サイコー!!」


 


 倉子と真子は、メイドのふりをしながら、大統領の安全を警戒しつつ“接客”をこなしていた。


 


 「おかえりなさいませ、ご主人様……(死んだ目)」


「本日もご来店、誠にありがとうございますッス☆(棒読み)」


 


 他の本職メイドたちは、プロ根性でトラブル大統領を盛り上げる。


 「トラぶるたん萌え萌えキュンですにゃん☆」


 「ナイス焼肉パワーで萌えMAXですう~☆」


 


 場違いすぎる外国のトップが、一番はしゃいでいた。


 


 そして――。


 


 「最後に、記念写真を撮ろうネ! ふたりとも、私の両脇にハグして!」


 


 「……」


「……」


 


 数秒の静寂。


 


 「ご主人様、記念撮影は……有料オプションでございます」


 


 倉子の、SPの威厳を絞り出した冷静な声に、店内のスタッフが大爆笑した。


 


* * *


 


 昼過ぎ、大統領は満足気にホテルへ戻り、その後空港へ移動。


 無事、アメリア空軍の専用機へ搭乗した。


 


 その瞬間――


 倉子と真子は、全身から力が抜けた。


 


 空港ロビーの一角、制服に着替え直したふたりが無言でベンチに腰掛けていた。


 


 「……ブルマでも……セーラーでも……なんでもいいから、学校に帰りたい」


 


 倉子が本気で呟いた。


 


 「制服……温かくて、懐かしくて、安心するッス……」

 真子も目に涙を浮かべていた。


 


 そしてスマホが鳴る。


 


 澪からのメッセージ:


 


 「おかえりなさい。先輩、真子さん、来週の“授業参観とPTA総会”ですが……」

 「社長が“君たちの働きぶりを視察したい”と言って便乗するそうです」


 


 「……」

 「……」


 


 倉子:「当日、風邪をひく予定です。よろしく」

 真子:「私は、お腹壊す予定ッス……!」


 


 二人は揃ってベンチに倒れ込んだ。


 


 その姿は、“世界最強メイドSP”から“ただの高校生”へと戻る瞬間だった。






---


エピローグ:恥ずか死ぬ② ~世界が見た、メイドSP~


 


 その日――。


 都内某所にある民間警備会社セキュリティ・アテナ本社の問い合わせ窓口には、

 通常の百倍を超えるアクセスが殺到していた。


 


 その内容は、どれもこうだった。


 


 「御社に“メイド服を着用した女性SP”が在籍しているのは本当ですか?」


 


 発信元:アメリア国防省、フランス大統領府、イギリス王室安全局――

 さらにはなぜかバチカン市国とカナダの観光庁からも。


 


 きっかけは、言うまでもない。


 


 ――アメリア合衆国大統領、ロナルド・トラブルのSNS投稿だった。


 


 『Japan has MAID-BODYGUARDS! So cute! So strong! So Moe!!』

 (訳:日本にはメイドのボディガードがいる。可愛い。強い。萌える。)


 


 添付されていたのは、秋葉原のメイド喫茶で両脇にメイド姿で立つ倉子と真子の写真。


 ハートポーズ。完全に笑顔が引きつっている。だが確かに写っている。


 


 事態は即座に“世界級の誤解”を招いた。


 


 外務省は火消しに追われ、総理官邸までもが声明を出す。


 


 「日本に“常設メイドSP制度”は存在しません」


 


 にも関わらず――


 


 その午後、日本の官邸からアテナ社に**“SP派遣についての制度確認”**の連絡が入った。


 


 その頃、倉子と真子はというと――


 


 校内のベンチで並んで、澪の買ってきたメロンパンを食べていた。


 


 真子:「ああ、平和……制服ってこんなにありがたいものだったんスね……」

 倉子:「今ならブルマでもスクール水着でも、感謝して着るわ……」


 


 そこに、社長からの通知が届いた。


 


 【至急】世界中から“メイドSP”要請が届いております。近日中に再任務調整を予定。ご協力ください。


 


 二人は、ゆっくりとスマホを伏せた。


 


 そして――。


 


 「恥ずか死ぬ」


 


 それは、もはや呪文であり、真理であり、

 制服SPの歴史に刻まれた、**“第二の被害報告”**であった。


 


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