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第13話 年末年始は巫女警備
しおりを挟む13-1:神社集合、そして巫女装束との遭遇
大晦日、午前八時。冷たい冬の風が吹きつけるなか、倉子と真子は大日神社の鳥居前に立っていた。
「先輩……年越しに巫女服って、やっぱ悪夢っスよ……」
「まだ着てないわ。現実になるのはこれからよ」
ふたりは社務所へ向かいながら、心のどこかで“きっと普通の警備服が渡されるはず”と淡い期待を抱いていた。
だが、その希望は、社務所の奥で手渡された“衣装袋”を開けた瞬間に散った。
「……巫女装束、ですね」
「真子、見間違いじゃないわよね?」
「白と赤の……まごうことなき巫女服っス……」
そして衝撃の追い打ち。
「巫女装束は、おふたり分のみご用意しております」
社務所の係員が、さらりと告げた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 今日って応援30人来てるんですよね!? みんな普通の警備服だったじゃないですか!」
「はい。他の皆様は雑踏警備隊ですから」
「じゃあ、なんで私たちだけ……?」
「おふたりには、社務所警備兼、境内内サポートをお願いしています。雰囲気づくりも兼ねて、巫女服での警備をお願いします」
「雰囲気!?」
「“お清め要員”って感じかもな」
横から現れた黒い警備服の男性が軽く肩を叩く。
「俺たちは境内外の雑踏整理。中はお前らに任せたぞ。……頼んだぞ、巫女SP!」
「いや、“SP”の要素どこいったんスか……」
「任務は任務よ。着替えるわよ」
倉子の言葉に、真子が深くうなだれながら更衣室へと入っていく。
*
鏡の前に並んだ二人の姿。
白い長袖の上衣に赤い袴。足元は足袋に草履。普段とは真逆の、ふんわりとした装いに、ふたりとも違和感が凄まじかった。
「……うわ、自分で言うのもなんスけど……似合ってる……」
「悪目立ちするレベルね。こんな姿で境内に立ったら絶対注目されるわ」
「……先輩、知ってます? 巫女って本来、経験のない清らかな乙女しかやっちゃいけないらしいっスよ」
「良かったな真子、合格だ」
「先輩もね」
沈黙。
そして、空に向かってふたりは叫んだ。
「「ちくしょーーーー!!」」
「……こんな仕事してるから、モテないんだ」
「破魔矢で心を射抜かれて昇天したいっス……」
*
支度を終え、指定された場所に立つふたり。
神主が簡単な打ち合わせを終えると、最後にさらなる追い打ちをかけてきた。
「ついでに、アイドル的な立ち居振る舞いもできれば嬉しいですな。お正月の記念に、写真をお願いされる方も多いので」
「アイドル……?」
倉子の眉がぴくりと動く。
「おい、これは警備任務だぞ」
「いや、でも先輩、せっかくの巫女姿、記念写真くらいは……」
「笑顔で立つのが仕事だったら、私は採用されてないわ」
その後ろでは、応援の警備服組が「マジ巫女やってる」と遠巻きに写真を撮ろうとしていたが、倉子の鋭い睨みで瞬時にカメラが収まった。
「写真撮影は禁止です。警備中につき」
「ヒィッ、すみません!」
「……先輩、目が殺意こもってるっス」
そうして、202X年の年末。久遠女子高のSPふたりは、誰よりも目立つ“巫女SP”として、年越し任務に就くのだった。
13-2:大晦日夜~年越し警備開始!
日が落ち、境内は一層の賑わいを見せていた。参拝客の数はどんどん増え、屋台の明かりと共に人の波が絶えない。
澄んだ空気に、焚き火の香りと屋台のたこ焼きの匂いが混ざる中、巫女装束の倉子と真子は、社務所前の警備ラインに立っていた。
だが、彼女たちの任務は警備というよりも、もはや“クレーム処理”に近かった。
「おーい、おねーさん! おみくじ二つくれやぁ!」
酔っ払った中年男性が、ぐでんぐでんになりながら御札売り場に絡み始めていた。
「こっちの巫女さんの方がカワイイから、直接渡してくれよ~、なっ?なっ?」
「……真子、対応お願い」
「うっす、先輩」
真子は愛想笑いを浮かべながら、一歩前に出る。
「すみませんが、こちらは販売の方とは別担当なんで、おみくじはあちらの巫女さんが対応いたしますね~。どうぞ~」
「え~? つれないなあ~、若い子が対応してくれるのが楽しみで来たのによぉ~……」
そのとき、倉子がぴたりと横に立ち、静かな声で言った。
「これ以上の接触行為は、公序良俗違反により、境内からの退去対象となります。ご協力いただけない場合、警備責任者を通して正式な処置を取らせていただきます」
――冷たい笑みと共に、言葉のナイフが飛ぶ。
「ひっ……わ、わかったよぉ……!」
酔っ払いは一瞬で冷めたような顔になって逃げていった。
真子が小声でつぶやく。
「先輩……笑顔なしで撃退スキル高すぎっス」
「言葉で済むうちは、言葉で片付ける。それが理想」
「でも、絡まれる回数、明らかに巫女さんの中でダントツっスよ、私ら」
「この服で“ただ立ってるだけ”は無防備に見えるってことよ。だからこそ、立ってる意味がある」
ふたりの対応を見ていた近くの神職が、小さく頭を下げてきた。
「助かります。本来、巫女には無理をさせられないので……本当に、ありがとうございます」
「いえ、こちらが本職ですから」
倉子がさらりと返すと、神職は恐縮したまま引き下がった。
だがその直後、今度は甘酒片手に大声で笑いながら寄ってくる若者グループが出現。
「うわっ、こっちにも来た……」
真子がため息をつく。
「はい、次のお客さま、いらっしゃい……って対応、これもう完全に接客業っス」
夜は更け、年越しのカウントダウンが近づいても、ふたりの任務は続いていた。
13-3:お札とおみくじと酔っ払い
年越し警備の現場、大日神社。 倉子と真子が詰めているのは、本殿横の巫女専用詰所――のはずだったが、 二人の任務はいつのまにか、お札売り場とおみくじカウンターの警備兼対応係に変わっていた。
「巫女って、こんなに体力仕事なんですか……」
額にうっすら汗を浮かべながら、真子が溜息をつく。 対応しているのは参拝客だけではない。 この時期、最も厄介なのは――
「ねえちゃーん!おみくじ一緒に引こうよぉ」
そう、酔っ払いだ。
新年を迎える前後、深夜にかけてどこからともなく現れる酒気を帯びた参拝客たちが、 巫女姿の彼女たちを目当てに絡んでくるのだった。
「申し訳ありません、販売はこちらでございますので、お一人でお引きください」
倉子は丁寧に、しかしぴしゃりと酔客を制する。
「いいじゃーん、ちょっとくらいぃ~……」
「お客様、それ以上近づくようでしたら、警備スタッフをお呼びします」
目元だけ笑っていない倉子の声に、酔っ払いが一瞬で距離を取った。
「さすがっす……。先輩、迫力だけで撃退できるとか最強っす……」
真子が感嘆の声を漏らす。
「言葉が通じない相手には、目と態度で語るのよ」
その後も、お守り売り場に突撃してくる酔客、おみくじ箱をひっくり返そうとする子ども、 写真を勝手に撮ろうとするスマホ勢など、雑多なトラブルが相次いだ。
「……うちの会社、巫女SP対応マニュアル、作ってください」
真子の疲労困憊な声に、倉子も苦笑いで応える。
「まずは『巫女装束でも走れる体力をつけましょう』からね」
境内の人波は絶えない。 しかし、参拝客の安全のため、そして任務を全うするため。 24歳女子高生SPは、今日も巫女服で戦うのだった。
第13章-3「お札とおみくじと酔っ払い」を執筆しました!
巫女装束で奮闘する倉子と真子の姿を通して、任務とコメディのバランスが光る回となっています。
13-4:年越しカウントダウンと24時間勤務の果て
境内の混雑はピークを迎え、時刻はまもなく深夜0時。 社殿前には長蛇の列。空気は冷たいが、人々の熱気と期待が満ちている。
「年越しまで、あと五分……」
真子は吐く息を白くさせながら、マフラーを整えるふりをして耳のインカムに触れた。
「参道警備チーム、特に異常なし。倉子先輩、そちらは?」
「こちらも順調。若干酔客が増えてきたけど、想定内よ」
返ってくる声は相変わらず落ち着いていたが、疲労の色は隠せなかった。 深夜の冷気の中、巫女装束では防寒も限界がある。
とはいえ、任務に妥協は許されない。
「0時ちょうどに鐘の音。そこからの参拝が山場になるわね」
「おみくじの列、もう折り返してます……先輩、戦場です、ここ」
ついに、新年のカウントダウン。
「五、四、三、二、一――」
ごぉぉぉん……。
境内に大きな除夜の鐘が鳴り響く。
「――あけましておめでとうございます」
一斉に拝む人々。 同時に、列が一斉に動き出し、境内はまさに“人の波”と化した。
「来るわよ! 真子、後列の列制御お願い!」
「了解っす!」
ふたりは人混みの中を縫うように移動しつつ、随時参拝者の動きを誘導。 装束の裾を引きずらないよう気をつけながらも、次々とトラブル未然防止に努める。
「お札落とした方ー! あ、はい、こちらです!」
「参拝はゆっくり順番にどうぞー!」
境内放送よりよほど頼りになる巫女ふたり。
――そして。
長い長い夜が明け、最初の24時間勤務が終了したのは、元旦の18時だった。
詰所に戻った倉子は、倒れ込むように座布団に沈み込み、静かに言った。
「真子……私、いま、心が無……」
同じくぐったりした真子が答える。
「私、もう、初夢見る前に二度寝します……」
年末年始警備、初日終了。 残り二日間も続くと考えると気が遠くなるが――
とりあえず今夜だけは、せめて夢の中くらい、のんびりさせてほしい。
そう願いながら、二人の巫女SPは、その場で静かに眠りに落ちた。
【エピローグ】
翌朝。詰所で仮眠から目覚めた倉子は、ぼんやりと天井を見つめていた。
「……初夢、見た気がするけど……内容、覚えてないわ」
「私なんて、夢見る前にシフト表のことでうなされてました……」
真子が目の下にクマを浮かべながら、自販機の温かいお茶を差し出してくる。
「ありがとう。……にしても、まさか年始を巫女で過ごすことになるとは思ってなかったわね」
「しかもあと二日あるっていうね……」
二人の間に、静かで妙に重たい空気が流れた。
その時、詰所の扉が開き、警備本部からの伝令が入った。
「お疲れ様です! 社から伝達です! 昨日の対応ぶりが評価されまして、急遽、巫女装束のままCM出演のオファーが――」
「断れえええええええ!!」
二人の絶叫が、境内に響き渡ったという。
巫女SPたちの年越し任務――まだまだ終わらない。
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