SP24歳 女子高生始めました。

鍛高譚

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第12話 プライベートクリスマス

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12-1:年末進行と不穏な予感



 二学期も終わりが見えてきた十二月中旬。寒さが一段と厳しくなるなか、久遠女子高の教室にも年末の空気が流れはじめていた。



 ストーブの前で手を温めながら、真子がぼやく。



「先輩、もうすぐ冬休みっスね~……」



 その隣で、いつものように背筋を伸ばして座っている倉子は、冷めた目で答えた。



「学生はな」



「やっぱ、休めないっスかね……?」



「夏休みも仕事をねじ込まれたことを忘れたのか」



「でっすよね~……でも、せめてクリスマスと年末年始くらいは休みたいじゃないっスか」



「クリスマスなど、ひとりで寂しく過ごすだけだろう。だったら仕事をしてた方がマシだ」



「そんなこと言って、恋人同士で溢れかえるレストランの警備なんて回されたら最悪っスよ! リア充空間で無言で立ち尽くすとか地獄っス!」



「フラグを立てるな」



 その瞬間、真子のスマホに通知が届いた。



「……社長から連絡っス」



 二人の視線が集中する。真子が内容を読み上げた。



「『澪嬢の警備は、終業式終了後に自宅へ送り届けたら、年内業務終了。30日まで休養に入れ』」



 一瞬の沈黙のあと——



「やったああああああああああ!!!」



 真子が机の上に突っ伏してガッツポーズを決める。



「おい、はしゃぎすぎだ。30日“まで”しか休めないぞ」



「30日まで休めるなんて、夢のようじゃないっスか! ゆっくりアニメ見て、コタツでだらだらして、鍋食って、ゲームして……!」



「つまり31日から仕事があるってことだぞ」



「先のことは考えないで今を喜ぶ! それが年末精神っス!」



 その様子に倉子は深いため息をついた。



「……嫌な予感しかしない」



 そんな折、後ろから声がかけられた。



「おふたりとも、クリスマスのご予定はありますか?」



 振り向けば、澪が穏やかな微笑みで立っていた。



「予定……ですか?」



 真子は一瞬うつむいてから、苦笑いで答える。



「ないっスね。先輩もどうせないっスよね?」



「決めつけるな」



「いるんスか? 彼氏」



「……いない」



「ですよねー! じゃあ、一緒にパーティーしましょうよ!」



「断る。せっかくの休暇だ。仕事のパートナーと一緒に過ごすなんて、休んだ気がしない」



「ガーン! ヒドイっス、先輩……」



 そんな漫才のようなやりとりを見て、澪が少し笑って言った。



「もしよければ、わたしの家で開くクリスマスパーティーにおふたりを招待したいのですが……もちろん、これは仕事ではなく、プライベートで」



 その瞬間、ふたりはきれいにハモった。



「「行きます!!」」



「……さっきと言ってること違くないっスか?」



「プライベートだから問題ない」



「私も一緒に行くんですけど」



「二人きりじゃなければOKだ」



「地味に傷つくっス」



 そんな風に、ふたりはようやく“警護じゃない澪との時間”に踏み出そうとしていた。



 今年一年、色々な騒動を乗り越えてきた三人。  年末くらい、少しだけ“普通の時間”を過ごしても……きっと、いいだろう。



第12章:年末進行と、ちょっとだけ特別な夜



12-2:澪のお屋敷へ、いざプライベートモード



 クリスマスイブ当日。



 真子と倉子は、澪からもらった丁寧な招待状と地図を手に、都内でも屈指の高級住宅街に降り立った。



「うわあ……ここ、ぜったい庶民が歩いちゃいけない系のエリアっスよ……」



「気圧に差がある気がするわね。貴族の空気ってやつかしら」



 ふたりが立ち止まったのは、黒塀に囲まれた白亜の邸宅。  門は自動開閉式で、インターホンを押す前に澪が玄関先に現れた。



「ようこそ、おいでくださいました」



 普段と変わらぬ制服ではなく、シンプルな赤のカーディガンに白のロングスカート姿。  それだけでふたりは一瞬固まる。



「澪さん……それ、すごく似合ってます……」



「お嬢様オーラ、仕事モードのときより強くないっスか?」



 澪は微笑んでふたりを迎え入れた。



 玄関にはクリスマスリースが飾られ、香ばしい香りが廊下を漂っていた。



「少し早いですが、お夕飯を用意しています。お口に合うといいのですが……」



「ま、まさか……澪さんの手料理!?」



「はい。母が出かけていて、今日は屋敷にわたししかおりませんので」



「料理できる系お嬢様……反則っス」



 ダイニングに通されると、テーブルにはオードブル、シチュー、ミニサラダ、バゲット、そして特製のチキンプレートが並んでいた。



「い、いただきますっス!」



 真子が感動の声をあげながらもぐもぐと頬張る。



「美味しい……」



 倉子も静かにフォークを動かしながら、ほんのわずか口角を上げた。



「食べている姿が……ふたりとも、安心します」



 澪の微笑みに、ダイニングはいつになく柔らかい空気に包まれていた。







 食後、リビングルームに移動して、三人は紅茶を囲みながら過ごしていた。



 真子がソファにごろりと寝転ぶ。



「完全にくつろいでるじゃない……」



「いや~、だって澪さん家、快適すぎて……」



 その横で倉子は姿勢正しく座っていたが、ふと澪から出された手作りのクッキーにほころぶ。



「これ、……本当に澪さんの手作り?」



「はい、朝から少しだけ頑張りました」



「ふたりが来てくれるのが、楽しみで……」



 その一言に、倉子も真子も一瞬言葉をなくす。



 仕事でもなく、任務でもない。  澪の、素の気持ちがそこにあると分かるから。



「こちらこそ、呼んでくれてありがとうございます、澪さん」



「っス!」



 それぞれにカップを掲げる。



「「メリークリスマス!」」



 お嬢様とSP。そんな関係性から少しだけ外れた、プライベートの夜が、今静かに始まった。



12-3:クリスマスパーティー開始!



 食後のひととき、リビングルームの中央には、澪が飾り付けた中型のクリスマスツリーが静かに輝いていた。  金と銀のオーナメントに、温かなオレンジ色のLEDライトが優しく灯る。



「澪さんが飾ったんスか?」



「はい。飾りつけも好きなんです。ひとつひとつ選ぶのが楽しくて……」



 ふたりはツリーの前で見上げる。



「この星の飾り、手作りっスか?」



「ええ、紙粘土で作って、スプレーで色をつけて……」



「……女子力高すぎて、私もう何も言えないわ」



 その後、ふたりは澪の勧めで、くじ引き形式のミニプレゼント交換を始めることになった。



「この袋に、それぞれ小さな贈り物を入れておきました。中身は当たってからのお楽しみです」



 真子が一番手で引き当てたのは、ふかふかの猫耳ヘアバンド。



「かわっ……! なにこれ! かわいすぎっス!」



「真子さんに似合いそうだなと思って、選びました」



 照れる真子と、微笑む澪。



 続いて倉子が引き当てたのは、上品な紅茶缶と、猫のモチーフがついたティースプーンのセット。



「……私が好きなもの、よく分かってるわね」



「倉子さんには、落ち着いた夜が似合う気がしました」



 ふと、倉子はスプーンを見つめながら、そっと微笑んだ。



「ありがとう。大切に使うわ」



 そして最後に澪が引いたのは、真子が用意した“超初心者向けSwitchリズムゲーム”。



「……これは?」



「ゲームってやつっス! せっかくですから、みんなで遊びましょうよ!」



 澪は驚きつつ、箱をじっと見つめたあと、ふっと笑った。



「初めてです。こういうゲーム……でも、楽しそうですね」







 その後、テレビに接続されたゲーム機の前で、三人は見事に盛り上がっていた。



「真子、これ本当に初心者用!?」



「先輩、ボタン押すタイミングが遅すぎッス!」



「ぐっ……反応速度には自信があったのに……!」



 横でコントローラーを持った澪は、予想以上に飲み込みが早く、ミスも少ない。



「楽しいです……音と動きが、合うのが気持ちいいですね」



「ははっ、まさか澪さんがいちばんセンスあるとは……」



 あっという間に時間が過ぎ、時計の針は夜の九時を回っていた。



 気づけば、暖炉代わりのヒーターの前で、三人はそれぞれお気に入りの飲み物を手にしていた。



「なんか、こういうの……初めてかもしれないです」



 澪の声に、ふたりが顔を向ける。



「今まで、クリスマスって“イベント”でしかなくて……でも、今日はちゃんと“誰かと過ごす日”って感じがします」



 静かに語る澪の横顔に、真子がそっと声を重ねる。



「澪さん、こういう夜をまた来年も、一緒に過ごせるといいっスね」



「ええ。来年も、再来年も……ずっと」



 倉子が頷き、静かにカップを掲げる。



「改めて、メリークリスマス」



 ツリーの光が三人の影を優しく包んでいた。



 仕事じゃない時間。  任務じゃない会話。



 それは、ほんのひとときの贅沢だった。



12-4:夜は静かに更けて



 気づけば、夜も深まっていた。窓の外では冬の星空が澄みきって広がり、庭のイルミネーションが優しく瞬いている。



 暖かな室内で、三人はソファに腰掛けていた。



 紅茶の香りが残るカップと、少し食べ残されたクッキーの皿。  ストーブの前に丸くなっている真子は、すでにまどろみ始めていた。



「……楽しかったですね」



 澪がぽつりと呟く。



「ええ」



 倉子も、静かにうなずいた。



「なんか……年末って感じっスね」



 真子が毛布を被りながら、ほわんとした声で答える。



 ふと、澪が遠くを見ながら、そっと言葉を続けた。



「正直、わたし……ずっと、こういう時間を持つことなんて、ないんじゃないかって思ってました」



 その言葉に、倉子が静かに目を向けた。



「父の仕事の関係で、警備がついて、外にも自由に出られなくて。特別な立場であることを求められて、普通の友達もできなくて……」



「でも、今は違うんですね」



 倉子の言葉に、澪はゆっくりと笑った。



「はい。おふたりがそばにいてくれたから、安心できるようになったんです」



 真子が、目をこすりながらつぶやく。



「先輩、澪さんに、信頼されてますよ」



「……分かってるわ」



 倉子の口元に、ふっと柔らかな笑みが浮かんだ。



「来年も、きっといろいろあるけど。なんだか乗り越えられそうな気がします」



「私もです。だから、どうか来年も……よろしくお願いします」



「もちろんっスよ」



 三人はゆっくりとカップを掲げる。静かな“かんぱい”の音が、夜に響いた。



 やがて、真子が眠ってしまい、澪も背中をソファに預けて目を閉じる。



 倉子は立ち上がり、そっと毛布をふたりにかけた。



「……おやすみ」



 誰にともなくそう呟き、暖かい部屋の灯りを落とす。



 こうして、三人だけのささやかなクリスマスの夜は、静かに、そして温かく、更けていった。







エピローグ:巫女SP爆誕



 楽しい夜も終わり、帰り支度をはじめようとしたそのとき、倉子と真子のスマホが同時に震えた。



 『大日神社 年末年始特別警備指令』



 メッセージには、無慈悲なスケジュールが記されていた。



 ――31日 8:00 現地集合。9:00 依頼主とのミーティング。18:00より警備業務開始、翌18:00終了。  ――1月2日、8:00~20:00。  ――1月3日、8:00~20:00。  ――業務にあたり巫女装束を着用のこと。衣装は現地貸与。



「……いきなり24時間勤務……その後も2日連続12時間……」



 真子が絶望的な顔で画面を見つめる。



「しかも今回は……巫女さんらしいっすね」



「巫女SP……」



「要人警護じゃないから、“警備巫女”っス」



「どっちでもいいわよ!」



 倉子が頭を抱えた。



「うちの社長って……もしかして、コスプレ趣味でもあるの?」



「……しるかっ!」



 こうして、束の間の休息は終わりを告げた。  年越しは、神社で巫女装束の警備任務——。



 来年もまた、騒がしい一年になりそうだった。







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