SP24歳 女子高生始めました。

鍛高譚

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第11話 拙者、転校してきたでござる!

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11-1:転校生、爆誕



 十一月、秋も深まり、木々が紅く染まり始めた久遠女子高。澪のクラスでは、文化祭が終わり、ようやく日常が戻りつつある。



 そんな中、朝のHRで担任が発した一言が、教室を一瞬にしてざわつかせた。



「えー、本日から新しい転校生が来ます。では、入ってきてください」



 扉が開いた瞬間、全員の目が釘付けになった。



 金髪に透けるような白い肌、背筋の通った長身の美少女が一歩、二歩と教室に入ってくる。



 だが――その口から発せられた言葉が、すべてをひっくり返した。



「拙者の名前は、エリーナちゃんでおます!」



 クラスが固まる。



「父の仕事のせいで留学しやがることになったでござる!」



(ど、どういう自己紹介!?)



「に本語難しねん。少しおかしいかですと。許してくんなまし!」



 全員の心の中でツッコミが爆発した。



『少しじゃない!!』



 真子(……ツッコミが……追いつかないッス)



 倉子(……会話すると、こっちの言語中枢まで変になりそう)



 「席は……澪さんの隣です」



 担任の言葉に、エリーナはぱあっと花が咲いたような笑顔を浮かべ、まっすぐ澪の隣の席へと向かった。



「よろしくおねがいしもす、澪殿!」



 「よ、よろしく……お願いします……」



 どこか危なっかしい日本語とは裏腹に、澪への距離感は自然で、やたらと懐いている様子だった。







 昼休み。



 クラスメイトたちは、エリーナの言語バグに大いに困惑しながらも、見た目の可愛さと明るい性格に惹かれ、話しかける生徒が後を絶たなかった。



 「エリーナちゃんって、日本語どこで覚えたの?」



 「母上が京女でしてな。あとはアニメと忍者映画で独学したで候!」



 「母上!? 京女!? 忍者映画!? 情報量!!」



 その横で、澪はそっと溜息をついていた。



「……エリーナさん、その話し方、みんなちょっと困ってますよ」



「えっ!? そうでござる!? でも……拙者、これが正しき日ノ本語だと、教わり申した……」



「どこで!?」



 困り顔の澪だったが、どこか放っておけない感情が芽生えていた。







 放課後、廊下。



 SPのふたりは校舎裏で情報交換していた。



「先輩、あの子……マジでなんなんスか?」



「分からないわ。けど、歩き方が異様に無音。しかも視線誘導と死角回避が自然にできてる。明らかに訓練されてる」



「やっぱ、ただの天然キャラじゃないッスよね……」



 ふたりの警戒心は強まるばかりだった。



 だがそのころ、澪はこっそりエリーナを呼び出していた。



「エリーナさん、少しだけ、正しい日本語、勉強してみませんか?」



「おおっ……! 澪殿、直々の指南でござるか!? かたじけない!!」



「“ありがとう”でいいんですよ、そこは……」



 こうして、澪による日本語再教育の日々が始まるのだった――。

11-2:澪先生の日本語講座、はじまる



 放課後の図書室の隅。澪とエリーナは、ふたりきりで机を並べて座っていた。



 澪の手元には、ひらがなの練習帳と中学生向けの会話集、そして自作の単語カード。  エリーナの手元には、ペンとノートと――やたらと高性能そうな録音機器が置かれていた。



「えっと、まずは自己紹介からもう一度……。『私はエリーナです』って、言ってみましょうか」



「拙者は……あ、いや、私はエリーナでありんす……ござる!」



 「……うーん、惜しいです」



 澪は苦笑しながら、ゆっくりノートにカタカナでふりがなをつけていく。



「“私はエリーナです”。『でありんす』も『ござる』も使わなくて大丈夫です」



「ほほう! “でありんす”は不要! つまり江戸言葉は排除! 了解でござっ……あっ、また言った!」



 エリーナは頭を抱えて転がる。



「大丈夫ですよ、少しずつ直していけばいいんです」



 澪の落ち着いた声に、エリーナは目を細めた。



「澪先生、やさしい。拙者、感激……もとい、感謝です」



「それでいいと思います」



 図書室の片隅に、ゆっくりとした言葉のやりとりが静かに流れる。







 翌日。



 澪のクラスでは、授業中にグループディスカッションの時間が設けられていた。



「では各班で、意見を出し合ってまとめてください」



 エリーナは、慎重に手を挙げた。



「私は、皆の意見を集める、役目を、やって……よろしいですか?」



 一瞬クラスが静まり、だが、すぐに周囲から「おおっ」と小さな歓声が漏れた。



「普通にしゃべった!?」「エリーナちゃん、すごい進歩だよ!」



 エリーナは顔を赤くしながら、照れくさそうにうなずいた。



「これは、澪先生の特訓の……おかげです」



 そのとき澪は、ノートに何かを写しながら小さく微笑んでいた。







 昼休み。屋上にて。



 SPふたりは、少し離れた場所からエリーナを観察していた。



「……先輩。なんか、マジで成長してません?」



「ええ。口調はまだ不安定だけど……あの努力量は、本物ね」



「語彙が増えるたびに、ボケ成分が薄れていくのは少し寂しいっスけど……」



「警戒対象から、観察対象に変えておくわ」



 真子がふっと笑った。



「澪さんの教育力、恐るべしっスね」







 放課後。



「……えっと、『おなかがすきました』」



「ばっちりです」



「『フランクフルトが、食べたい、であります』」



「“です”だけでいいですよ」



「了解いたし申した!」



「そこだけ時代劇に戻らないで……」



 ――それでも、言葉は確かに、通じ始めていた。





11-3:潜む本性、警戒のまなざし



 エリーナの日本語は、驚くほどのスピードで上達していた。



 初日は「ご趣味は護衛でござる!」と高らかに宣言していた彼女が、今では「趣味はボディガードの動き研究です」と真顔で語るまでに成長していた。



 クラス内でも徐々に違和感が薄れ、エリーナの“ちょっと変わった留学生”というポジションは固定されつつあった。



 しかし――。



「先輩、今日のエリーナ……“壁抜け”してませんでした?」



 放課後、体育倉庫裏。真子がぼそりと呟いた。



「視認してないけど、姿が消えたタイミングと場所が不自然だったわね」



 倉子は、教員通用口の監視カメラ記録を取り出しながら眉をひそめる。



 「しかもこの動き……死角を正確に把握して移動してる」



「言葉は上達してても、体の動きは“プロ”そのものって感じッスね」



 ふたりの警戒レベルは、再び上昇した。







 数日後。



 澪のロッカーに、見慣れないタグのついた箱が入っていた。開けてみると、外国製の高性能な録音用デバイス。



「……これは?」



 澪は不思議そうに首をかしげた。



 「そんなの、私……もらってませんけど……」



 そのやり取りを聞いた倉子が、すぐに社へ報告を入れる。



「氷室澪嬢のロッカーから、未登録の通信機材を発見。調査を要請」



 社からの返答は数時間後に届いた。



『該当する通信機材について、持ち込み許可を出した記録はなし。注意人物の可能性あり。現場対応を委任する』



 つまり、判断は現場に任された。







 翌日。



 エリーナは、普段通りに登校してきた。



「おはようございます、澪さん。今日も、空気が乾いていますね。これは、静電気注意報、です」



 「……おはようございます。えっと、天気は“乾燥してる”で大丈夫ですよ」



 「はっ……また誤用!」



 澪に見せる笑顔は変わらず自然だった。だが、SPふたりはその笑顔の奥に、何かを探っていた。







 昼休み。図書室。



 倉子は、社から送られてきたプロファイル写真と、スマホに保存したエリーナの横顔をじっと見比べていた。



「先輩、それ……」



「数年前、ロシア某所のSP養成プログラムにいたとされる訓練生。顔の構造、ほぼ一致」



「やっぱ……ただの“天然ハーフ留学生”じゃなかったか……」



 真子がぼそりと呟く。



「でも、なんでそんな彼女が澪さんのクラスに? 偶然ってあり得ます?」



「ないわ。――何かの“テスト”よ」



 倉子の声に、少しだけ怒りがにじんでいた。



 澪の周囲には、常に“力”が働いている。政治的、経済的、そして軍事的に。  今回もまた、その余波なのだろうか。







 その夜。



 社から追加の資料が届いた。



『対象エリーナ・カロリーヌは、他国連携プログラムの訓練枠。今回の転校は、上層部判断による“実地評価任務”である可能性が高い。正式な任務ではなく、非公表扱い』



「つまり……黙認されてるわけですか」



 倉子は拳を握りしめた。



「“澪の警護能力を試すための実地テスト”。冗談じゃない……!」



 真子が驚いて目を見開く。



「じゃあ、エリーナさんは最初から――澪さんの周囲に“仕掛け”として来たってこと……?」



「でも、澪さんは彼女に心を開き始めてる」



「……どうします?」



 倉子は黙って立ち上がった。



「――私たちは、どんな状況でも澪を護る。それが答えよ」



11-4:友情と真実、そして――



 翌朝、倉子は職員室で担任に話しかけた。



「エリーナさんの転入、正式な書類は揃っていましたか?」



「ええ、教育委員会の通達もありますし、全く問題ありませんよ?」



 つまり、“表向き”は完全に合法。だが――。







 昼休み。屋上。



 倉子と真子はエリーナを呼び出していた。



「……エリーナさん。ひとつ、確認させてください」



「はい? なんでありんすか?」



「日本に来た理由。澪さんと同じクラスに配属された“本当の理由”を」



 エリーナは一瞬だけ表情を曇らせた。



 だが、すぐにふわりと笑った。



「やはり……バレてしまいました、か」



 その瞬間、彼女の目つきが一変する。  やさしく、柔らかい瞳の奥に、鋭く冷静な光が宿っていた。



「私は、某国セキュリティ訓練機関の特別枠生です。日本の警護技術と、貴国のSP育成の現場を、体験するための試験として――ここに派遣されました」



 真子が息をのむ。



「やっぱり……スパイ的な……」



「スパイではありません。任務は“観察”と“評価”だけです」



 エリーナは深く頭を下げた。



「澪さんの警護体制が、どれほど優れているかを、この目で確かめ、学ぶこと。それが私の使命です」



 倉子は無言で彼女を見つめ続けた。



 その瞳は、敵意ではなく、敬意と誠実さを宿していた。



「……で、結論は?」



「はい。結論として――」



 エリーナは真っすぐに言った。



「氷室澪嬢には、すでに世界最高クラスのSPがふたり、常にそばにおります。これ以上の護りは、必要ありません」



 その言葉に、ふたりは思わず吹き出した。



「先輩、褒められましたね」



「ええ……少し、悪くない気分ね」







 その日の放課後。



「澪さん。わたし、ほんとうは訓練のために来ていたのです。でも、あなたと過ごす毎日が……とても、楽しかったです」



 澪は静かにうなずいた。



「エリーナさんが嘘をついていたわけじゃないって、分かってました」



「……え?」



「言葉じゃなくて、行動を見れば、信じられる人だってわかりますから」



 エリーナは小さく笑って、深々と頭を下げた。



「これも、全て澪先生のおかげ、おます」



 「……また、おかしくなった。道は……遠いね」



 でも、澪の声にはもう、笑いが混じっていた。









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