SP24歳 女子高生始めました。

鍛高譚

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第39話 真子と弓子

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:今日だけは、ただの高校生だったはずなのに



「ふふふ……これで今月の補給は完璧っす……!」



真田真子は、自分でも分かるほどテンションが上がっていた。秋葉原のようなオタクの聖地――いや、正確にはその縮小版のような都内のアニメグッズ通りを巡り、手に入れた戦利品をリュックに詰めてほくほく顔。



ガチャガチャの限定缶バッジ、予約していたBlu-rayの特典フィギュア、そして新刊ラノベ。リュックはすでにパンパンだが、満足感のほうが勝っている。



「よし、帰ってから開封の儀っす!」



軽やかな足取りで、駅に向かって交差点の信号待ちをしていたときだった。



「……えっ、真田さん?」



聞き覚えのある声に振り返ると、そこには制服ではなく私服姿の大橋弓子――クラスの委員長が立っていた。



「おぉ、委員長っすか!奇遇っすね!」



真子は笑顔で手を振る。弓子は驚いた表情を浮かべたまま、視線をリュックに落とす。



「えっ、すごい量……それ、全部……?」



「はいっす!アニメグッズの補給日なんすよ。土曜はオフって決めてるんで!」



「意外……いや、ある意味、想像通りかも……」



そんな他愛のない立ち話が始まって間もなく。



「――ッ!?」



バンッ!!



凄まじい衝突音が街に響き、二人の会話が凍りついた。



交差点の中央で、軽自動車とバイクが激しくぶつかり合っていた。



「……っ、事故っす!」



弓子は足をすくませ、動けずにいた。真子は一瞬で状況を把握すると、冷静な声で言った。



「委員長、ここにいてっす。警察と救急車、お願いできるっすか?」



「え、ええっ、わ、わかった!」



真子はそのまま走り出した。グッズが詰まったリュックが揺れるが、今はそれどころではない。



現場には倒れたバイクの男性、助手席エアバッグが作動した軽自動車。ガラス片が散らばり、通行人の悲鳴が飛び交う中、真子は無言で動いた。



「すみません、意識ありますか?」



車のドアを開け、運転手の女性の意識を確認。返事がある。出血も軽度だが、足を打って動けない。



「今、安全なところに運ぶっす。無理はしないで」



続いてバイクの男性。足を押さえ苦しんでいる。



「骨折してる可能性あるっすね。すぐ救急隊が来るっす」



その時、ようやく救急車のサイレンが近づいてきた。



「ここっす!負傷者2名、意識あり。1人は下肢に損傷、もう1人は軽度の打撲っす!」



救急隊員に要点だけを伝え、状況説明と応急処置の引き継ぎを行う。



そこに警察も到着。



「事故の瞬間、見ましたか?」



「はいっす。自分、歩行者信号待ちで、向こうの右折車と直進バイクがぶつかったのを確認したっす」



「助かります、あとで証言お願いします」



一時的に交通整理までこなしながら、真子は最後まで冷静に動き続けた。



ようやくすべての対応が済んだ頃、真子はようやく深いため息をついた。



「……オフ、とは……?」



そんな独り言をこぼしつつ、交差点の向こうで心配そうに待っていた弓子の元へ戻っていった。



:ヒーローは、信号待ちから



秋晴れの空に蝉の声がまだ少し残る、九月上旬の土曜日。信号が青に変わるのを待つ真田真子と大橋弓子の前方で、唐突な破裂音が響いた。



「っ!?」



キィィィィィッ――。



鋭いブレーキ音とともに、軽自動車が交差点内で横滑りし、対向から来たバイクに衝突。そのまま二台とも交差点の中央付近に停止した。



「うそ……今、事故……?」



弓子の顔から血の気が引いていく。



「委員長、ここにいるっす。警察と救急車だけ、お願いできるっすか?」



弓子が呆然とする中、真子の声がはっきり届いた。その目は、まるで授業中のふざけたものではなく、研ぎ澄まされた鋭さを帯びていた。



「は、はい!わかりました!」



弓子が慌ててスマホを取り出し通報を始めたのを確認すると、真子はリュックを地面に放り出し、すぐさま事故現場へ駆け込んだ。



――まずは軽自動車。



助手席側から回り込んでドアを開けると、中には30代くらいの女性がいた。シートベルトで拘束されてはいるが、顔をしかめていた。



「大丈夫っすか?どこか痛むところあるっすか?」



「え、えっと……多分、大丈夫……」



「興奮してて気付いてないだけの可能性もあるっす。ゆっくりでいいので、降りられそうなら安全なとこまでお願いするっす」



女性がうなずき、真子の肩を借りて歩道へ移動。



――次はバイク。



こちらは若い男性。倒れたバイクの下敷きになっていたが、既に自力で上体を起こしていた。



「大丈夫っすか?痛いとこ、動かしちゃダメっすよ」



「足が……折れてるかも……」



真子は慎重に確認しながら、彼を抱えるようにして歩道に移動させた。見ると、右足が変な方向に曲がっている。



「しばらく動かないで。すぐに救急車来るっす」



その頃には周囲に人だかりができ始めていた。



「誰か、バイクが二次災害にならないように押さえててほしいっす!エンジンは切れてるけど、油断しないように!」



誰かがうなずき、バイクを安定した場所へ押していった。



やがて、救急車のサイレンが聞こえ、続いてパトカーの音も近づいてくる。



救急隊員が到着すると、真子はすぐに状況説明に入った。



「こちらの女性、意識明瞭、外傷なし。でも一応、検査お願いするっす。こっちは男性、バイクの運転手。右足の骨折の可能性あり。意識ははっきりしてるっす」



救急隊がそれぞれを引き継ぎ、担架を用意し始める。



「本当にありがとう。あなた、どこの……?」



救急隊員の一人が訊ねるが、真子は首を振って名乗らなかった。



「私は、たまたま通りがかっただけの一般人っす」



続いて警察が現場に入る。



「通報者はどなたですか?」



弓子が挙手する。



「それと、現場で応急処置に当たった方は?」



真子が軽く手を挙げ、事情聴取に協力する。周囲の交通整理は警察が引き継ぎ、現場は次第に落ち着きを取り戻していった。



やがて調書も終わり、ようやく、真子は弓子のもとに戻ってきた。



「委員長、連絡ありがとっす。助かったっす」



「いえ、私なんて……あの、何もできなくて……」



「いやいや、パニックにならずに冷静に通報してくれたのは、かなりデカいっす」



弓子は、真子の姿を見つめながら小さく微笑んだ。



「……また、話してみたいなって思いました」



「え?」



「真田さんって、普段はふざけてるけど、今日見たあなたは……すごく格好よかったです」



「へっ!? そ、そんな照れるっす!」



「でも、本当に。今日はありがとうございました」



その一言に、真子は少し照れながらも頭をかいた。



「ま、まぁ……今日一日、潰れちゃったっすね」



「いえ、私にとっては、有意義な時間でした」



「……へっ? 変なとこに感心するっすね」



二人は少し笑いあいながら、事故処理の余韻とともに、日常へとゆっくり戻っていった。







:プロの顔と、高校生の顔



歩道の安全地帯に負傷者を運んだ真子は、急ぎ足でバイクの方に向かった。



バイクは転倒しており、運転者はうずくまっている。ヘルメットは外れており、腕を抱えている様子から、骨折の可能性がある。



「お兄さん、大丈夫っすか!? 意識あるっすね? しっかりしてほしいっす」



顔を覗き込んだ真子の呼びかけに、うめくように返事があった。



「いてぇ……腕が……」



「了解っす、動かすのは危険だから、そのままに。救急がすぐ来るっす。まず、止血だけするっす」



そう言いながら、真子はリュックから小型のファーストエイドキットを取り出す。



「アニメグッズの間に、こんなもんも入れてるっすよ」



冗談を混ぜながらも、動きは的確で冷静。怪我人の状態を見て、応急処置を施す。



やがて、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。



「よし、来たっす」



真子は歩道に戻って、サイレンに手を振って救急隊を誘導する。



「こっちっす! 車の運転手が軽傷、バイクの方は右腕骨折の疑いありっす!」



到着した救急隊員に、真子は簡潔に状況を伝える。手際よく救急隊が対応し始めると、真子は少し息を吐いた。



そのまま、制服姿の警察官も現場に到着する。



「こちらの方が、通報者ですね?」



真子は軽く会釈して、事情聴取に応じる。



「はい、目撃者です。私はここの交差点で信号待ちしてたっす。事故は車とバイクの接触、車が赤信号を無視して進入したように見えたっす」



警察は真子の名前や連絡先、当時の位置などを丁寧に確認する。



その間、周囲の野次馬はスマホを掲げて動画を撮っている様子も見えたが、真子は一瞥もせずに対応を続ける。



事情聴取が終わった頃には、すでに現場には立ち入り規制のテープが貼られ、交通は警官により誘導されていた。



真子は、ようやく弓子のもとへ戻る。



「委員長、待たせてしまったっす」



弓子は、真子の姿を見るなり、ほっとしたように息を吐いた。



「……すごいね、真田さん。本当に冷静だった」



「いやー、ちょっと訓練受けてるだけっすよ。委員長が連絡してくれて助かったっす」



弓子は少し俯きながら言う。



「私、何もできなかった……すぐ動けなかったし、声も出なかったし」



「最初は誰でもそうっす。でも委員長は、頼んだ通りにすぐ通報してくれた。大きな助けだったっす」



その言葉に、弓子は少しだけ笑顔を見せた。



「また……話してみたいなって、思いました。今日、偶然だったけど」



真子はポリポリと頭をかきながら苦笑する。



「結局、1日つぶれちゃったっすね」



「いえ、私にとっては、すごく有意義な時間でした」



「……へっ? 変なとこに感心するっすね」



二人は、再び交差点の信号を渡る。



一瞬の出来事が、少しだけ二人の距離を近づけていた。



その日は、ただの休みの日になるはずだった。



けれど、真子にとっても弓子にとっても、忘れられない土曜日になったのだった。







: ほんとのオフはいつ来るの



 救急車が去った交差点に、ようやく静けさが戻った。  パトカーがもう一台来て、交通規制を本格的に始めたこともあり、現場に残るのは警官と事故処理のスタッフだけ。



 真子はふぅっと小さく息を吐いて、やっと弓子のもとに戻ってきた。



「お待たせっす、委員長。警察への説明、思ったより時間かかったっすね」



「ううん、全然。私、何もしてないし……それに、真田さんの姿、かっこよかった」



 弓子は心からの拍手を送るように微笑んだ。  けれど、その目は少し潤んでいるようにも見える。



「いやいや、誰かがやらないと、ってだけっすよ。委員長が冷静に通報してくれたから助かったっす」



「でも……あの場で私は、足がすくんで何もできなかったから……」



「そりゃ、普通っすよ。むしろ、すぐ通報に切り替えたの、すごいっす。完璧っす」



 真子はそう言って、弓子の肩をぽんと叩いた。



 午後の陽射しはもう傾き、空気が少しだけ冷たくなってきていた。  事故のあった交差点の周囲には、いつのまにか人もまばらになっている。



「じゃ、そろそろ帰るっすか? 委員長、電車?」



「うん、駅はあっち……真田さんは?」



「うちはこのまま商店街通って、バスっす。あ、途中まで一緒に歩くっすか?」



「うん」



 並んで歩き出した二人。  会話が途切れがちだったのは、どちらも今日の出来事を反芻していたからだ。



 しばらくして、弓子がぽつりと呟いた。



「……ねぇ、真田さん」



「ん?」



「もしよかったら、また話してみたいなって思ってるんだけど、迷惑じゃない?」



 一瞬、真子の足が止まった。  けれど、すぐににっこりと笑って返す。



「もちろんっすよ。友達になるのに、許可は要らないっす」



「そ、そうなんだ……ふふっ、ありがとう」



 弓子の頬が少し赤く染まる。



 ふと、信号待ちで立ち止まったとき、弓子が小さく呟いた。



「……私、一つだけ不安なんです」



「何っすか?」



「来年卒業したら……もう、こうやって話すこともなくなっちゃうのかなって」



 真子はちょっと考えてから、にかっと笑った。



「学生は卒業して終わるかもしれないっすけど、友達には卒業ないっす。永遠に友達っすよ」



「……うん。ありがとう」



***



 その夜、真子は自宅のベッドに寝転びながら、スマホで倉子に電話をかけた。



「やっほー、先輩。今日も1日、災難だったっす」



『聞いたわよ。事故に遭遇したんだって?』



「うん、事故ってもらったっす。おかげでオフがパァっすよ」



『そりゃ災難だったわね』



「全くっす。事故は本人も周りも迷惑だから、気をつけてほしいっすよ」



『だな! ……で、先輩は今日はどんなオフだったんすか?』



『私? ……私も1日潰れたわ』



「何かあったっすか?」



『寝て終わった。今日1日、寝て潰した』



「それ、いつものことじゃないすか(笑)」



『うるさい』



「明日はお互い、有意義に過ごせるといいっすね」



『そうね。……でも、真子』



「なんすか?」



『今日、いいことあったんじゃない?』



「……うん、そうかもしれないっす」



 真子は窓の外を見上げた。  星がぽつぽつ瞬いていた。



「親友が一人、増えたかもっす」



『ふふっ、よかったじゃない』



 明日は、きっと晴れる。  ほんとのオフはまだ先かもしれないけど、今日のこの一日が、悪くなかったと思えたなら、それでいい。



「おやすみっす、先輩」



『おやすみ』





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