婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第一話 裏切りの宣告

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第一話 裏切りの宣告

 きらびやかなシャンデリアの光が、大広間を昼のように照らしていた。
 軽やかな音楽、重なり合う笑い声。舞踏会は、まさに華やかさの極みだった。

 貴族たちの豪奢な衣装が花のように咲き誇る中、アルヴィス侯爵令嬢ヴェルナもまた、その輪の中にいた。
 深紅のドレスに身を包み、背筋を伸ばして立つその姿は、気品と美しさを兼ね備え、多くの視線を集めている。

(今夜は……特別な夜になるはずだった)

 ヴェルナは、わずかな期待を胸に秘めていた。
 婚約者であるセザール・レイフォード侯爵家嫡男が、この舞踏会で自分を正式に紹介すると聞いていたからだ。

 ――だが、その期待は、あまりにも無残な形で裏切られる。


---

「皆様、少しお時間をいただけますか」

 音楽が止み、セザールが会場中央に立つ。
 端正な顔に浮かぶ自信満々の笑み。その姿に、ヴェルナは自然と視線を向けた。

(始まるわ……)

「本日は、この場を借りて、大切な発表をさせていただきます」

 会場中の注目が集まる。
 ヴェルナは胸を張り、誇らしい気持ちで彼を見つめていた。

 ――次の瞬間、その言葉が彼女の世界を壊した。

「私はこの度、リリアン・ハーヴィー嬢と婚約することを決めました」

 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
 ざわり、と会場が揺れる。

「……え?」

 視線が、一斉にヴェルナへ突き刺さる。
 息が詰まり、指先が冷たくなる。

「セザール……様?」

 かすれた声で呼んだが、彼は一度もこちらを見なかった。
 セザールは、隣に立つ少女――リリアンの手を取り、優しく微笑んでいる。


---

 リリアン・ハーヴィーは、まるで勝者のように微笑んでいた。
 可憐で若々しい美貌。華やかなドレスが、その存在を強調している。

(……嘘でしょう)

 その笑みが、ヴェルナには嘲笑にしか見えなかった。

「まあ……」 「アルヴィス侯爵令嬢、婚約破棄ですって」 「でも、リリアン嬢の方が可愛らしいわよね」

 ひそひそと囁かれる声が、容赦なく耳に入ってくる。
 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。

 怒り。屈辱。悲しみ。
 それでもヴェルナは、顔に出さなかった。

(……私は侯爵令嬢。取り乱すわけにはいかない)

 深く息を吸い、ゆっくりと微笑みを浮かべる。


---

「ヴェルナ様……大丈夫ですか?」

 側近のクラリッサが、慌てて駆け寄ってきた。

「ええ。少し疲れただけよ」  静かな声でそう答え、ヴェルナは踵を返した。

 背中に突き刺さる視線を感じながら、彼女は会場を後にする。
 その歩みは、最後まで乱れなかった。

 ――けれど、胸の内では感情が激しく渦巻いていた。

(忘れない……この屈辱)


---

 屋敷へ戻るなり、ヴェルナは自室へ駆け込んだ。
 扉を閉めた瞬間、張り詰めていたものが一気に崩れる。

「……っ」

 ベッドに顔を埋め、声を殺して泣いた。
 信じていた相手に、皆の前で切り捨てられた現実が、心を深く抉る。

 ――だが、涙はいずれ止まった。

 鏡の前に立ち、赤くなった目を見つめる。
 その奥に、別の感情が芽生えていることに気づいた。

「……セザール。リリアン」

 低く、静かな声。

「あなたたちが築いたもの、すべて壊してあげる」

 ヴェルナは涙を拭い、背筋を伸ばした。

「私はもう、泣いて耐えるだけの令嬢じゃないわ」

 鏡に映る自分の瞳は、冷たく、そして強かった。
 ――ここから、彼女の反撃が始まる。
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