16 / 60
第16話 決意と反撃の舞台
しおりを挟む
第16話 決意と反撃の舞台
エリオットから得た証言と記録は、ヴェルナが探し続けてきた“核心”そのものだった。
セザール家は物流網を巧みに操り、地方貴族へ利益を流すことで支持を取り付けている。
そして、その資金の一部は――リリアン家を通して巧妙に隠されていた。
(婚約も、借金も、すべては駒……)
机に広げられた書類を見つめながら、ヴェルナは静かに息を吐いた。
「……ようやく、準備が整ったわ」
怒りでも、衝動でもない。
冷静な確信が、胸の奥で静かに燃えていた。
---
翌日、ヴェルナは母・マティルダにすべてを打ち明けた。
「母様、これが私たちの集めた証拠です」
取引記録、物流図、エリオットの証言書。
一つひとつを指し示しながら、ヴェルナは説明を続けた。
「リリアン家の借金が、どのように政治的な取引に利用されてきたのか……ここに、はっきりと示されています」
マティルダは黙って書類に目を通し、やがて小さく息を呑んだ。
「……これは、想像以上ね」 「ここまで揃っていれば、セザール家も言い逃れはできないでしょう」
「でも――」 ヴェルナはわずかに表情を曇らせる。 「公表の仕方を誤れば、逆に潰されます。彼らは、それほど強大です」
その言葉に、マティルダは静かに頷いた。
「だからこそ、味方を選ぶ必要があるわ」 「貴族議会の中で、セザール家に批判的な人物……心当たりがあるでしょう?」
ヴェルナは、はっと顔を上げた。
「……ルシャール侯爵」
---
数日後。
ヴェルナは、ルシャール侯爵の邸宅を訪れていた。
一歩足を踏み入れた瞬間から、空気が張り詰めているのを感じる。
「初めまして、アルヴィス嬢」
穏やかな声とは裏腹に、鋭い眼差し。
ルシャール侯爵は、ただ者ではなかった。
「お会いできて光栄です、侯爵様」
応接室で向かい合い、紅茶が置かれる。
数秒の沈黙が、ひどく長く感じられた。
「さて……話を聞こう」 侯爵が静かに促す。
ヴェルナは、覚悟を決めた。
「侯爵様。私は、セザール家が裏で行っている政治的取引について、お伝えしたく参りました」
エリオットの証言。
物流を利用した支持の買収。
リリアン家を介した資金の隠蔽。
一つずつ、丁寧に、しかし迷いなく語る。
話し終えた後、侯爵は長く沈黙した。
「……これは、重大だ」
低く、重い声。
「公になれば、セザール家は確実に揺らぐ」 「だが同時に、激しく反発するだろう」
「承知しています」 ヴェルナは真っ直ぐに答えた。 「それでも、私は黙ってはいられません」
侯爵は、ふっと微笑んだ。
「勇気ある令嬢だ」 「いいだろう。この件、私が貴族議会で取り上げよう」
その一言に、胸の奥が熱くなる。
「ありがとうございます……!」
---
邸宅を後にする際、侯爵は最後に忠告した。
「敵は強大だ。決して、油断するな」 「だが――君は一人ではない」
その言葉を胸に刻み、ヴェルナは馬車へと乗り込んだ。
---
夜。
自室の灯りの下で、ヴェルナは一人、静かに目を閉じる。
(もう、後戻りはしない)
婚約破棄された令嬢ではない。
利用され、黙らされる存在でもない。
「私は……私の誇りのために戦う」
セザール家との戦いは、ここからが本番だ。
ヴェルナの瞳には、迷いのない光が宿っていた。
エリオットから得た証言と記録は、ヴェルナが探し続けてきた“核心”そのものだった。
セザール家は物流網を巧みに操り、地方貴族へ利益を流すことで支持を取り付けている。
そして、その資金の一部は――リリアン家を通して巧妙に隠されていた。
(婚約も、借金も、すべては駒……)
机に広げられた書類を見つめながら、ヴェルナは静かに息を吐いた。
「……ようやく、準備が整ったわ」
怒りでも、衝動でもない。
冷静な確信が、胸の奥で静かに燃えていた。
---
翌日、ヴェルナは母・マティルダにすべてを打ち明けた。
「母様、これが私たちの集めた証拠です」
取引記録、物流図、エリオットの証言書。
一つひとつを指し示しながら、ヴェルナは説明を続けた。
「リリアン家の借金が、どのように政治的な取引に利用されてきたのか……ここに、はっきりと示されています」
マティルダは黙って書類に目を通し、やがて小さく息を呑んだ。
「……これは、想像以上ね」 「ここまで揃っていれば、セザール家も言い逃れはできないでしょう」
「でも――」 ヴェルナはわずかに表情を曇らせる。 「公表の仕方を誤れば、逆に潰されます。彼らは、それほど強大です」
その言葉に、マティルダは静かに頷いた。
「だからこそ、味方を選ぶ必要があるわ」 「貴族議会の中で、セザール家に批判的な人物……心当たりがあるでしょう?」
ヴェルナは、はっと顔を上げた。
「……ルシャール侯爵」
---
数日後。
ヴェルナは、ルシャール侯爵の邸宅を訪れていた。
一歩足を踏み入れた瞬間から、空気が張り詰めているのを感じる。
「初めまして、アルヴィス嬢」
穏やかな声とは裏腹に、鋭い眼差し。
ルシャール侯爵は、ただ者ではなかった。
「お会いできて光栄です、侯爵様」
応接室で向かい合い、紅茶が置かれる。
数秒の沈黙が、ひどく長く感じられた。
「さて……話を聞こう」 侯爵が静かに促す。
ヴェルナは、覚悟を決めた。
「侯爵様。私は、セザール家が裏で行っている政治的取引について、お伝えしたく参りました」
エリオットの証言。
物流を利用した支持の買収。
リリアン家を介した資金の隠蔽。
一つずつ、丁寧に、しかし迷いなく語る。
話し終えた後、侯爵は長く沈黙した。
「……これは、重大だ」
低く、重い声。
「公になれば、セザール家は確実に揺らぐ」 「だが同時に、激しく反発するだろう」
「承知しています」 ヴェルナは真っ直ぐに答えた。 「それでも、私は黙ってはいられません」
侯爵は、ふっと微笑んだ。
「勇気ある令嬢だ」 「いいだろう。この件、私が貴族議会で取り上げよう」
その一言に、胸の奥が熱くなる。
「ありがとうございます……!」
---
邸宅を後にする際、侯爵は最後に忠告した。
「敵は強大だ。決して、油断するな」 「だが――君は一人ではない」
その言葉を胸に刻み、ヴェルナは馬車へと乗り込んだ。
---
夜。
自室の灯りの下で、ヴェルナは一人、静かに目を閉じる。
(もう、後戻りはしない)
婚約破棄された令嬢ではない。
利用され、黙らされる存在でもない。
「私は……私の誇りのために戦う」
セザール家との戦いは、ここからが本番だ。
ヴェルナの瞳には、迷いのない光が宿っていた。
0
あなたにおすすめの小説
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※短編です。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4800文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
あなたの絶望のカウントダウン
nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。
王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。
しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。
ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。
「本当にいいのですね?」
クラウディアは暗い目で王太子に告げる。
「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる