婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第十五話 闇の取引の核心

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第十五話 闇の取引の核心

 リリアン家を後にした馬車の中で、ヴェルナは静かに目を閉じた。

 ――彼女は、敵ではない。

 そう確信できただけでも、今日の訪問には意味があった。
だが同時に、胸の奥に重く残るものもある。

(感情だけでは、何も変えられない)

 リリアン嬢の不安そうな瞳。
家のために選ばされる未来。

 それを救うには、同情では足りない。
必要なのは――決定的な証拠だ。

「……彼女の言葉だけでは、足りないわね」  窓の外を流れる街並みを見つめ、ヴェルナは小さく呟いた。 「セザール家が、何を得て、何を企んでいるのか……それを示す“形”が必要だわ」

 反撃は、感情ではなく理で行う。
その覚悟を胸に、屋敷へと戻った。


---

「ヴェルナ様、お帰りなさいませ」

 出迎えたのは、すでに資料を抱えたアンドレだった。

「新しい報告がございます」  彼は地図を広げる。 「こちらをご覧ください。セザール家が関与している商会の取引先と、物流ルートです」

「……ずいぶん、広範囲ね」

 地図には、各地に点のように記された印が並んでいた。

「共通点があります」  アンドレは冷静に指摘する。 「これらの地域はすべて、地方の有力貴族の領地です」 「そして最近、彼らは貴族議会で揃ってセザール家寄りの発言をしています」

 ヴェルナの脳裏で、点と点が線になる。

「物流を通じて利益を与え、支持を取り付けている……」 「政治的な買収、というわけね」

「可能性は高いでしょう」  アンドレは頷いた。 「そして、その資金の一部が――リリアン家との取引に由来していると見られます」

 ヴェルナは、静かに息を吸った。

(やはり……)

 婚約も、借金も、すべては“手段”。
目的は、権力。


---

 机に向かい、ヴェルナは地図と帳面を見つめる。

(外から追うだけでは、限界がある)

「……内部の人間がいれば」

 思わず零れた呟きに、背後から声がかかった。

「その考え、間違っていないわ」

 振り返ると、母・マティルダが立っていた。

「母様……」

「焦る気持ちは分かるわ」  マティルダは穏やかに微笑む。 「でも、あなたは一人じゃない。味方は、ちゃんといるのよ」

 その言葉に、張り詰めていた肩の力が少し抜けた。

「……ありがとうございます」

 今こそ、人を頼る時だ。


---

 翌日。

 アンドレの手配により、ヴェルナは一人の青年と面会することになった。

 名は――エリオット。

 かつてセザール家の商会で働いていたが、内部で行われていた不正に耐えきれず、辞職した人物だという。

「……話せることは、限られています」  最初、彼は警戒を隠さなかった。

 だが、ヴェルナは一切威圧せず、ただ静かに耳を傾けた。

「私は、誰かを陥れたいわけではありません」 「ただ……真実を知りたいのです」

 その誠実さが伝わったのだろう。
エリオットは、やがて重い口を開いた。

「セザール家は、物流網を使って地方貴族に“利益”を流していました」 「表向きは正当な取引。でも実際は、支持を得るための……賄賂です」

「やはり……」

「リリアン家への支援も、その一部に過ぎません」  エリオットは唇を噛む。 「彼らは、貴族議会での発言力を手に入れるために動いています」

 ヴェルナは、拳をそっと握った。

(ここまで……)

 想像以上に、深い闇。


---

「エリオット」  ヴェルナは真っ直ぐに彼を見た。 「協力していただけますか?」

 一瞬、彼は迷った。

 だが、やがて静かに頷く。

「……分かりました」 「これ以上、あのやり方を見過ごすわけにはいきません」

 その返答に、ヴェルナは確かな手応えを感じた。

 ――核心は、もう目の前だ。

 セザール家の“闇の取引”は、必ず暴かれる。

 そして、その先に待つのは――
反撃の、本当の始まり。


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