婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第18話 再会の緊張

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第18話 再会の緊張

 豪奢なシャンデリアが大広間を昼のように照らし、甘やかな音楽と笑い声が夜を彩っていた。
 社交界の名だたる貴族たちが集う舞踏会――その華やかな場に、ひときわ強い視線を集める人物が現れた。

 ヴェルナ・アルヴィス。

 婚約破棄という醜聞の後、長らく社交界から姿を消していた令嬢だ。
 彼女が再びこの場に立つとは、誰も予想していなかった。

「……まさか、本当に来るなんて」 「噂は本当だったのね……」

 囁きが、波紋のように広がる。

 ヴェルナはエメラルドグリーンのドレスに身を包み、背筋を伸ばして広間を歩いていた。
 宝石のように深い緑が彼女の白い肌を引き立て、静かな自信をその身に纏わせている。

 その姿は、まるで――
 何一つ失っていないと、堂々と宣言しているかのようだった。

(好きに言えばいいわ)

 遠くから聞こえる好奇と嘲りの視線にも、ヴェルナは動じない。
 ただ穏やかな微笑を浮かべ、優雅に歩みを進める。


---

 しばらくして、場の空気が再びざわめいた。

 セザールとリリアンが、揃って姿を現したのだ。

 新たな婚約者として寄り添う二人は、周囲の貴族たちに祝福の言葉を受け、表向きには順調そのものに見えた。
 ――だが。

 ヴェルナの姿を認めた瞬間、セザールの目がわずかに揺れた。

(……気づいたわね)

 リリアンもまた、笑顔を保ってはいるものの、その瞳の奥に一瞬だけ不安の色を滲ませる。

「まあ、ヴェルナ様」  先に声をかけてきたのはリリアンだった。 「こんな場所でお会いするなんて、驚きですわ」

「そうですか?」  ヴェルナは穏やかに微笑む。 「私が舞踏会に出席するのは、何も珍しいことではありませんわ」

 さらりと返し、視線を二人に向ける。

「それより、お二人こそお忙しいのでは? 婚約を公表なさってから、さぞ注目を浴びていらっしゃるでしょう」

「ええ……おかげさまで」  リリアンは微笑みを崩さなかったが、その声はどこか硬い。


---

「しかし、意外ですね」  今度はセザールが口を開いた。 「婚約破棄の後、あなたが社交界に戻ってくるとは思いませんでした」

 含みのある言葉。
 周囲の耳を意識した、わざとらしい声音。

 だが――

「私にも、自分の人生を楽しむ権利がありますもの」  ヴェルナは一歩も引かず、微笑んだまま言い返した。 「人を捨てたあと、何事もなかったかのように振る舞える勇気をお持ちの方に、言われたくはありませんけれど」

 ぴしり、と空気が凍る。

 セザールの表情が一瞬で硬直し、周囲の貴族たちが息を呑むのが分かった。

「……失礼ですわ」  慌ててリリアンが割って入る。 「私たちはただ、幸せを選んだだけですの」

「それは素晴らしいことですわ」  ヴェルナは視線を外さず、穏やかに答えた。 「リリアン嬢が幸せでいらっしゃるなら――私も嬉しいです」

 言葉だけを聞けば祝福。
 だが、その裏に含まれた意味を、二人は理解した。

 やがてセザールは小さく舌打ちし、リリアンの腕を引いてその場を離れていった。
 その背中には、隠しきれない焦りが滲んでいた。


---

(……効いたわね)

 ヴェルナは内心で小さく息をつく。

 彼女の目的は、ただ戻ってくることではない。
 自分が、まだ社交界で“力を持つ存在”であると示すこと。

 それは、最大の牽制だった。


---

 ヴェルナは広間の一角でグラスを手にし、数人の令嬢たちと談笑していた。
 その中には、セザールやリリアンに表向き従いながらも、内心では不満を抱えている者たちがいる。

「ヴェルナ様……本当に、お強い方ですわ」  一人の令嬢がため息混じりに言った。 「私なら、婚約破棄のあとにここへ戻る勇気なんて……」

「強いのではありません」  ヴェルナは静かに首を振る。 「ただ、逃げるのをやめただけですわ」

「……やるべきことが、あるのですね?」  別の令嬢が探るように尋ねる。

「ええ」  ヴェルナは意味深に微笑んだ。 「真実を、明らかにするために」

 その一言で、令嬢たちの間に小さなどよめきが走る。
 囁きは、やがて噂へと変わっていくだろう。


---

 舞踏会の夜が更けていく中、ヴェルナは静かに確信していた。

 ――この舞台で、流れは変わった。

(セザール、リリアン……)

 彼女はグラスを置き、心の中で告げる。

(あなたたちの“幸せ”は、もう長くは続かない)

 この夜。
 社交界という戦場で、ヴェルナ・アルヴィスの逆襲は――
 確かに、本格的に動き出したのだった。


---

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