婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第21話 慈善活動の裏側

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第21話 慈善活動の裏側

 ヴェルナは執務机の前に立ち、アンドレを静かに見据えた。

「次に調べたいのは――リリアン嬢の慈善活動よ」

 その一言で、アンドレはすぐに察したように背筋を伸ばす。

「孤児院支援、貧民救済……」  ヴェルナは淡々と続けた。 「彼女は“心優しい令嬢”として、社交界で高く評価されている。でも……」

 そこで言葉を切り、はっきりと告げる。

「私は、その善意を信じていない」

「……承知いたしました」  アンドレは深く一礼した。 「活動場所、資金の流れ、関係者――すべて調査いたします」


---

 数日後。

 戻ってきたアンドレの表情は、いつも以上に硬かった。

「報告いたします、ヴェルナ様」

 机の上に並べられた資料。
 そこに記された内容は、彼女の予感を裏切らなかった。

「孤児院は実在しています」 「しかし、運営資金の大半は地元商人たちによるものです」

「……では、リリアン嬢は?」

「名前を貸しているだけです」  アンドレは静かに言った。 「実際の運営にも、定期的な支援にも、ほとんど関与しておりません」

 ヴェルナは目を伏せたまま、次の問いを投げる。

「では――寄付金は?」

「一部は孤児院へ届いています」  だが、と前置きしてアンドレは続けた。 「大半は、リリアン家の財政に組み込まれています」

 室内の空気が、冷えた。

「……なるほど」  ヴェルナは静かに息を吸う。 「慈善の仮面で金を集め、家の借金に充てているというわけね」

 怒鳴ることはしなかった。
 その代わり、彼女の声は氷のように澄んでいた。

「最低だわ」


---

 だが、感情だけで動くつもりはない。

「証拠が必要ね。決定的なものが」

 ヴェルナはエリオットを呼び出した。

「リリアン家の財政記録に、辿り着けるかしら」

 エリオットは資料を一瞥し、静かに頷く。

「……可能性はあります」 「使用人経由なら、完全ではなくとも、裏付けは取れるはずです」

「危険?」

「ええ」  彼は正直に答えた。 「ですが、やる価値はあります」

「お願いするわ」


---

 数日後。

 エリオットは数枚の書類を持って戻ってきた。

「こちらです」 「寄付金の入金記録と、直後の資金移動」 「名義は慈善、用途は――家の借金返済」

 ヴェルナは書類に目を通し、ゆっくりと頷いた。

「これで、逃げ道はなくなったわね」

 彼女は静かに微笑んだ。

「“善意”は、嘘が一番嫌うものだから」


---

 次にヴェルナが確認したのは、日程だった。

「次の舞踏会……」 「リリアン嬢は、孤児院支援について演説する予定ね」

 それを聞いたアンドレが、慎重に言う。

「その場で動くおつもりですか?」

「ええ」  ヴェルナは迷いなく答えた。 「ただし、こちらから暴くのではない」

「……?」

「彼女自身に語らせるの」  ヴェルナの瞳が、細くなる。 「言葉が増えれば、矛盾も増える」

 沈黙の中、彼女は資料を閉じた。

「慈善を語るその瞬間こそ――」 「彼女が最も無防備になる」


---

 夜更け。

 ヴェルナは一人、机に向かいながら静かに呟いた。

「リリアン嬢」 「あなたが作り上げた“優しい令嬢”という偶像は――」

 ランプの灯りが、書類の文字を照らす。

「次の舞踏会で、崩れるわ」

 こうして、
 社交界最大の“聖域”――慈善活動に、
 ヴェルナは刃を向ける準備を整えたのだった。


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