婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第20話 秘密の同盟

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第20話 秘密の同盟

 夜の帳が降りる中、ヴェルナは自室のデスクに向かい、静かに資料を見つめていた。

 積み上げられた証拠の束。
 商会の帳簿、契約書の写し、証言の記録。

 どれも強力だ。だが――

(これだけでは、まだ足りない)

 セザール家は、ただの一貴族ではない。
 社交界、経済、政治――あらゆる場所に根を張った巨大な存在だ。

「私一人では、押し切れないわね……」

 ヴェルナは小さく息を吐いた。

 力には、力を。
 だがそれは、武力ではない。

(社交界で戦うなら、社交界の力が必要)

 同じ舞台に立つ令嬢たち。
 表向きは微笑みを浮かべながら、裏では冷静に世界を見ている存在。

「……協力者が必要だわ」


---

 翌日、ヴェルナはアンドレを呼び出した。

「社交界の令嬢たちの中で、セザール家に不満を抱いている者を調べてちょうだい」 「特に――被害を受けた家の娘、あるいは、理不尽に切り捨てられた者を」

「承知いたしました」

 数日後、アンドレは一冊の資料を携えて戻ってきた。

「こちらが候補者のリストです」 「背景、家の事情、人間関係――可能な限りまとめました」

 ヴェルナはページをめくりながら、静かに目を細める。

(……いるわね。想像以上に)

 その中の一つの名前で、彼女の視線が止まった。

「ローズ・バートレット嬢……」

 社交界でも評判の美貌と知性を併せ持つ令嬢。
 そして、リリアンから幾度となく嫌味を受けてきた人物。

「まずは、彼女からね」


---

 数日後の午後。
 ヴェルナはローズを自宅に招き、庭のベンチで向かい合っていた。

「お招きいただき光栄ですわ、ヴェルナ様」  ローズは優雅に微笑みながらも、その視線は慎重だった。

「突然でごめんなさい」  ヴェルナは柔らかく切り出す。 「ですが……どうしても、あなたとお話ししたくて」

「それは光栄ですわ」  ローズは紅茶を口にしながら言った。 「内容を伺っても?」

「ええ」  ヴェルナは一瞬だけ、言葉を選び――静かに告げた。 「リリアン嬢と、セザール家についてです」

 ローズの指が、わずかに止まった。

「……続けてくださいませ」

 ヴェルナは、必要な部分だけを簡潔に語った。
 借金、支配、商会の構造、そして――不正の証拠。

 話し終えた後、ローズはしばらく沈黙した。

「つまり」  彼女はゆっくりと言葉を選ぶ。 「あなたは、彼らを社交界から引きずり下ろすおつもりなのですね」

「はい」  ヴェルナは即答した。 「ですが、一人では不可能です」

「……どうして、私を?」

 その問いに、ヴェルナは微笑んだ。

「あなたは、傷つけられても沈黙しない方だと思ったからです」 「それに――理不尽を、理不尽なままにしない」

 ローズは一瞬、目を伏せた。

「正義のため……ですか?」

「正義、という言葉は嫌いですか?」  ヴェルナは穏やかに問い返す。 「では、“社交界を私物化させないため”ではどうです?」

 ローズは、ふっと笑った。

「……ええ。確かに」 「面白そうなお話ですわね」

 そして、はっきりと頷いた。

「協力しますわ、ヴェルナ様」


---

 それが、始まりだった。

 ヴェルナはその後も、慎重に、確実に接触を重ねていく。
 表では笑顔の令嬢たち。
 だが、胸の奥には皆、同じ違和感を抱えていた。


---

 ある夜。
 ヴェルナの屋敷の応接室に、四人の令嬢が集まった。

「今日は、ありがとうございます」  ヴェルナは静かに切り出す。 「ここに集まった皆さんは、セザール家のやり方に疑問を抱いている方々です」

 誰も否定しなかった。

「私たちがすべきことは、一つ」  ヴェルナは断言する。 「情報を集めることです」

「噂話でも?」  一人が尋ねる。

「噂こそ、社交界の真実です」  ヴェルナは微笑んだ。 「点を集めれば、やがて線になる」

 令嬢たちは、静かに頷いた。

 こうして――
 小さく、しかし確かな秘密の同盟が結成された。

 彼女たちの目的は一つ。
 奪われた秩序を、取り戻すこと。

 そしてこの同盟こそが、
 セザール家を崩す、最初の楔となるのだった。

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