婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第24話　贈賄の痕跡

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第24話　贈賄の痕跡

　リリアンの評判が完全に崩れ去った舞踏会の翌日。
　ヴェルナは静まり返った自室で、一人机に向かっていた。

　昨夜までの標的はリリアンだった。
　だが、彼女を操っていた“本体”は、まだ無傷のまま残っている。

（次は――セザール）

　机の上に並ぶ書類に目を落としながら、ヴェルナは静かに息を整えた。
　リリアンを失った今、セザールは確実に不安定になっている。
　だからこそ、彼の根幹を叩く必要があった。

「彼が、何もせずにあの影響力を保てるはずがないわ」　ヴェルナは低く呟く。「必ず、裏がある」

　彼女は迷わず執事の名を呼んだ。

---

「アンドレ」

「はい、ヴェルナ様」

「セザール家の最近の動きを徹底的に洗って」「特に、地方貴族や商人との関係よ。
　“金の流れ”を重点的に」

　その声には、一切の迷いがなかった。

「承知いたしました」

　アンドレは深く一礼し、即座に調査へと動いた。

---

　数日後。

　戻ってきたアンドレの表情は、いつも以上に険しかった。
　分厚い報告書が、静かに机の上へ置かれる。

「ヴェルナ様……」「セザール家には、贈賄の疑いがあります」

「……やはり」

　ヴェルナは驚きもせず、静かに続きを促した。

「地方の小貴族、商人、そして議会関係者」「彼らに高額な金品を渡し、支持を取り付けています」

「表向きは？」

「“融資”や“支援”という名目です」　アンドレは別の資料を差し出した。「ですが、金額も条件も、明らかに不自然です」

　そこに記されていた数字を見て、ヴェルナは思わず息を呑んだ。

「……買収ね」「完全に」

「はい」「彼の影響力は、信用ではなく“金”で作られています」

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　ヴェルナは資料を一枚ずつ丁寧に確認した。
　この証拠は強力だ。だが、使い方を誤れば、こちらが返り討ちに遭う。

「問題は、どう見せるか……」

　彼女は小さく呟いた。

「ただの不正告発では足りない」「社交界そのものを汚した罪だと、理解させる必要があるわ」

---

　その夜、ヴェルナはエリオットを招いた。

　報告書に目を通した彼は、低く息を吐いた。

「……これは、致命的ですね」「ですが、表に出すタイミングを間違えれば、セザール家は必ず反撃してきます」

「ええ、分かっているわ」

「なら、舞踏会です」　エリオットは静かに言った。「彼が“影響力”を誇示する、その瞬間を使いましょう」

「地方貴族が集まる場で？」「……確かに、それが一番効く」

　ヴェルナはゆっくりと頷いた。

「次の舞踏会に、すべてを賭ける」「彼の“完璧な紳士”という仮面を、その場で剥がすわ」

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　数日後。

　ヴェルナは再び舞踏会の会場に足を踏み入れた。
　広間の中央では、セザールがいつも通り笑顔を振りまいている。

　地方貴族の肩に手を置き、親しげに囁く姿。
　誰の目にも、非の打ち所のない名門貴族だった。

（……知らないのね）（その笑顔の裏側を）

　エリオットは静かに会場を回り、耳を澄ませていた。

「ヴェルナ様」　戻ってきた彼が、小声で告げる。

「次は地方議会です」「票の買収を計画しています。名前も、金額も出ていました」

「……十分ね」

　ヴェルナは静かに息を吐いた。

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　その夜、自室で書類を整理しながら、彼女は確信していた。

「これが、最後の一撃」

　リリアンはすでに終わった。
　次は、社交界を金で操ってきた男の番だ。

「セザール」「あなたの“影響力”は、今日で終わりよ」

　その瞳に宿るのは、怒りではない。
　冷静で、揺るぎない決意だけだった。

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