婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第25話 セザールの陰謀

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第25話 セザールの陰謀

 舞踏会の翌日。
 ヴェルナは自室で机いっぱいに広げられた資料を見下ろしていた。

 昨夜の舞踏会で掴んだ情報――
 セザールが地方議会の票を買収しようとしているという事実は、もはや疑いようがなかった。

「……ここまで来ると、ただの野心家じゃないわね」

 呟きと同時に、背筋に冷たいものが走る。
 貴族の影響力争いを超え、政治そのものに手を突っ込もうとしている。

(放っておけば、社交界だけじゃ済まない)

 そこへ、控えめなノック音が響いた。

「ヴェルナ様」

「入って」

 現れたアンドレは、いつになく慎重な表情をしていた。

「追加の情報がございます」  そう言って、革張りの小さな手帳を差し出す。

「……これは?」

「セザール家が地方議会に渡そうとしている金額と、受領予定者の一覧です」

 ヴェルナは思わず息を呑んだ。

 名前、金額、日付――
 どれも具体的で、生々しい。

「……決定的ね」

 これ以上の証拠はない。
 これは“噂”ではなく、“犯罪”だ。


---

 その夜、ヴェルナはエリオットを招き、手帳を共有した。

「……完全にアウトですね」  彼は低く息を吐く。

「地方議会だけではありません」 「この動き、いずれ貴族議会にも及びます」

「つまり――」  ヴェルナは静かに続けた。

「最終的な目的は、議会を金で操ること」

「ええ」  エリオットは頷く。 「セザールは“政治そのもの”を手に入れようとしています」

 部屋に、重い沈黙が落ちた。

「阻止しなければならないわ」  ヴェルナはきっぱりと言った。 「ここで止めなければ、被害は広がる」

「なら、やはり舞踏会です」  エリオットが静かに告げる。 「人目のある場で、逃げ場を塞ぐ」

「分かったわ」  ヴェルナは迷いなく頷いた。 「次の舞踏会で、すべてを終わらせる」


---

 それから数日間。
 ヴェルナは“秘密の同盟”の令嬢たちを動かした。

 彼女たちはそれぞれの人脈を使い、
 地方議会、貴族議会、商人たちの噂を拾い上げる。

 そして判明した事実は――

「次の舞踏会で、地方議会の主要人物と会合を持つ予定です」  ローズが静かに報告する。

「……なるほど」  ヴェルナは口元に、冷たい笑みを浮かべた。 「完璧な舞台ね」


---

 舞踏会当日。

 広間の中央で、セザールはいつも通り堂々と振る舞っていた。
 地方貴族たちと肩を並べ、親しげに談笑する姿は、非の打ち所がない。

(……知らないのね) (自分が、もう詰んでいることを)

「エリオット」  ヴェルナは小声で指示を出す。

「会話を」

「了解しました」

 しばらくして戻ってきた彼の表情は、確信に満ちていた。

「票の話をしています」 「金額、見返り、すべて具体的に」

「十分よ」


---

 ヴェルナは、静かに一歩前へ出た。

「セザール様」

 呼びかけられた男は、一瞬だけ目を見開いたが、すぐに余裕の笑みを浮かべる。

「これはこれは、ヴェルナ様」

「地方議会へのご支援について、お伺いしたいのですが」  彼女の声は、驚くほど落ち着いていた。

「多額の資金を提供されていると聞いています」 「それは、どのような目的で?」

 その瞬間――
 セザールの笑顔が、わずかに歪んだ。

 ヴェルナは、その一瞬を逃さない。

「では、こちらをご覧ください」

 彼女は一冊の手帳を掲げた。

「金額、日付、受領者」 「すべて、ここに記されています」

 広間が、凍りついたように静まり返る。

 セザールは言葉を失い、視線を彷徨わせた。

(――勝った)

 ヴェルナは確信した。

 追い詰める準備は、すべて整った。


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