婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第27話 崩壊の果て

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第27話 崩壊の果て

 広間は、怒りと失望のざわめきに満ちていた。

「地方議会への贈賄だと……!?」 「そんな男が、我々の顔をしていたとは……!」

 貴族たちの声は、怒号というより断罪だった。

 その中心で、セザールは立ち尽くしていた。
 顔色は血の気を失い、唇は小刻みに震えている。

「お、落ち着いてください……皆様……!」

 必死に声を張り上げる。

「これは誤解です! 私はただ、地方の発展を願って……!」

 だが、その言葉が届くことはなかった。

 ――証拠が、すでに“全て”を語っていたからだ。


---

 ヴェルナは、広間の一段高い位置から静かにその姿を見下ろしていた。

「セザール様」

 声は穏やかで、しかし逃げ場を与えない。

「これ以上の言い逃れは不要です」 「あなたがこの社交界と地方議会を、私利私欲のために操ろうとした事実は、もはや否定できません」

 一拍置いて、静かに問いかける。

「それが――貴族として、許される振る舞いだとお思いですか?」

 その瞬間、視線が一斉にセザールへと向けられた。

 かつて彼に媚び、笑顔を向けていた者たちですら、今は距離を取るように背を引いている。

 ――孤立。

 それは、何よりも残酷な断罪だった。


---

 沈黙を破ったのは、一人の地方議会議員だった。

「……私も、あなたから“支援”を受け取った者の一人です」

 彼は重い足取りで前へ出る。

「ですが、今ならはっきり言えます」 「それは支援ではありませんでした。買収です」

 空気が、さらに重く沈む。

 続けて、別の議員が立ち上がった。

「私も同じです……」 「あなたの言葉に従ったことを、心から後悔しています」

 次々と告白が重なり、逃げ道は完全に塞がれた。

 セザールは、とうとう顔を上げることすらできなくなった。


---

 ヴェルナは、その様子を見つめながら、静かに口を開いた。

「セザール様」

「これ以上、あなたがこの社交界に留まることはできません」 「自ら退場する意志を、示していただけますか」

 それは命令ではない。
 ――最後に残された、わずかな“尊厳”への配慮だった。

「私は……!」

 セザールは叫ぼうとした。

「私は何も間違ってなど……!」

 その声を遮るように、低く威厳ある声が響いた。

「誤解ではない」

 歩み出たのは、ルシャール侯爵だった。

「私は、あなたのやり方を以前から見てきた」 「そして、目をつぶってきたことを悔いている」

 鋭い視線が、セザールを射抜く。

「この場で退場しないのなら、私はこの件を国王陛下に直接奏上する」

 ――それは、完全な詰みだった。


---

 長い沈黙の末、セザールは力なく息を吐いた。

「……分かりました」

 額を押さえ、かすれた声で言う。

「私は、この社交界を去ります」

 一瞬、顔を上げ、歪んだ笑みを浮かべる。

「だが……これは終わりではない」

 そう言い残し、彼は広間を後にした。

 その背中を、誰一人として引き止める者はいなかった。


---

 扉が閉じた後、ヴェルナはゆっくりと息を整え、貴族たちへ向き直った。

「皆様」

「私は、ただ正義を明らかにしただけです」 「この社交界が、再び健全な場であることを願っています」

 控えめな言葉だった。

 だが、それに応えるように――
 拍手が、静かに、やがて大きく広がっていった。


---

 その夜。

 ヴェルナは自室の窓辺に立ち、月明かりを見つめていた。

「……終わりではない、か」

 セザールの言葉を思い返し、小さく息を吐く。

 確かに、問題はまだ残っている。
 社交界も、政治も、完全に清らかではない。

 けれど――

「それでも、前に進むしかないわ」

 彼女の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。

 崩壊の果てに残ったのは、勝利ではなく――
 責任だった。

 ヴェルナは、新たな未来へと歩き出す準備を整え始めていた。


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