婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第28話 真実への第一歩

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第28話 真実への第一歩

 夜の舞踏会は、社交界の華やかさを凝縮したような空間だった。

 煌びやかな装飾、流れる音楽、笑顔を浮かべる貴族たち。
 だが、その裏側では、いつも通り無数の思惑が絡み合っている。

(――この場は、舞台)

 ヴェルナはそう割り切っていた。

 これまでに集めた証拠は十分。
 だが、それをどう使うかで、結果は大きく変わる。

 目指すのはただ一つ。
 セザールとリリアンの“偽りの評判”を、自ら崩壊させること。


---

 広間に姿を現したヴェルナは、自然と視線を集めていた。

 エメラルドグリーンのドレスに身を包み、背筋を伸ばして歩くその姿には、もはや“追い落とされた令嬢”の面影はない。

「彼女がヴェルナ嬢……」 「婚約破棄されたのに、あの堂々とした態度……」

 囁きは、好奇と評価が入り混じったものだった。

 ヴェルナはそれらを気にも留めず、静かに微笑む。

(視線は恐れるものではないわ。利用するものよ)


---

 やがて、広間の中央にセザールとリリアンが姿を現した。

 セザールは余裕のある笑みを浮かべ、
 リリアンは華やかなドレスで寄り添い、まるで理想の恋人同士のように振る舞っている。

 ――あくまで、表向きは。

「ごきげんよう、ヴェルナ嬢」

 声をかけてきたのはリリアンだった。
 その笑顔には、隠しきれない優越感が滲んでいる。

「このような舞踏会に参加なさるなんて、少し意外ですわ」

「ごきげんよう、リリアン嬢」

 ヴェルナは変わらぬ調子で答えた。

「このような場に招かれたこと、光栄に思っておりますわ」

 一瞬、リリアンの表情が引きつった。
 だが、すぐに取り繕った笑顔を浮かべる。

 そのやり取りを、セザールは黙って見ていた。


---

 ヴェルナはその場を離れ、広間の隅にいるエリオットのもとへ向かった。

「準備は?」

「はい」

 エリオットは小さく頷く。

「証拠は揃っています。あとは、あなたが合図を出すだけです」

「ありがとう」

 ヴェルナは小さく微笑んだ。

「――今夜、真実への扉を開くわ」


---

 舞踏会が後半に差し掛かった頃。
 主催者の合図で、リリアンがスピーチを始めた。

「皆様、本日はこのような素晴らしい場をありがとうございます」

 柔らかな声で、彼女は語る。

「私が支援しております孤児院も、皆様の温かいご協力のおかげで、順調に運営されています」

 拍手が起こる。

「子どもたちの未来のために、これからも支援を続けていくつもりですわ」

 再び拍手。

 だが――
 ヴェルナは、その言葉の一つ一つを冷静に聞いていた。

(矛盾が多すぎる)

 数字も、具体性も、何一つない。


---

 スピーチが終わった瞬間。

 ヴェルナは静かに立ち上がり、広間の中央へ進み出た。

「素晴らしいお話でしたわ、リリアン嬢」

 穏やかな声。

「ですが、一つだけ、確認させていただいてもよろしいかしら?」

 空気が、わずかに変わる。

「……何でしょう?」

 リリアンは笑顔を崩さず答えた。

「孤児院への支援についてです」

 ヴェルナは一歩踏み出す。

「具体的に、どのような形で支援をなさっているのか、教えていただけますか?」

「それはもちろん、物資の提供や教育支援を――」

「なるほど」

 ヴェルナは頷き、間を置いて続けた。

「では、その支援に使われた資金の流れについて、詳細をお話しいただけますか?」

 ――沈黙。

 リリアンの表情が、わずかに硬くなる。

「そ、それは……運営側に任せておりますので……」

 声が、揺れた。


---

 その瞬間。

 ヴェルナはエリオットから受け取った資料を、静かに掲げた。

「では、こちらをご覧ください」

 広間中に響く声。

「これは、リリアン嬢の支援活動に関する財務記録です」

 ざわめきが消える。

「この記録には――いくつか、説明のつかない点がございます」

 視線が、一斉に資料へと集まった。

 リリアンの顔から、血の気が引いていく。

(――ここからよ)

 ヴェルナは、確信していた。

 真実への第一歩は、すでに踏み出された。


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