婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

文字の大きさ
28 / 60

第28話 真実への第一歩

しおりを挟む
第28話 真実への第一歩

 夜の舞踏会は、社交界の華やかさを凝縮したような空間だった。

 煌びやかな装飾、流れる音楽、笑顔を浮かべる貴族たち。
 だが、その裏側では、いつも通り無数の思惑が絡み合っている。

(――この場は、舞台)

 ヴェルナはそう割り切っていた。

 これまでに集めた証拠は十分。
 だが、それをどう使うかで、結果は大きく変わる。

 目指すのはただ一つ。
 セザールとリリアンの“偽りの評判”を、自ら崩壊させること。


---

 広間に姿を現したヴェルナは、自然と視線を集めていた。

 エメラルドグリーンのドレスに身を包み、背筋を伸ばして歩くその姿には、もはや“追い落とされた令嬢”の面影はない。

「彼女がヴェルナ嬢……」 「婚約破棄されたのに、あの堂々とした態度……」

 囁きは、好奇と評価が入り混じったものだった。

 ヴェルナはそれらを気にも留めず、静かに微笑む。

(視線は恐れるものではないわ。利用するものよ)


---

 やがて、広間の中央にセザールとリリアンが姿を現した。

 セザールは余裕のある笑みを浮かべ、
 リリアンは華やかなドレスで寄り添い、まるで理想の恋人同士のように振る舞っている。

 ――あくまで、表向きは。

「ごきげんよう、ヴェルナ嬢」

 声をかけてきたのはリリアンだった。
 その笑顔には、隠しきれない優越感が滲んでいる。

「このような舞踏会に参加なさるなんて、少し意外ですわ」

「ごきげんよう、リリアン嬢」

 ヴェルナは変わらぬ調子で答えた。

「このような場に招かれたこと、光栄に思っておりますわ」

 一瞬、リリアンの表情が引きつった。
 だが、すぐに取り繕った笑顔を浮かべる。

 そのやり取りを、セザールは黙って見ていた。


---

 ヴェルナはその場を離れ、広間の隅にいるエリオットのもとへ向かった。

「準備は?」

「はい」

 エリオットは小さく頷く。

「証拠は揃っています。あとは、あなたが合図を出すだけです」

「ありがとう」

 ヴェルナは小さく微笑んだ。

「――今夜、真実への扉を開くわ」


---

 舞踏会が後半に差し掛かった頃。
 主催者の合図で、リリアンがスピーチを始めた。

「皆様、本日はこのような素晴らしい場をありがとうございます」

 柔らかな声で、彼女は語る。

「私が支援しております孤児院も、皆様の温かいご協力のおかげで、順調に運営されています」

 拍手が起こる。

「子どもたちの未来のために、これからも支援を続けていくつもりですわ」

 再び拍手。

 だが――
 ヴェルナは、その言葉の一つ一つを冷静に聞いていた。

(矛盾が多すぎる)

 数字も、具体性も、何一つない。


---

 スピーチが終わった瞬間。

 ヴェルナは静かに立ち上がり、広間の中央へ進み出た。

「素晴らしいお話でしたわ、リリアン嬢」

 穏やかな声。

「ですが、一つだけ、確認させていただいてもよろしいかしら?」

 空気が、わずかに変わる。

「……何でしょう?」

 リリアンは笑顔を崩さず答えた。

「孤児院への支援についてです」

 ヴェルナは一歩踏み出す。

「具体的に、どのような形で支援をなさっているのか、教えていただけますか?」

「それはもちろん、物資の提供や教育支援を――」

「なるほど」

 ヴェルナは頷き、間を置いて続けた。

「では、その支援に使われた資金の流れについて、詳細をお話しいただけますか?」

 ――沈黙。

 リリアンの表情が、わずかに硬くなる。

「そ、それは……運営側に任せておりますので……」

 声が、揺れた。


---

 その瞬間。

 ヴェルナはエリオットから受け取った資料を、静かに掲げた。

「では、こちらをご覧ください」

 広間中に響く声。

「これは、リリアン嬢の支援活動に関する財務記録です」

 ざわめきが消える。

「この記録には――いくつか、説明のつかない点がございます」

 視線が、一斉に資料へと集まった。

 リリアンの顔から、血の気が引いていく。

(――ここからよ)

 ヴェルナは、確信していた。

 真実への第一歩は、すでに踏み出された。


---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄、承りました!悪役令嬢は面倒なので認めます。

パリパリかぷちーの
恋愛
「ミイーシヤ! 貴様との婚約を破棄する!」 王城の夜会で、バカ王子アレクセイから婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢ミイーシヤ。 周囲は彼女が泣き崩れると思ったが――彼女は「承知いたしました(ガッツポーズ)」と即答!

断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。 (ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

婚約破棄のススメ!王子の「真実の愛」見つけて差し上げます

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢メロア・クレーベルの隣には、非の打ち所がない完璧すぎる婚約者、ジークハルト王子が君臨している。このまま結婚すれば、待っているのは「王妃教育」と「終わらない公務」という名の過労死コース……。 「嫌ですわ! わたくし、絶対に婚約破棄して隠居してみせますわ!」 決意したメロアは、入学したての学園で、王子の「真実の愛の相手(ヒロイン)」を見つけ出し、自分を捨ててもらうという作戦を開始する。

『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ

夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」 華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

いいえ、ただ私は婚約破棄されたいだけなんです!

鏡おもち
恋愛
伯爵令嬢ロニエ・エヴァンズには、ささやかな野望があった。それは、ハイスペックすぎて重すぎる愛を持つ婚約者、第一王子アレンから「婚約破棄」を突きつけられ、実家の離れで一生ダラダラと昼寝をして過ごすこと。 ロニエは学園入学を機に、あの手この手で「嫌われる努力」を開始する。

追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!

ワールド
恋愛
貴族の娘として生まれた公爵令嬢クラリッサ。 陰謀の濡れ衣を着せられ、華やかな社交界から追放――そして辿り着いたのは、ボロ小屋と畑だけの辺境村!? 「結構ですわ! 紅茶がなければハーブティーを淹れればいいじゃありませんの!」 貧乏生活でも持ち前の図太さで、村の改革に乗り出すクラリッサ。 貧乏でも優雅に、下剋上でも気高く! そんな彼女の前に現れたのは、前世(王都)で彼女を陥れた元婚約者……ではなく、なぜか彼の弟で村に潜伏していた元騎士で――? 「俺は見てた。貴女の“ざまぁ”は、きっとまだ終わっちゃいない。」 ざまぁとスローライフ、そしてちょっとの恋。 令嬢、辺境で図太く咲き誇ります!

処理中です...