婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第29話 決定的な証拠の提示

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第29話 決定的な証拠の提示

 広間は、息を呑んだような静寂に包まれていた。

 ヴェルナは一歩前に進み、手にした資料を高く掲げる。
 その所作には一切の迷いも、感情の揺れもなかった。

「皆様」

 澄んだ声が、広間に響く。

「この資料には、リリアン嬢が語ってきた“孤児院への慈善活動”――その実態が記されています」

 その瞬間、リリアンの顔から血の気が引いた。

 取り繕うように微笑もうとするが、口元は震え、目は明らかに動揺している。

「ヴェ、ヴェルナ嬢……」 「私の善意を、疑うとおっしゃるのですか?」

 か細い声での反論。

 だが、ヴェルナは一切取り合わなかった。

「疑っているのではありません」

 淡々と、事実だけを告げる。

「――記録を示しているだけです」

 彼女は資料の一部を示した。

「この帳簿によれば、リリアン嬢名義で集められた寄付金の大半は、孤児院には届いていません」

 ざわり、と空気が揺れる。

「代わりに使われていたのは――」 「宝飾品、豪奢な衣装、そして私的な宴の費用」

 一項目ずつ、読み上げられる数字。

「これらはすべて、“慈善”として集められた資金です」

 広間のあちこちで、息を呑む音が聞こえた。


---

「そんな……!」 「それは、何かの間違いです!」

 リリアンが叫ぶ。

「私は……私は、そんなこと……!」

 だが、その声を遮るように、一人の女性が前に進み出た。

「――事実です」

 震えながらも、はっきりとした声。

 リリアン家の使用人、クラリスだった。

「私は、リリアン家で働く中で……何度も、寄付金が私的に使われる場面を目にしてきました」

 広間がどよめく。

「孤児院へ送られるはずの金が、宝石商の請求書に変わるのを、私は何度も確認しています」

 クラリスは深く頭を下げた。

「逆らえば職を失うと分かっていました……ですが、これ以上黙っていることはできませんでした」

 その言葉は、決定打だった。

 もはや、言い逃れは不可能だった。


---

 リリアンはその場に立ち尽くし、言葉を失っていた。

 そんな彼女を、ヴェルナは静かに見つめる。

「皆様、お分かりいただけたでしょう」

 広間全体に向けて、告げる。

「彼女の語ってきた“善行”は、外面だけのものでした」 「真実は――孤児たちの未来を踏みにじる、資金の横流しです」

 重い沈黙。

 そこへ、苛立ちを隠せない声が割って入った。

「――もういいでしょう」

 立ち上がったのは、セザールだった。

「ヴェルナ嬢、これ以上の侮辱は看過できません」 「あなたの発言には、決定的な根拠が――」

「ございますわ」

 ヴェルナは即座に言い切った。

 そして、もう一枚の資料を広げる。

「こちらは、リリアン家の資金管理記録」 「――そして、管理責任者の署名」

 視線が、一斉に資料へ集中する。

「セザール様」 「あなたのお名前が、ここにございます」

 広間が凍りついた。

「あなたは資金管理を担い、不正を黙認――いえ、積極的に関与していました」

 セザールの顔が、みるみる青ざめていく。

「……な、何を……」

 だが、続く言葉は出てこなかった。

 周囲の視線が、すべてを物語っていたからだ。


---

「もう十分です」

 ヴェルナの声が、静かに、しかし確実に響いた。

「この場で明らかになりました」 「彼らが社交界に居続ける理由は、もはや存在しません」

 その瞬間――

「許されるはずがない!」 「孤児を利用するなど、恥を知れ!」 「即刻、追放すべきだ!」

 非難の声が、嵐のように巻き起こった。

 リリアンはその場に崩れ落ち、嗚咽を漏らす。
 セザールもまた、立ち尽くしたまま、何も言えずにいた。


---

 ヴェルナは、そっとエリオットと視線を交わした。

 彼は小さく頷き、敬意を込めた表情を浮かべている。

(これで、一つは終わった)

 だが――

(まだ終わりではない)

 ヴェルナの瞳には、静かな決意が宿っていた。

 真実を暴く戦いは、ここから先も続いていくのだから。


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