婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第32話 自立への第一歩

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第32話 自立への第一歩

 セザールとリリアンの追放――
 社交界を揺るがした騒動が収束すると同時に、ヴェルナの中で一つの区切りがついた。

(終わった……いいえ、終わらせただけ)

 敵を追い出しただけでは、何も変わらない。
 本当に必要なのは、その先だ。

 ヴェルナが次に見据えたのは――
 自分自身の領地だった。


---

 その領地は、アルヴィス侯爵家の資産の一部として、形式上ヴェルナに与えられているものだった。

 だが実情は――
 管理はすべて家臣任せ。
 当の領主であるヴェルナ自身は、現状をほとんど知らない。

(これでは“貴族”とは言えないわね)

 名ばかりの地位ではなく、実力で立つ。
 そう決めたヴェルナは、すぐに動き出した。


---

「アンドレ。この領地について、詳しい報告書をまとめてちょうだい」

「かしこまりました、ヴェルナ様」

 老執事は一礼し、即座に手配に入った。

 数日後――
 アンドレが持参した報告書は、想像以上に分厚かった。

 人口。
 税収。
 作物の収穫量。
 住民の生活環境。

 一つひとつ目を通すたび、ヴェルナの表情は引き締まっていく。

「……思ったより、ずっと厳しいわね」

「はい」  アンドレは静かに頷いた。 「収入は農業が中心ですが、近年は不作が続き、税収も減少しております」 「加えて、病の流行により労働力も落ちています」

「なるほど……」

 現実は、数字となって突きつけられた。

「改善の優先順位は?」 ヴェルナは顔を上げ、問いかける。

「第一は農業改革、次いで医療の整備かと」 「良質な種子と肥料を導入すれば、収穫量は回復するでしょう」 「また、医師を招けば、住民の健康状態も改善されます」

 ヴェルナはゆっくりと頷いた。

(問題は山積み……でも、逃げる理由にはならない)


---

 その日の午後、ヴェルナは領地の役人たちを集め、会合を開いた。

 これまで“令嬢”としてしか見られてこなかった彼女が、正面から席につく。

「皆さん」  ヴェルナは、はっきりとした声で告げた。 「私は、この領地を立て直します」

 役人たちが息を呑む。

「私一人ではできません。だからこそ、力を貸してほしいのです」 「共に、この地を繁栄させましょう」

 一瞬の沈黙の後――
 誰からともなく、深く頭を下げた。

「お任せください、ヴェルナ様」

 その姿に、ヴェルナは確かな手応えを感じていた。


---

 母の支えも、心強かった。

「あなたなら、必ずできるわ」  優しく微笑みながら、母は言う。 「私の知識や人脈、必要ならすべて使ってちょうだい」

「ありがとう、お母様」

 さらに――
 父、アルヴィス侯爵の態度にも、わずかな変化が現れた。

「……正直に言う」  彼は少し気まずそうに咳払いをした。 「ここまでやるとは思っていなかった」

「父様……?」

「必要な支援は出そう」 「無駄にはせんだろう」

 それだけの言葉だったが――
 ヴェルナの胸は、静かに温かくなった。


---

 そして、エリオット。

「農業一本では、収入は安定しません」  彼は商人らしい冷静さで言った。 「産業の多角化が必要です」

「例えば?」

「特産品です」 「薬草、香料――付加価値の高い商品にすれば、市場で強い」

「……なるほど」

 ヴェルナの中で、次々と構想が形を成していく。

(農業を立て直し、医療を整え、産業を育てる)

 簡単ではない。
 けれど――やりがいはある。


---

 夜。
 一人、自室で書類を整理しながら、ヴェルナは静かに誓った。

(私は、もう“守られるだけの存在”じゃない)

 誰かの後ろに立つ令嬢ではなく、
 人を導く者として。

「自分の力で、この領地を繁栄させてみせる」

 その瞳には、迷いのない光が宿っていた。

 これは――
 ヴェルナが本当の意味で、自立へ踏み出した瞬間だった。


---

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