婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

文字の大きさ
33 / 60

第33話 家族の支援と新たな繋がり

しおりを挟む
第33話 家族の支援と新たな繋がり

 領地改革に本格的に乗り出してからというもの、ヴェルナの一日は目まぐるしく過ぎていった。
 書類に目を通し、計画を立て、現実と向き合う――それは、これまでの令嬢としての生活とはまるで違う日々だった。

 そんな娘の姿を、母エリザベスは静かに見守っていた。


---

 ある日の午後。
 ヴェルナの部屋の扉が、控えめにノックされる。

「ヴェルナ、少しよろしいかしら?」

「はい、お母様」

 顔を上げると、机の上には地図や財務報告書が広げられたままだ。
 エリザベスはその様子を見て、ふっと微笑んだ。

「随分、立派な執務室になったわね」

「……まだ勉強中ですけれど」

 そう答えながらも、ヴェルナは少し照れたように席を立った。

 エリザベスは娘の隣に腰を下ろし、穏やかな声で言う。

「あなたが一生懸命なのは、ずっと見ていたわ」 「何か私にできることがあれば、遠慮なく言ってちょうだい」

 一瞬、ヴェルナは驚いたように目を瞬かせた。

「……実は」  彼女は素直に打ち明けた。 「お母様の経験を、お借りしたいと思っていました」

 その言葉に、エリザベスは嬉しそうに頷く。

「そうね。私も若い頃、お祖母様と一緒に領地の管理をしていたの」 「机の上だけでは、分からないことも多かったわ」


---

 そこから、二人の話は尽きることがなかった。

「大切なのは、住民の声よ」  エリザベスは真剣な眼差しで語る。 「数字だけでは、人は救えないわ」

「……確かに」

「それから、商人たちとの関係も重要よ」 「敵にするより、味方につけなさい」

 ヴェルナは一つひとつ頷きながら、丁寧にメモを取っていく。

(私は、まだ何も知らない)

 だが、それは同時に――
 これから知っていける、ということでもあった。


---

 数日後。
 ヴェルナは実際に領地の村々を訪れ始めた。

「まさか、領主様が直接……」

 村長は目を丸くしていた。

「形式だけの視察ではありません」  ヴェルナは穏やかに言う。 「皆さんの声を、直接聞きたいのです」

 最初は緊張していた住民たちも、次第に口を開き始めた。

「畑が痩せてきまして……」 「医者が遠くて……」

 ヴェルナは一つひとつ、真剣に耳を傾ける。

(これが、領主の仕事なのね)

 屋敷の中では決して見えなかった現実が、そこにあった。


---

 一方で、父アルベルトの態度にも、少しずつ変化が現れていた。

 ある日の夕食の席。
 沈黙が続く中、父がぽつりと口を開く。

「……最近、領地に足を運んでいるそうだな」

「はい」  ヴェルナは背筋を伸ばして答えた。 「まだ未熟ですが、できることから始めています」

 アルベルトは一瞬、言葉を選ぶように視線を伏せた後、頷いた。

「悪くない」 「困ったことがあれば……相談しろ」

 それだけの言葉だった。
 だが――

(認めて、くれた……)

 ヴェルナの胸に、温かなものが広がる。

「ありがとうございます、お父様」


---

 家族の支えを受けながら、ヴェルナは歩みを止めなかった。

 住民たちは、次第に彼女を「遠い貴族」ではなく、「自分たちの領主」として見るようになる。

「本当に、私たちの話を聞いてくれる」 「こんな方、初めてだ」

 その声は、確かに領地に広がっていった。


---

 夕暮れ時。
 庭を歩きながら、エリザベスがそっと言う。

「あなたを誇りに思うわ、ヴェルナ」

「……まだ、道の途中です」  ヴェルナは静かに答えた。 「でも、一人じゃないと思えるようになりました」

「それでいいのよ」

 支えられ、支え返し、繋がっていく。

 ヴェルナは今、確かに――
 “領主としての第一歩”を踏み出していた。


--
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

あなたの絶望のカウントダウン

nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。 王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。 しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。 ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。 「本当にいいのですね?」 クラウディアは暗い目で王太子に告げる。 「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

処理中です...