婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第37話 信頼と友情の芽生え

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第37話 信頼と友情の芽生え

 初夏の爽やかな風が、屋敷の中庭を静かに吹き抜けていた。
 ヴェルナは自室の窓辺に立ち、青く澄んだ空を見下ろしている。

(最近……)

 エリオットと過ごす時間が増えている。
 仕事の打ち合わせ、領地の視察、計画の相談――。

 そのどれもが自然で、心が落ち着く。

(安心、している……)

 それに気づいた瞬間、ヴェルナは小さく息を吐いた。

「……彼にとって、私はただの雇い主なのかしら」

 呟きは、風に溶けて消える。

「それとも……」

 その先の言葉は、胸の奥にしまい込んだままだった。


---

 ほどなくして、書斎の扉が控えめにノックされた。

「失礼いたします、ヴェルナ嬢」

 エリオットだった。
 手に抱えた資料は、最近進めている領地改革に関するものだ。

「最近の進捗について、ご報告したいことがあります」 「特産品の市場展開ですが、新たに興味を示す商人が増えました」

「それは……良い知らせね」

 ヴェルナは自然と笑顔になる。

「これで、領地の収益も安定していくわ」

「はい。そこで一つ、提案があります」

 エリオットは資料を広げ、要点を指し示した。

「次の契約交渉ですが――ヴェルナ嬢ご自身が、前に出ていただけないでしょうか」

「……私が?」

 思わず、聞き返す。

「商人たちと直接言葉を交わすことで、信頼関係をより強固にできます」 「あなたの存在は、それだけの価値があります」

 ヴェルナは一瞬、視線を落とした。

「私に……できるかしら」 「交渉の場は、今でも少し緊張するの」

 するとエリオットは、迷いのない声で言った。

「できます」

 その一言は、力強く、優しかった。

「これまでのあなたの行動が、住民や関係者の信頼を勝ち取ってきました」 「それは、商人に対しても同じです」

 ヴェルナの胸に、小さな灯がともる。

「……ありがとう」 「あなたがそう言ってくれるなら……やってみるわ」

「もちろん、私も全力で支えます」 「あなたが一人で悩む必要はありません」

 その言葉に、ヴェルナは思わず微笑んだ。


---

 それから数日間。
 二人は交渉に向けて準備を進めた。

 資料の整理、想定問答、条件のすり合わせ。
 その中でヴェルナは、改めてエリオットの細やかさに気づかされる。

(この人は……本当に頼りになる)

 ふと、口から零れた。

「エリオット、あなたは本当に頼りになるわ」

「恐縮です」

 彼は軽く頭を下げる。

「ですが、私にとっても、あなたと共に働けることは誇りです」

 その言葉に、ヴェルナの頬がわずかに熱くなった。


---

 交渉当日。

 ヴェルナは緊張しながらも、堂々と商人たちの前に立った。
 エリオットの助言を胸に、誠実に、率直に言葉を選ぶ。

 結果は――成功だった。

「お見事でした、ヴェルナ様」  商人の一人が満足そうに頷く。 「ぜひ、今後も良い関係を築いていきましょう」

「ありがとうございます」  ヴェルナは深く一礼した。 「共に、良い未来を作っていければ嬉しいです」


---

 交渉を終えた後、二人は庭園でひと息ついていた。

「本当に、お見事でした」  エリオットは穏やかに微笑む。 「商人たちも、あなたの姿勢に強く心を打たれたはずです」

「そう言ってもらえると……嬉しいわ」  ヴェルナは少し照れながら答えた。 「でも、あなたの支えがあったからよ」

「私の役目は、影から支えることです」 「主役は、いつだってあなたです」

 その言葉は、ヴェルナの胸に静かに響いた。


---

 夕暮れ。
 一人きりの書斎で、ヴェルナは今日を振り返る。

(彼となら……)

「もっと遠くへ行ける気がする」

 それは、確かな実感だった。

 一方、エリオットもまた、同じ空を見上げていた。

「……彼女がいるからこそ」 「私は、ここまで来られたのかもしれない」

 二人の間に芽生えたものは、まだ名前のない感情。
 けれど――それは確実に、未来へと続いていた。


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