婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第38話 エリオットの正体

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第38話 エリオットの正体

 晴れ渡った午後の空の下、ヴェルナはエリオットと並んで領地内の新しい薬草畑を歩いていた。
 規則正しく並ぶ薬草の列の間を、住民たちが忙しそうに行き交っている。

「順調ね……」

 畑を見渡しながら、ヴェルナは満足そうに微笑んだ。
 少し前までは想像もできなかった光景だ。

 その隣で、エリオットは自然に作業の進捗や今後の改善点を口にしている。
 無駄がなく、的確で、まるで最初から領地経営に関わってきたかのようだった。

 ふと、ヴェルナの胸に引っかかりが生まれる。

「……エリオット」

「はい?」

「あなた、本当に商才に優れているわね」  彼女は歩みを止め、穏やかに微笑んだ。 「でも……正直に言うと、少し不思議なの」

 エリオットの足が、わずかに止まる。

「あなたの知識や判断力って、ただの商人のものじゃないわ」 「交渉、財務、政治的な駆け引き……どれも、経験がなければ身につかないものよ」

 一瞬だけ、エリオットの表情が曇った。
 けれど、それはすぐにいつもの穏やかな微笑みに戻る。

「……確かに」  彼は小さく息を吐いた。 「その疑問を持たれるのも、無理はありませんね」

 ヴェルナは、彼の横顔をじっと見つめる。

「もしかすると……」  エリオットは静かに続けた。 「いずれ、話すべき時が来るのかもしれません」


---

 その夜。

 ヴェルナは意を決し、エリオットに書斎で話す時間を求めた。
 重厚な机を挟み、二人は向かい合って座る。

「エリオット」  ヴェルナは真剣な表情で口を開いた。 「私は、あなたに心から感謝しているし、信頼しているわ」

 エリオットは黙って頷いた。

「だからこそ……あなたのことをもっと知りたいの」 「どうして、そこまで私を支えてくれるのか」 「あなたが、どんな人なのか」

 しばらくの沈黙。
 やがてエリオットは視線を落とし、静かに語り始めた。

「……ヴェルナ嬢」 「あなたがこれほど真っ直ぐに向き合ってくださるなら」 「私も、誠実にお話しするべきでしょう」

 彼はゆっくりと息を整えた。

「実を言うと、私はただの商人ではありません」

 ヴェルナは、思わず息を呑む。

「私は――ある名家の次男として生まれました」

「名家……?」  ヴェルナは小さく問い返した。

「家督を継ぐ立場ではありませんでしたが」 「その代わり、商業、経営、政治の基礎を徹底的に学ばされました」 「将来、家を支える“裏の人材”として」

 エリオットは苦笑する。

「ですが私は、その道を選ばなかった」 「与えられた立場ではなく、自分の力で生きる道を選んだのです」

「……だから、家を出て」 「商人として生きてきたのね」

 エリオットは静かに頷いた。


---

「それでも……」  ヴェルナは胸の奥に湧き上がる疑問を、はっきりと言葉にした。 「どうして、私を?」

 エリオットは、真正面から彼女を見つめる。

「あなたが特別だからです」

 その言葉に、ヴェルナの胸が強く脈打つ。

「困難から逃げず」 「立場に甘えず」 「誰よりも、領地と人を大切にしようとする――」

「あなたのその姿に、私は心を打たれました」 「だから、あなたを支えることを選んだ」 「それに理由は……それだけで十分でしょう」

 ヴェルナは言葉を失った。
 胸が熱くなり、視界が少し滲む。

「……ありがとう、エリオット」

 震える声で、彼女は言った。

「あなたの過去がどんなものであっても」 「私を助けてくれた事実は変わらないわ」

「私は、あなたを信じている」

 エリオットは、深く安堵したように微笑んだ。

「……ありがとうございます、ヴェルナ嬢」 「これからも、あなたの傍にいられることを誇りに思います」


---

 その夜、ヴェルナは自室で一人、窓辺に立っていた。

(エリオットは……)

「私にとって、特別な存在」

 その想いを、まだ言葉にはできない。
 けれど、胸の奥で確かに育っている。

 一方、エリオットもまた、夜空を見上げていた。

「彼女は……」 「私が仕えるに値する人だ」

 そして、
 それ以上の感情が芽生えていることを――彼自身も、否定できなくなっていた。


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