婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第39話 逆襲の幕開け

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第39話 逆襲の幕開け

 セザールの陰謀が、ようやく輪郭を帯び始めていた。

 それは偶発的な混乱ではなく、明確な悪意をもって仕組まれた“計画”――
 領地の改革を内部から崩し、住民の不安を煽り、ヴェルナの信頼を失墜させるためのものだった。

 だが、ヴェルナはもう以前の彼女ではない。

(止めるだけでは足りない) (完全に封じる……二度と手を出せないように)

 その覚悟を胸に、彼女は反撃の準備を進めていた。


---

 その夜、書斎には張り詰めた空気が満ちていた。

 机の上には地図、報告書、証言の書簡が並び、エリオットが淡々と説明を続けている。

「セザールの手先たちは、住民の間に不安を広めるだけでなく」 「主要な供給路の一部を、意図的に妨害しようとしています」

「……供給路」  ヴェルナは資料から視線を上げ、眉をひそめた。 「それが止まれば、生活物資も、交易も滞るわね」

「はい」  エリオットは頷いた。 「表向きは“偶発的な事故”を装うつもりでしょう」 「ですが――」

 彼は一枚の書類を差し出した。

「すでに、証拠は揃いつつあります」 「妨害に関与した者、指示系統、不正な取引記録……」

 ヴェルナの目が、静かに細められる。

「……隠す気がないのね」 「いえ、隠せると思っているのでしょう」  エリオットは冷静に言った。 「こちらが気づかないと、過信している」

「なら――」  ヴェルナはきっぱりと告げた。 「その慢心を利用するわ」


---

 翌日、ヴェルナは信頼できる住民代表たちを集め、非公開の会合を開いた。

 供給路妨害の証拠が提示されると、室内にざわめきが走る。

「そんな……」 「まさか、あの貴族が……」

 だが、ヴェルナは感情に流されず、静かに語りかけた。

「不安になる必要はありません」 「すでに対策は整っています」

 その落ち着いた声に、住民たちは次第に耳を傾けていく。

「皆さんにお願いしたいのは、一つだけ」 「事実を、事実として受け止めてほしい」 「そして、共に守ってほしい――この領地を」

 沈黙の後、村長が一歩前に出た。

「……分かりました、ヴェルナ様」 「我々も、逃げません」

「ありがとうございます」  ヴェルナは深く頷いた。


---

 夕刻。

 ヴェルナとエリオットは、最終確認を行っていた。

「今夜、手先たちが動きます」  エリオットは地図を指でなぞる。 「現場を押さえ、証拠を確保」 「その後、速やかに公表します」

「関与している他の貴族は?」 「すでに洗い出しています」 「名前が出れば、彼らは一斉に手を引くでしょう」

 ヴェルナは迷いなく頷いた。

「……始めましょう」 「ここからが、本当の意味での決着よ」


---

 その夜。

 供給路付近で、調査団が動きを捉えた。

 妨害の現場、不正な物資、偽装された帳簿――
 すべてが“偶然ではない”ことを示す決定的な証拠だった。

 翌日、その情報は社交界に一気に広まる。

「これは……」 「セザールが、ここまで……?」

 疑念は確信へと変わり、非難の声が渦を巻く。

 かつて彼に肩入れしていた貴族たちは、次々と距離を取り始めた。

 ――そして、セザールは孤立した。


---

 結果を見届けながら、ヴェルナは静かに息を吐いた。

「……終わりの始まりね」

 感情的な勝利ではない。
 だが、最も確実で、逃げ場のない一手だった。

 その隣で、エリオットが微笑む。

「見事でした、ヴェルナ嬢」 「これで、彼は二度とあなたに手出しできません」

「ええ」  ヴェルナは小さく微笑んだ。 「守るべきものを、守っただけよ」

「それでも――」  エリオットは静かに言った。 「あなたは、立派な領主です」

 その言葉に、ヴェルナは一瞬だけ目を伏せ、そして答えた。

「……ありがとう、エリオット」 「あなたが傍にいてくれたから、ここまで来られたわ」

「これからも」  彼は迷いなく言った。 「あなたの力になります」

 逆襲の幕は、確かに上がった。


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