婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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48話:新たな生活の幕開け

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48話:新たな生活の幕開け


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 ヴェルナとエリオットが結婚式を終え、領地へ戻ってきてから数週間が過ぎていた。
 祝宴の余韻と慌ただしさがようやく落ち着き、二人は少しずつ――本当に少しずつ、夫婦としての日常に慣れ始めていた。

 変わったことは多い。
 だが、すべてが劇的に変わったわけではない。

 ただ、朝目覚めたとき、隣に誰かの温もりがある。
 それだけで、世界の見え方が少し変わった。

 ヴェルナはその朝、いつもより早く目を覚まし、寝室の窓から庭を見下ろしていた。
 朝露に濡れた花々が、柔らかな陽光を受けてきらきらと輝いている。

 その視線の先、テラスではエリオットが新聞を広げ、すでに一日の準備を始めていた。

「……早起きね」

 そう声をかけながら近づくと、彼は顔を上げ、穏やかな笑みを浮かべる。

「おはよう、ヴェルナ。今日は天気がいい。外で飲むコーヒーも悪くないと思ってね」

 彼の手元には、すでに二人分のカップが用意されていた。

 ヴェルナは小さく笑い、隣に腰を下ろす。差し出されたカップを受け取り、一口含むと、深く豊かな香りが胸の奥まで染み渡った。

「……こうして二人で朝を迎えるの、まだ少し不思議ね」

「そうですか?」

「ええ。でも……悪くないわ」

 そう答えた瞬間、胸の内に静かな幸福が広がるのを、ヴェルナは確かに感じていた。


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 その日、二人は新しく完成した領地内の施設を視察する予定だった。
 市場、公会堂、そして住民たちが集える広場を併設したその施設は、結婚後、二人が初めて“夫婦として”取り組んだ事業でもある。

 現地に到着すると、すでに多くの住民たちが集まり、笑顔で二人を迎えた。

「ヴェルナ様! 本当に助かっています!」 「この場所ができてから、商売もしやすくなりました!」

「そう言っていただけると嬉しいわ」

 ヴェルナは一人ひとりの声に耳を傾け、丁寧に応えた。
 エリオットもまた、控えめながら誠実に住民たちと会話を交わし、その姿勢は自然と信頼を集めていた。

 二人が並んで歩く姿は、もはや“領主と補佐”ではない。
 人々の目には、確かに“この地を共に治める夫婦”として映っていた。


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 視察の最後に、二人は丘の上の展望台へ足を運んだ。
 そこから見渡す領地の風景は、豊かな自然と人の営みが穏やかに溶け合い、いつ訪れても心を落ち着かせてくれる。

「ここから見ると……本当に、多くのものを背負っているって実感するわね」

 ヴェルナは風に髪を揺らしながら呟いた。

「守るべきものが、これだけある」

「ええ」

 エリオットは静かに頷く。

「ですが、あなたはもう一人ではありません。これからは――私も一緒です」

 その言葉に、ヴェルナは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
 不安が消えたわけではない。責任が軽くなったわけでもない。

 けれど。

「……ありがとう、エリオット」

 彼と共に歩む未来を、心から“選べている”と、今なら言える。


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 夜。
 屋敷の庭で、二人は静かなディナーを楽しんでいた。星空の下、昼間の喧騒が嘘のように穏やかな時間が流れている。

「今日、住民たちの笑顔を見て思ったの」  ヴェルナはグラスを手に、静かに言った。 「この場所が、誰かの希望になっているなら……それだけで、私は頑張れるって」

「あなたは、すでに多くの人の希望です」

 エリオットは迷いなくそう言い、グラスを掲げる。

「そして私は、その希望をあなたと共に守りたい」

 軽く触れ合うグラスの音が、夜に溶けていった。

「……ええ」  ヴェルナは微笑み、静かに応えた。 「これからも、一緒に歩んでいきましょう」

 新たな生活は、まだ始まったばかりだ。
 だが、その一歩は確かに、未来へと続いていた。


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